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[一章]疑惑の教科書【後編】

後編投稿できました!

同日20時校門前


僕らはそれぞれ学生服のまま支度をして、待ち合わせ場所に到着した。

雅哉を見ると、何か細長いものを持っているようだったが、布に包まれていてよく分からない。


「これか?」


僕の視線に気づいたのか、雅哉がそれを見せてくる。

なんと、バールである。


『いや、さすがにこれはダメでしょ・・・・・・・』


確かにホラー系での最近の探索(と言っていいのだろうか)には必須(?)かもしれないが、今日行くのはいつも通い慣れたはずの学校である‥‥‥‥多分

そもそも、時間外とはいえ警備の人がいるはずで‥‥‥あれ


『そういえば、先輩はどうやって学校に入ったんだろう。』


「そうそれ。気になって聞いてみたら、警備のおっさんいなかったから勝手に入れたって言ってたぞ。ノートには一応記帳したみたいだけど」


『まぁそれなら‥‥‥』


言いかけて気づく。

警備員さんに確認を取ったときには、先輩の文字はどうなっていたのだろうか。

そう尋ねる前に、雅哉はさっさと進んでしまう


「置いてくぞー」


さすがに20時とはいえ一人で置いて行かれるのは心細い。

小走りになりながら、二人学校の中に突入(?)していく。


「とりあえず警備のおっさんいねぇな」


雅哉が言う通り、警備のいつものにこにことした笑顔が特徴のおじさんは見当たらない。

時間外の帳簿が出ているだけだ。


ページをめくってみる。

過去のページは子供の落書きのようになっていてとてもじゃないが読めたもんじゃない。

雅哉は


「うっへ、ねみぃときの俺の字のがまだマシだ。」


と、さらさら読む気が起きなさそうだ。

僕が読んでみても、さすがに訳が分からずバカバカしくなってページを軽くパラパラとめくってみる。

そして、はたと手が止まる。


『雅哉』


バールで遊び始めた雅哉を呼ぶ。

一瞬不機嫌になった顔は、僕の示すところを見て訝し気に変わる。


「な、んだ、これ。」


そこには、しっかりとした文字で書かれた名前の一覧があった。

それ自体は問題ではない。

とあるページに、赤黒い液体が飛び散ったような跡があったのだ。


「う、げぇ‥‥っ‥」


雅哉はそれを見て気分を悪くしたのか、軽く吐き気を催したようだった。


『大丈夫か?』


問うと、顔面蒼白になりながら


「おまえ、は‥‥‥いや、いい、だいじょうぶ、だ‥‥‥‥」


何かを言いかけながらも、こちらを気にかけてか笑って見せる雅哉。

バールを杖代わりに少し休んでもらうことにした。

その間に最後までページをめくってみると、雅哉の言った先輩の名前があるのを見つけた。


『雅哉、先輩の名前あったよ。こっち?にはちゃんと書かれてたみたい。

僕らのも一応書いておこう』


了承を取り、名前を書く。

ふ、と思う。


—————この文字は、いつもはどう見えているのだろうか。


浮かんだ疑問を振り切り、少し回復したらしい雅哉とともに校舎の中へ入る。



一瞬、生暖かい空気が流れたような気がした。



「空気、悪ぃな‥‥‥‥‥‥‥‥」


雅哉が言う。確かに、時間帯が違うだけでこんなにも校舎の雰囲気とは変わるものなのだろうか。

それとも、何かが起きる前兆なのか。

少しだけ気分が高揚している自分に気づき、思う


(もしかして僕は、こういう非日常のようなものを求めていたんだろうか。)


親に特に叱られたこともない。提出物で文句を言われることもない。(雅哉は常習犯だけど)

たばこや酒、ドラッグなんてもっての外、教科書やコンビニなどの売り場でしか見たこともないし、バイトもしたこともない。

非常に恵まれた家庭に生まれ、非常に恵まれた育ちをしていると言えるだろう。‥‥‥‥友達もいる事だし。

逆に雅哉は少しだけそういうスリルを味わう行為をすることがある。

まぁ、買い食いだとか、バイトをするだとか、カラオケに行ったことがあるらしいだとか、そんな程度の事らしいが。

そんな程度の事すらしてこなかった僕にとって、それらは少しだけうらやましいことだったのかもしれない。


(帰ったら、今度雅哉とカラオケに行ってみよう。ゲーセンにも、たまには付き合ってみよう。)


