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[三章]桜の舞う戦場【終章】

年内に何とか書ききりました!!

平和そのものの日常編、大好きです。



私が気を失っている間に、内亜は吞み込んで眠らせていた街の人間達を吐き出し、戦闘 (レジーナの反動)でぼろぼろの私をシェリーのいる拠点へと運び込んでくれたらしい。

耳は鼓膜が破れてしまっていたみたいで、内亜が術式で治してくれたけれど、ちょっとだけ聞こえずらさが残っている。


「‥‥‥‥‥‥で、街の皆を内亜さんの影にしまって保護している間に、葵は雲よりも背の高い神様と戦って追い返したと。」


シェリーが腕を組む。


『まぁ、そんなところ。とりあえず街への被害は最小限に抑えられたとは思うよ。』


私はシェリーに報告をしながら、とどめの一射の事を思い返す。

シアエガが浮かんでいてくれたから街への被害は出なかったようだったけれど、一歩間違えたらあの一射で隕石のようなクレーターを残してしまうところだった。


「神様との戦いなんて想像もつかないけれど、犠牲者を出さずに街を守ってくれてありがとう。ところで、その戦いの痕跡についてなんだけれど。」


そう言われて怒られることを覚悟して身を縮こまらせていると、降ってきたのは意外にも優しい言葉だった。


「あれ、桜の花びらみたいだって。一夜の奇跡だってみんなお祭り騒ぎだよ。」


そう言われて窓から街の外を見る。

シアエガの触手から建物を守るために展開したプリズムの欠片が一面に積もっていた。


私は目を瞬かせる。

シェリーが手に握りこんでいた何かを差し出して見せてくる。それは、攻撃を受けて砕けたプリズム片。

見ようによっては桜の花びらのようだと呼べなくもない。


『情報統制は大丈夫なの?』


つい心配になってしまい、シェリーに問う。


「シリアージョファミリーのお祭りだってことにしておいたよ。シリアージョって、桜って意味だしね。」


嬉しそうなシェリーを見て、なんだ、と肩の力が抜ける。

そういえば、依頼完了の報告をしていなかった。


『脅威であった神様も残党もいなくなったことだし、これで依頼は完了かな。』


捕らわれていた人たちも、人間でなくなってしまった人以外は皆帰ってきた。

これでここでやるべきことは終わった。建物への被害はなかったけれど、代わりに防御に使ったプリズム片が町中に降り積もっているが、後始末はシェリーが何とかしてくれるだろう。


「貴女達の活躍の話は街の人には説明できないのね。」


そうしょんぼりとするシェリー。


『別にそんなの気にしないよ。というより、あまり話はしないでおいてくれた方がいいかな。』


(昔の私を見た人がいたら面倒だし、異形の情報を一般人に与えるわけにもいかないからね。)


そう言うと、そう言うことなら‥‥‥‥と渋々シェリーは納得してくれた。

報酬の話になった時、シェリーから渡された金額は、最初に提示された金額よりも大きかった。


『お金、結構持ってる方なんだけど‥‥‥』


「いーのいーの。あのプリズム片、内亜さんがお守りになるって言ってたから、街のみんなに配ろうと思って。街のみんなへのお土産分ってことで追加分は受け取っておいて。」


そういわれると受け取るしかない。


あの後シダレやライムにもお礼を言われたし、ライムには大量の服を押し付けられそうになった。(さすがにそれは断ったけど)


