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[三章]桜の舞う戦場【ⅩⅢ話】

13話ですよ‥‥‥‥長くなりました。神格との戦いです。


『あー、えー、なんでシアエガ?』


現実逃避がしたいができない。したら世界が終わりかねない。

シアエガという存在はクトゥルフ神話においては本体はドイツ西部の小さな町で封印されているはず。

神格とはいえ、転移の技術を持っているわけでもないあれがなぜこんな遠く離れたイタリアに顕現したのだろうか。


「さっき吞み込んだ中にあったミ=ゴの研究資料によると、ドイツじゃなくても生贄捧げれば降りてきてくれるんじゃないかって考察だったよ。こいつが他所でも召喚できるかどうかって言う実験の結果があれでしょ。」


吞気に内亜が言う。


『解説どうも!で!解決策はあるんでしょうね!?』


「えー‥‥‥‥気合、努力、根性!とか?」


『じゃあ内亜の根性で何とかしてくれるんだね!!』


目の前の脅威の解決に役に立たない情報のやり取りをよそに、標的を定めたシアエガはうごめく闇の塊から五本の触手をこちらに向かって伸ばしてくる。


内亜を大鎌へと変えさせ、プリズムを足場に跳躍し、一本の触手に斬りかかる。


『か、った!!』


空中では姿勢が安定せず、思うように鎌を振るえない。

刃が浅く食い込み闇色の体液が染み出すが、切り落とすまでには至らない。

流石というべきか神格は格が違うというべきか


『内亜、翼出して!』


適当な建物の屋根に着地する。

焦って援護を求める私に吞気そうな声が返ってきた。


「街の人間しまって守ってるので容量いっぱい~。翼出したり鎌の強化やるなら何人か吐き出すけど?そうする?」


いつもなら、ここで私は犠牲にする人間を何人か出していただろうし、そもそも内亜に街の人々を守ってもらっている事自体が異例だ。

犠牲を出す選択肢を取るか私にわざわざ確認するということは、きっと内亜は分かって聞いているのだろう。


『全員、守ってて。』


「りょーかい、葵。任せて。」


そう言われて私は、シアエガとは逆の方向へ鎌 (内亜)を放り投げた。


「んえ?!葵?!」


珍しく驚いた声を上げる内亜。

その声をシカトして、影の中からレジーナを背にジェミニを両手に装備する。


「葵、流石に無茶だって、俺のサポート無しで戦えるレベルの相手じゃ———」


『私だって悔しい。』


街ごと叩き潰すように振り下ろされた闇色の触手をプリズムを大きく広げて盾にし、何とか防ぐ。

内亜には闇に紛れて気づかれていないのか、それとも同族だと認識されているのか遥か上空の瞳は変わらず私に向けられている。


「葵、」


内亜が呼ぶ声がする。


知っていた。


内亜が私を守れなくて自分に怒っていた事。


知っていた。


今までの戦闘で内亜が私の意志をずっと尊重していてくれていたこと。


知っている。


内亜なしの私はまだ神格と一人で渡り合うには難しいこと。


知っている。


内亜がずっとそれを補ってきてくれていたこと。


知っている。


内亜が私を守ってきてくれていたこと。


『私だって、知ってるんだ。』


内亜が、私が思うのと同じくらい、私を大事にしてくれちゃってる事。


シアエガの触手から自分と街の建物を守りながら、隙を見てジェミニやプリズム片で攻撃を加える。

手ごたえはあるが、かすり傷程度のダメージらしく、怯むどころか気に掛ける様子もない。

確かシアエガには特定の攻撃が通りにくい性質があったはず。

だったら、もっと強力な攻撃手段が必要になる。


(例えば、戦車でも吹き飛ばすくらいの火力とか。)


背負ったレジーナの重みを感じつつ、戦略を立てる。


月に並び立つ瞳を見据えながら、目標地点に向けて屋根の上を駆ける。


私に向けて振り下ろされる触手が建物を壊さないように、プリズムの盾を広げて防ぐ。

巨大な塊を造るのは魔力操作が大雑把でいいから楽だけれど、砕けたプリズム片が雪のようにその建物に積もる。


大きな力を込めて作ると、消えるまでに時間がかかるようになる。いつもだったらすぐ消える欠片も、これだけ大きいと人間の一生分くらいの時間は残り続ける。シェリーになんて言い訳しようと思わなくもないが、街を守るためには気にかけている余裕はない。