そう思った。


「祐樹、何にやついてるんだよ‥‥‥こちとら空気が悪くて気持ち悪いってのに」


雅哉に声をかけられて、ハッと我に返る。今朝もこんなことがあった気がする。

いくら学校探索とはいえど、先生と鉢合わせない可能性もないわけではないし、気を引き締めていかないと。


『悪い。えっと‥‥‥‥‥雅哉の携帯は一階の職員室だよな?で、僕が教科書を置いたのは、三階の教室、と。

‥‥‥‥どうする?』


雅哉の体調を考えると、早めのほうがよさそうだけど、分かれて先生にどちらかだけが鉢合わせしても気まずい。

どういようか考えていると、雅哉が言った。


「とりあえず、三階までは一緒に行こうぜ。教科書の状態も確認したいし。」


先程よりマシになった顔色を見て、その案に乗ることにした。


コツ、コツ、と二人分の靴音が響き渡る。


『なんだか探検みたいだな』


僕がそういうと、雅哉は苦笑した。


「俺はいま絶賛後悔中ってとこだけどな。」


二人で笑いあいながら、教室までたどり着く。

いつもより暗い教室の明かりをつけるかどうか悩んだ末に、人の気配もなかったことだしと明かりをつけると、今日僕が忘れた(置いていったともいう)教科書があった。


教科書を見てみると、いつも通り読めるようだった。

特に反転しているといった様子もない。


『なんだ、普通じゃ』


そう言いかけた僕の口を、雅哉が塞ぐ。

なんだと目で問いかけると、外から足音が聞こえることに気が付いた。

まずい。見回りの先生か?


「祐樹、いったん隠れてみよう」


雅哉が緊張した面持ちでそう言った。

僕は頷いて、


『明かりは?』


と聞いてみた。


「下手に消さない方が、誰かの消し忘れだとでも思ってくれるだろ。」


それに納得して、僕らは机の下に隠れる。

そのまま二人息を殺して足音の行く末を待った。

足音は教室の前を素通りし、段々と遠ざかって行った。


『いった、みたい?』


「あぁ、でも警戒はしておいたほうがいいだろ、携帯、俺一人で取りに行ってくるわ」


『大丈夫か?』


心配になって尋ねるが、雅哉は首を横に振った。


「ここで待っててくれ、一人の方がばれずに動きやすいし。携帯の通知は切っといた方が良いだろ」


そう。念のために備えて今回は僕も携帯を持ち込んでいるのである。

頷き、音をたてないようにドアを開け、雅哉を見送る。


「バイブが鳴ったら校門前集合な」


そう言って雅哉は物音をたてないようにしながら階段を下りて行った。

それを見送り、息を殺しながら待つ。



先程まで二人でいたからか高揚していた気分は、いつの間にか落ち込んで恐怖に苛まれ始める。

3分が経つ。そろそろついていてもおかしくない。形態を握りしめ、じっと待つ。

3分が何時間にも思えたのはこの時くらいだと思いたい。


(雅哉、まだかな‥‥‥‥)


携帯で何度も時間を確認する。10分が経った。

流石にいくら何でもおかしい。

普通にここから職員室まで歩いて1,2分。

ゆっくりものおとたてずに3分。

いくら探すのに手間取ったとしても、10分もあれば帰ってきてもおかしくない。


(探しに、行こうか‥‥‥‥‥‥)


そう思い始め、立とうとした瞬間に、教室のドアがガラッと大きな音を立てて開けられた。


(雅哉?!)


そう思い、立ち上がりかけたが、沈黙する携帯を思い出し、じっと息を殺して待つ。


沈黙が辺りを支配する。

じっとりとした嫌な汗が流れ、ぽつりと地面に落ちかけたその瞬間


「さっさと出てきて。」


可憐な声がした。



ガタンッ‼



思わず飛び上がりかけ、机が大きな音を立てる。


(まずっ‥‥‥?)


気配は動かない。

こちらの動きを待っているのだろうか。


暫くしてから、そうっと机の下から這い出る。

すると、見慣れぬ小柄な女子生徒がそこにはいた。


「ここにいられると迷惑。早く出て。」


彼女は僕を見てそう言った。

確かに一理ある。明かりのついた教室が一つだけ。見回りの教師が来ていてもおかしくは‥‥‥‥



見回りが、来ていない。



先程、足音がしたはずだ。『教員の見回りと思われる足音』が。

教員なら、見逃すだろうか。明かりのついた教室を。

いや、見逃さず、消してから離れるはずだ。


では、先程の足音は?


