[三部七章]日常⑤
「へぇ、あんたが。」
そう言って興味なさそうに作業を続ける伽羅繰。
ノワールから聞いていた人物像そのままで少し笑えてくる。
「見てるだけならいいけど邪魔はしないでよね。」
『大丈夫。あ、お菓子食べる?』
そう言って先日作ったお菓子を差し出してみるとちらりとこちらを見やって手を差し出してくる。
「手が汚れない物なら。」
『はい、マフィン』
「ん。うま。」
受け取って即座に食べる姿はまるで小動物のようで。
『もっといる?』
そう問いかけてみれば手を差し出される。
「ん。」
『ふふ。じゃあ沢山あげる。この間作りすぎちゃったから。』
そう言って大きめの袋を影から取り出して差し出す。
「多」
『だから沢山あげるって言ったのに。いらない分はノワールに渡して?』
「‥‥‥いや、いい。」
そう言って中身を物色し始める伽羅繰。
後日、ノワールに
「伽羅繰様に菓子を差し上げすぎです。」
と、怒られたのは内緒でも何でもないけれど。
『伽羅繰の反応は?』
と問うてみれば
「私の反応がまるで人間のようになったと‥‥‥‥成長したなとは言われました。それからお菓子の礼も。」
『そっか、良かったね。ノワール。』
「‥‥‥‥‥存じていたのですか?」
そう言われて何のことやらと首をすくめるとため息をつかれる。