そう思いながらもまたいくつものプリズムで建物を守り、駆け抜ける。

ある一点を目指して。



——————————



放り投げられた後、鎌の形からいつもの姿に戻り、石畳の上に降り立つ。

星明りを覆う巨大な闇の塊が振り下ろす触手を、刹那に煌めく光で受け止め街を守りながら戦う契約者の姿を見る。


近付いてきた触手にジェミニで反撃しているけれど、有効打にはなっていない。

シアエガには貫通系統の攻撃が効きにくいはず。

さっきから守りに使っている巨大なプリズム片で攻撃したらいいのにと一瞬考えるが、街と自分の身体を守りながら大規模な攻撃を行う隙はなさそうだ。


手助けがしたいところだけれど、下手に動いたらシアエガの視線は俺の方に向いて攻撃がこちらに来るかもしれない。

そして、先ほど言った通り影の容量は残り少ない。


(約束なんてもの、守らなくてもいいけど、)


そう思いつつも足が止まってしまうのは、葵が望むことを知っているから。

葵やシェリーとの約束のせいでここから動けそうにもない。


(つまり、俺は標的にされたらめっちゃくちゃ危険ってこと。)


本来なら、今回怪我をさせた葵に無理をさせたくはない。けれど


『任せるしかない、か‥‥‥‥』


ぽつりと呟く。

無力感を感じ、つい八つ当たりに何かをしようとしてしまうが、きっとそれに意味は無い。

だから俺は、葵を見守りながら願うしかない。


(怪我なんかしないでよね、全く。)


それにしても、葵はどこを目指そうというのだろうか。

ついと視線を向け、


「あ。」


目的が分かった。


葵が目指す場所、そこは————



——————————



『やっと着いた、っ』


私が目指してきた場所、それは教会の鐘撞堂。

全速力でシアエガの振り下ろす触手を振り切り、そこへ飛び込む。

息を切らしながら闇に浮かぶシアエガを睨みつける。


『シアエガの高度は600m、距離は400m。ここからなら射程内。』


内亜がいる時みたいに呟きながら担いでいたレジーナを構え、月の代わりに浮かんでいる闇の中心で私を嘲笑するかのように見下ろしてくる緑の瞳に向ける。


魔力でレジーナを起動する。


制御なんて言ってられない、自分の防御もそこそこにありったけを、夜闇そのものを吹き飛ばすつもりで魔力を流し込む。


追い付いてきた触手がこちらへ伸びてくるが関係ない。


『吹き飛べ!!』


叫びながら引き金を引いた。


撃ち手の事も考えずに込めた魔力は手元で爆発したかのような衝撃を起こし、立っていられなくなる。


鳴り響いたはずの轟音は聞こえず、というか耳鳴り以外何も聞こえない。


反動をまともに受けた肩が痺れている。


ふらつく視界を気合でシアエガの方へ向け、どうなったか確かめる。


着弾したはずの位置は砲煙に包まれよく見えなかったが、巨大な闇の影が薄らいでゆくのが分かる。


どうやら、何とかシアエガの体力を退散値まで持って行けたようだ。


煙が晴れる。


いつの間にか夜が明け、朝焼けの空がシアエガの向こうから透けて見えた。


黒い影がものすごい勢いでこちらへ飛び込んでくるのが見え、咄嗟にプリズム片を構えるが、その正体が分かった瞬間に解除した。


「      !!」


飛び込んできた影、いや内亜が何かを言っているが聞こえない。


口をパクパクさせた後、私の反応がないことからか焦って肩を揺さぶる内亜。


『大丈夫、大丈夫だから‥‥‥‥』


そう言って髪をなでる。

サラリとしていて触り心地がいい。


内亜がなにか言っているが聞こえない。


どうしてだろうかと耳に手を当て、ぬるりとした感触に驚く。

手の平を見てみると、真っ赤に染まっていた。


どうやら、レジーナの音で鼓膜がやられてしまったようだった。


『内亜、鼓膜やられただけだから、』


なんだか泣きそうな顔してるなぁなんて思いつつ、安心させようと口に出すが、音が出ているのかわからない。


魔力の使い過ぎによって意識が遠のいていく。


何とか説明しようとしたけれど力が入らなくて、とりあえずⅤサインだけしておくことにした。


かすむ視界の向こう、内亜があきれたように笑うのが見えた。


神格を相手取るのも、何かを守りながら戦うのも初めてだったけれど。


両方達成できてよかったと、そう思った。


そして私は意識を手放した。





さて、これで三話(章??)は終わりとなります。

神格の中ではまだ戦いようのあるシアエガさんですが、体力は160あるそうです。

それだけの体力削るのってきっと普通のシナリオじゃできないことですよね。

ちなみに内亜か葵さんが退散の呪文を唱えるという手もありましたが、こっちだと無防備が過ぎるので使えませんでした。

もし今後出してほしい異形(クトゥルフに限らず)がいたら教えてくださいね、歓迎します。

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