そんなことを考えていると、目の前の彼女は不機嫌そうに言った。


「いつまでそうしているつもり?」


『あ、いや‥‥‥‥』


慌てて立ち上がり、電気をどうするか彼女に目線で問うてみる。

好きにしろ、と言われた気がしたので静かに消しておいた。

そして、その判断をすぐに正解だったと体感することになる。


ベタ、ベタッ


階段のほうから、不可解な音がした。

思わずそちらの方を見ようとしたが、彼女に手で制止される。


「見ちゃダメ。耳塞いでじっとしてて」


有無を言わさぬ口調でそう言われ、思わず従う。


30秒ほど経っただろうか。


「もういい。」


彼女の声がした。

そっと目を開けると、先程と変わらぬ無表情な顔がこちらをのぞき込んでいた。


『わぁっ?!』


「うるさい。」


声をあげてしまい、怒られた。

表情がわずかに不機嫌そうに変わる。


『えっと、君は』


「帰るならさっきの階段はつかえない。こっち」


誰かと問う前に言葉をさえぎられる。ただ、これだけは伝えねばといつの間にか手を引く彼女に


『職員室に、友達が向かったんだ』


舌打ちが聞こえた気がした。気のせいだと思いたい。

多分下級生?らしい子に先導されて呆れられる先輩ではありたくないはずなんだけど。


「なら、早くいく」


手をしっかりと掴まれて廊下を走る。この子、思ったより足が速くて追いつくのが大変で何度か転びかけた。(多分気づいていただろうけど気にかけてくれていないらしい)


走って職員室の前まで行くと、あるものが目に入った。

雅哉のバールだ。


ただし、血に塗れている。


『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥え?』


理解できず、思わずフリーズする。

学校で、流血沙汰なんて起きるはずがないし何でここにバールがどこかひしゃげている気がするしそもそも持ち主の雅哉がどこにもいなくてこれは見まわりの先生雅哉がいないさっきの足音の持ち主は誰このバールの持ち主誰何に使われてこんなことになってあかいのはきっとなにかついているきがするくちのなかがにがいまさやがいないどこにいったしょくいんしつひとりでいかせたからなにかあったかもふしんしゃさっきのべたつくおとなまあたたかいくうきまさ


バチンッ‼‼


頬を叩かれたということを理解するのに10秒かかった。


「呆けている暇があるならその友人を探しなさい早く。」


相も変わらずこちらの精神状態を鑑みないその様子になぜか少しだけ安堵してバールを持ち上げる。

嫌でも認めるしかない。


何かが起きているのであろうこと。

今この学校には《何か》がいて、雅哉はそれから逃げて丸腰であろうこと。


よく見ると、血痕が跡になっている。すぐ近くのPCルームに向かっているようだ。


『あの』


「早く案内して」


何も言わせてもらえなかった。

了承を得ることができただけマシか。

そのまま速足でPCルームへ向かう。

だんだん多くなる血痕を見ないふりして。


PCルームの扉は半開きになっていた。

中へ入ると、鉄錆のような濃いにおいが辺りに充満していた。

そして一台だけついたPCと


雅哉がいた


いや。


雅哉が、あった。


バールなんかより太い鉄柱のようなものが腹部に突き刺さっており、左手以外の手足がもがれてうつろな目を虚空に向けた雅哉の姿がそこにはあった。


びちゃびちゃという音と、口の中いっぱいに広がる不快感のある酸味で自分が吐瀉したことに気が付いた。

雅哉の携帯は近くにあった。どうやら半分壊れているらしいが、明かり程度には使えそうだった。


雅哉の携帯を拾い上げ、ポケットにしまう。

そして口元をぬぐい、同行人の彼女の方を見たが、彼女の感情はその無表情からは読み取れなかったし、自分の感情もよく分からなかった。ただただ頬を伝う生暖かい液体が親友を喪ったことに対する哀しみの感情の表れだと信じたかった。


雅哉のすぐ近くに一台ついたPCの画面にはこう書かれていた。

キーボードについた液体から、雅哉からのメッセージであろうことが分かった。


“かえる ばけもの にげろ いきt”