『ところで、あっちは大丈夫なのかな。』


私がそう言うと、シェリーはついと目をそらした。


「さ、さぁ。話には私達は入るなって言われちゃったし、ねぇ。」


そう。内亜とヴァイスが現在一緒に話をしているらしいのだが、私達に聞かれたくない内容らしく、全く教えてくれず締め出された。


『全く戻っても来ないし、どうしたんだろ。』


「それまでどうしましょうか‥‥‥‥‥」


んー、と二人で考えた後に、この街を発つ前に、ということで街巡りをすることになった。


さて、どのジェラート店に行こうか。



————————————



「コンカイハアリガトウゴザイマシタ。」


『ん~?どしたのぉ片言でぇ。お礼言う時にはちゃぁんと言わないとって桜花言ってたでしょぉ』


「あ り が と う ご ざ い ま し た !」


やけになったヴァイスのお礼、録音してやろうかと思いながら煽ってみたけどやっぱり楽しい。


あの後、葵が眠っている間に、ヴァイスが僕に声をかけてきた。


何のことやらぁと思っていたら、俺の影の中にいたのが非常にゴフマンらしい。

というわけで現在教会の窓のこちらと向こうで話をしているわけなんだけれども。


「お嬢の事、街の事を守ってくださったことについては、その、まぁ礼を言いますが、俺まで入れる必要なかったじゃないですか。」


ま、確かに彼は天使だし、影に入れなくてもシアエガなんて別に脅威にならないかもしれない。


普通の天使なら、だけど。


『君、片翼なんだからそこのところしっかりとした方が良いんじゃないの。片翼ヴァイス君。』


そう。彼は翼が片方しかない。片翼の天使はその天使が持つ神聖力の総量が大きく減る。大体三分の一程度かな。

彼の神聖力の総量が今どれくらいかは知らないけど、昨夜、彼をしまっていなかったら、シアエガに敵対視されていただろう彼は無事じゃ済まなかったかもしれない。


「片翼片翼うるさいですね、俺だって好きで片翼になったわけじゃありませんよ。」


彼はそう言って突っかかってくる。はぁ、全く。守ってやったのに〜なんて思いながら空を見上げる。

嫌になるほど雲一つない快晴だ。こんな日には葵の影の中でゆっくりくつろぐに限る。

な・の・に。

この片翼君が話があるなんて言って連れ出したせいで俺は教会なんかの壁に背をもたれて空を見上げている。


ちなみに彼は浄化中とか言って教会の中から話している。助けてあげたのに。


『知ってるってば。からかっただけ。』


ため息をつきつつ足元の小石を蹴り飛ばす。小石は奇麗な放物線を描いてどこかへ飛んで行った。


「‥‥‥‥‥‥‥貴方は、大丈夫なんですか。」


『なぁに、急に。なーにがかは知らないけど元気元気ーって感じだよ。』


「‥‥‥‥‥すか」


『ん?壁越しだからわかんない。な~ぁに?』


「相当身体に負担かかったんじゃないですか。」

『何のことやら。』


つい、食い気味に答えてしまった。


「貴方から感じる魔力、微かに減ってますよね。総量が。」


『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ま~ね』


確かにその指摘は当たっている。

そりゃま、街丸ごと飲み込んで吐き出して、何にも反動ありませーんなんて都合のいいことは無いわけで。


『‥‥‥‥‥‥呑み込んだミ=ゴ達にほとんど肩代わりさせたから殆ど影響ないよぉ』


「嘘が下手ですね。」


『君もそれ言う?嘘じゃないですよーだ。』


そう言ってしらばっくれる。


ヴァイスの言うことは当たっている。

確かに、喰らったミ=ゴ達や信者達に負荷の肩代わりはさせたけれど、天使も呑み込んだからかは知らないけど、魔力の総量が多少減った。……葵には言うつもりないけど。


「シュブ=ニグラス」


驚いた。天使様からその名前が飛び出てくるなんて。


「彼女の知識、借りてみたらどうです。」


『‥‥‥‥あー、確かに。彼女なら俺の力何とかする方法知ってるかもね。でも、旧神との戦いで敗れてから彼女知能無くなったんじゃないっけ?』


「いえ、それでも大丈夫なはずです。フランスに、彼女の情報があるそうです。」


驚いた。ちょっとしたプレゼントくれるだなんて。


『どしたのさ、ツンデレってやつ?』


「いえ。助けられた結果、教会に入る事すらできなくなるほど弱り切った悪魔に何か仕返しをと。」


(バレてたかぁ‥‥‥‥‥)