『自分の、ことを、心配しろ、よ‥‥‥‥』


手遅れだったのであろう事は分かった。

ただ、あふれる思いが止まらなかった。

このまま感傷に浸っていたかった。

目を閉じて雅哉に黙祷を捧げようとしたその瞬間、



ベチャリ、ビタリ、グチャリ、


そんな音が、出入り口の方から聞こえた。


反射的に振り向くとそこには窮屈そうに扉をくぐる、カエルを限界まで醜くしたが口から沢山の触手を生やしているような、そんな化け物がいた。


声が出なかった。


ただ、幸いというべきか化け物は目が見えないのか、こちらを見ずに通り過ぎようとしているようだった。


ピルルルルルルルルルル


ポケットに入れた雅哉の携帯から、大音量の着信音が鳴り響いた。


時が止まったかのように感じた。


化け物はゆっくりとこちらを振り返り、耳障りな鳴き声のような音を発した。

それはまるであざ笑っているかのようで。

嗤った化け物の口から落ちたそれを、僕は見てしまった

雅哉の、欠けていた四肢

その、理由


何か致命的なものが壊れた気がした。


永遠に戻れない場所に足を踏み入れた気がした。



それでも、いい気がした。


制止の声が聞こえた気がした


誰かの叫びが聞こえた気がした


バールを振りかぶる


グチャリとしたそれは、うめくような鳴き声を上げた気がした


バールを振りおろす


肉を叩いて柔らかくするってこんな感じなのかなとふと思った。


バールを振りおろす


自分からぴしりという音がした気がした


バールを振りおろす

バールを振りおろす

バールを振りおろす

何度も、何度も

この肉塊が無くなるまで、そう願って。

自分の嗤い声が聞こえた気がした

なぜだか楽しくなってきたような気がする

バールを振りおろす


ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、ずっと、?


べたり


びたり


びちゃり



なぜ、一匹だと思い込んでいたのだろう


なぜ、ここから逃げなかったのだろう


自分の下で肉塊と化した化け物より大きな個体たちが職員室から出てきた。


それらはこちらを見て鳴き声を上げた。


怒っているかのようだった。


先程まであれだけ復讐心に燃え滾っていた精神は恐怖へと一気に支配され



ドスッ



自分の腹部を見る


鉄柱のようなものが生えている?


先程の雅哉のことを思い出す


そして化け物たちを見て、口元から溢れ出る錆のような味の液体を感じて


自分の末路を察した脳は理解することをやめ


「ストップ。」


可憐な声が聞こえた。


目線を室内へ向ける


大きな、彼女の背丈に似合わない影のような鎌を構える彼女を見た。


なんだか、地味な彼女がとても美しく感じた気がした。


そこからはよく見えなくなっていった。


ただ、可憐な死神が舞っている姿を見た気がする。


僕の脳はもうこれ以上の思考ができそうになかった


いつの間にか化け物の声は聞こえなくなっていた。


自分の終わりを感じた。




そして事が終わった後、地味に見えた『透き通った空色の髪と瞳の少女』は、こちらを振り返って言った。


「どうしたい?」


『ぼくは、もう、だめだろう、?』


「うん。助からない。」


『なら』


雅哉には、悪いけれど。

少しだけなら、やり返せたと思う。

願い、かなえられなくて悪かったなと思いながら、

呼吸の漏れる喉を何とか使って声にする。


『ころしてくれ』


僕の願いを聞いた彼女は、無表情に頷いた。


「目は、閉じておいたほうがいい。」


僕が目を閉じた後のことは分からない。

彼女の表情も、きっと変わらず無表情だったんじゃないかと思いながら。

あぁ、それにしても


何で彼女を地味だと思ったのだろうか。


最期に目を閉じる前に見た、影のような鎌を振りかざす少女は


まるで、天使みたいに綺麗だと、そう思った。



そうして僕は——————




(あぁ、彼女に最期に、ありがとう、って、いえなかったな)




疑惑の教科書-END-

思った3倍は長くなりました初めの1話です。

彼らは救われたのか。

まだまだ本作の主人公が全く喋ってませんからね、これからだんだん喋れるシナリオが増えていく予定です。

最初は短編から、長編も予定してますのでどうぞお楽しみにしてくださると幸いです。

BADENDなのは実は珍しくて、モブの子でも救われる子は多くいる(予定)はずです。

その話だけの登場のモブの子達にも愛着はあるので好かれるといいなと思ったり。

ちなみに作品は作者たちが行ったシナリオ通りに大体進んでいます。

なので出目によってはありえないシナリオもあったり・・・・・

さて、今回はこの辺で、次は合間に主人公ちゃんがしゃべります。次のシナリオもすぐかけるといいな

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