「あと影繋いでください。それくらいならできるでしょう」


『んぇ?』


不思議に思いつつ、影をヴァイスと繋ぐ。

一瞬ビリッと来たので嫌がらせかと思ったが、何かが影を通じて渡されたので、ついついそれを見る。


『なにこれ。』


いや。これが何かは分かっている。

何故、ヴァイスがこれを俺に渡したのかが疑問なのだ。


「魔力が減ったなら補充すればいいじゃないですか。俺なら反発が来るでしょうけれど、契約者である葵様の物なら平気でしょう。」


そう。渡されたもの。それは、葵の魔力片を塊にして生成された魔力塊とでも呼ぶべきものだった。


『これ、精製すんのどんだけ大変か分かってる?』


「自分でやりましたから。」


無茶をして街を守った後、喪失感から魔力の総量が減ったのは感覚で分かっていた。


内心、焦る気持ちはあった。


あの時、守らなきゃよかったなんて思ったりもしたけれど。


葵が笑顔でいられるならそれでもいいやなんて思ったのに。


こんな風に助けられるとは。


『お礼、言わないからねぇ?』


「こちらとていらないですよ。さっさと回復してください。」


『‥‥‥‥‥これだから天使は。』


そう言いつつ、魔力塊を飲み込む。

魔力の総量が多少戻った。………全快とまではいかないけれど。


『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ありがとうねぇ!!!』


「はい。」


ヤケになって言う。

こいつ本当に天使かと思いつつ。


「それから、もう一つ用事があって呼びました。」


『なぁに』


「“ヴェント”ですよ。俺の本名。」


つい、黙ってしまった。

耳を塞ぐのが遅れたと気づいた時には、壁の向こうからため息が聞こえて、舌打ちしそうになった。


「天使の“本名”聞いても平気ってことは貴方もなんでしょう。」


『それがどーーだっていうのさ。』


「いえ。」


思わず舌打ちをする。聞くんじゃなかった。


「俺は、これからもお嬢を護り続けます。」


『そりゃそうだろうねぇ。あの姿見た時気づいたよ。葵には言わなかったけど。』


「ありがたかったです。あれは素直に。」


『んで?俺に何が言いたいのさ』


「何かあったら、頼ってください。応じます。今回助けられましたし、まだ知られたくない事、黙っててくれましたし。」


そう、ヴェント‥‥‥‥めんどいや、ヴァイスは言った。


『あ、そう。呼ばないとは思うけどぉ。』


「はい。」


『ちゃぁんとオジョーサマには言うんだよ、瞳の事。』


「‥‥‥‥はい。」


なんか借り作るのが嫌で、俺は言った。

天使の髪色は力の持つ属性の色。

天使の瞳の色は、全てを捧げると誓った主人の魂の色に染まる。それを主人に伝えるのが気恥ずかしいからと言ってヴァイスはまだ黙ってるみたいだけど。


『風の力に桜色のオジョーサマ、ねぇ。』


葵の魔力片も桜の花びらみたいだと言われているし、今回の戦場は本当に桜舞う、色んなことがある事件だった。


きっと、今回のように葵が一人で戦えるようになっていくことも増えるだろう。


その時に、自分がいられないことも多くあるだろう。


護れないことだって、たくさんあるだろう。


でも、契約したからには運命を共にするのが契約者だ。


俺は、なんだかんだ言って葵を裏切ることは無いんだろうなとは、思う。


でもま、いっか。


『んね、ヴァイス』


「なんです」


不機嫌な声が返ってきた。


『葵おすすめのジェラート店、行ってみなぁい?』


何の気なしに誘ってみる。


「今度は何企んでるんですか」


『いんや?メロン味が有名なジェラート店があってね?』


「俺その味嫌いだって昔にも言いませんでしたっけ」


『覚えてたか』


「いいでしょう戦闘なら付き合いますともとことん」


『戦闘はもういいよぉ、どぉ~せ泣きべそかくの君でしょぉ』


「クッソ魔力塊精製するんじゃなかった」


『あっはははぁ、ざぁんねん~』


なんて話をしながら結局出てきてついてくるあたりわんこの素質があると思うんだよね、彼。


ま、今回くらいは奢ってやったっていいかなぁ。たんまり報酬貰ったし。



——————————



『葵、あれ』


「ふぇ?」


あのあと私達はいろんな話をして、葵のおすすめのジェラート店に到着した。

でもそこにいたのは


「ヴァイスと、内亜、?!」


そう。内亜さんとヴァイスが一緒になってジェラート店に並んでいたのであった。


『いつの間にあんなに仲良く?』


「シェリー、アレ喧嘩してる。仲良くしてない。」


『いや、でも喧嘩するほど仲がいいというか』


「‥‥‥‥‥それはあるかも」


葵はクスッと笑う。私もそれを見て、つい笑ってしまった。


『ね、声かけてみない?』


「や、でも観察するのもあり‥‥‥‥」


そんな感じで話をしていると、ヴァイスたちと目が合ってしまった。


結局その後合流してみんなでジェラートを食べたのだが、まぁいつの間に仲良くなったのか内亜さんとヴァイスの喧嘩がひどくなって店から追い出されてしまった。


「面目ないです‥‥‥」


しゅんとするヴァイスと、ケラケラ嗤う内亜さん。を軽く蹴る葵。

なんとも平和な光景が、そこにはあった。


「葵、そういえば今度の行先フランスがいーな」


「珍しいね、内亜から言ってくるなんて。良いけど。」


話の最中、そんな話が出てきた。


『もう行っちゃうの?』


私はつい葵に聞いた。

葵は少し考えるようなしぐさを見せた後、頷いた。


「うん。一か所に留まってると、覚えられちゃうから。」


そうだった。彼女達は都市を殆どとらないと聞いた。

確かに目立つ外見ではあるし、仕方ないのかもしれない。


『そう、ですか。』


けれど、声が沈むのを抑えられない。

すると、葵が耳元でささやいてきた。


「大丈夫。また来るよ。“桜”。」


先程教えた本名で呼ばれて思わずバッと顔を上げる。

すると、自分の持っているジェラートが鼻についてしまい、焦って拭う。


『絶対だからね?』


私が言うと、葵は微笑んだ。


「うん。約束。」


表情の変わりにくい葵だけれど、こういう時は同姓でも惚れ惚れしてしまう。


お母様から教えてもらった、日本の約束の儀式、指切りげんまんをしてから、私達は一度ファミリーの拠点に戻った。


葵たちはそのまますぐに出発してしまったけれど、きっと次会う時には立派なボスになっていようと心に決めた。


『またね。葵』





さてこれから一章書いて寝て起きたらというか今もう2021年が終わろうとしています。

皆様どうぞこれからもよろしくお願いいたします。

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