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[三章]桜の舞う戦場【Ⅻ話】

あともう少し、走り抜けます。内亜が。



目が覚めると、こちらに来てから見慣れた天井がうつる。


不思議といつもより軽い体を起こしながら、相棒に声をかける。


『内亜?』


私が気を失った後どうなったか知っている筈だから。

呼びかけに応えるように影の中から相棒が顔を出す。


「なぁに、葵。」


いつもより愉し気な笑顔。なんだか嫌な予感がする。


『あの後、どうなったの?』


「ちゃあんと、全員殺したよ。」


なんとなくそれは分かっているのでそれは聞いていない。そして、内亜もそれをわかっているはずで。


「はいはい、ふくれっ面しないの。ちゃんとアジトも見つけたってば。」


内亜はくすくす笑った後に、私の欲しい答えをくれた。


「今から行く?」


『勿論。』


するりと影から姿を現す内亜。差し伸べられた手を取って窓を開ける。


辺りはすっかり暗くなっている。一体どれだけの時間が経ったのだろうか。


『心配かけてごめんね。』


「今度からは気を付けてよねぇ、脆いんだし。」


軽い口ぶりの内亜に手を引かれ、窓枠から一歩踏み出す。


一瞬だけ落ちるような感覚。そしてそのまま内亜が影の翼を広げ、夜空へ浮かび上がる。


『早く私も、飛べるようになりたい。』


「じゃあ、たくさん飛んで感覚掴まなくっちゃね。」


内亜が笑顔を向けてくる。

まるでピクニックにでも向かうような気軽さで、内亜は飛ぶ。


『うん。でもその前に、ちゃんとやるべきことがある。』


手を繋いだまま、私はぐっとこぶしに力を入れる。


「そうだね。さて、やっちゃおう。葵。」


これが最終ラウンドだ。




——————————




街のはずれのさびれた地区に建つ、使われなくなった建物の前に立つ。


「ここの地下だよ。」


そう言うと、扉に当てた手のひらに魔力を込めて爆発させる。

光も熱も伴わない、力の奔流が建物の半分と地面を大きく抉り、地下への入り口を作る。


(どれだけ怒ってたんだろうか。)


私が眠っていた間の彼を知らないから、吞気にそんなことを考える。


星明りに照らされたその空間は、巨大な魔方陣が床に描かれており、中央に置かれた祭壇の周りを囲う様にミ=ゴと人間が入り混じって乱暴な訪問者に視線を向けていた。


「な、っ、貴様ら‼」


ふっくら肥え太った、一番高そうな服を着た男が、祭壇の前で驚いた顔をしてこちらを見てくる。

祭壇の周りには大量のミ=ゴとローブを着た人物、そして


「やーっぱりねぇ。そんな事だろうと思った。」


祭壇の上には大量の金属製の筒が置いてあった。

しかし、それらはただの筒ではない。


一つの筒に一人の人間の脳みそが入った、グロテスクな代物だった。

彼らは大量に用意されたそれを供物に何かを召喚しようとしているようだった。


『シェリー連れてこなくって正解だったね。』


軽く地下に着地し、男の声には全く耳を傾けずに、私は祭壇に向かいながら言う。


「だぁねぇ。発狂しちゃってたかもねぇ。」


内亜は襲い来るミ=ゴへ、まるで挨拶をするように影の大鎌で薙ぎ払う。


『今日はやけに楽しそうだね。』


焦って逃げるリーダーらしき人間、それと同時に襲い掛かってくるローブの人影達の眉間を順番にジェミニで撃ち抜きながら私は言う。


「彼女にいい物貰っちゃってね。葵へのプレゼントになりそうだったからつい。」


ミ=ゴ達が内亜の正体を看破したのか、一転して逃げ出そうとするがそれを内亜は許さない。


「さ、この場にあるもの“全部”俺がもらうよ。葵。」


『お好きにどうぞ。』


私が許可を出した瞬間、部屋が黒で覆いつくされた。


まるで闇の中にいるような感覚だが、私は慣れているので問題ない。

そのまま逃げ場を失った人間へと問う。


『他のアジトの場所、分かるよね?』


「わ、わかりましたわかりました、いいます、いいますからどうかたすけて」


失禁したのかアンモニアのにおいが微かにする。

どうでもいいけれど臭い。


『それはカミサマに祈って。気まぐれに助けてくれるかも』


悲鳴をあげながら後ずさろうとする人間。しかし、しりもちをついたところから黒い影に纏わりつかれる。


「ぎゃああああああああああああ!!なんだこれは、なんなんだ、これはぁ!!」


『君が召喚しようとしていたカミサマと同じようなものだよ。うるさいな。

ミ=ゴ達と協力してるならこれくらい慣れて?』


私は耳を塞ぎつつ、醜いその様を見る。


「葵ー、情報吐きそうにないならそれ、食べちゃうよ?」


内亜が言う。

一瞬だけ考えたが、よくよく考えなくても私もこの人間を生かす価値を見出せない。


『いいよ。』


瞬間、影の空間中に響いていた悲鳴が消え、ここは無音の空間と化した。


「はー、ま、新鮮に保存しててくれたから今度なんかの異形と交換にでも使えるでしょ、あの脳缶。」


しゅるりと影が内亜の足元へと収まり、部屋は元の(天井に穴が開いてしまっているので元のとは呼べないかもしれないけれど。)夜の色を取り戻した。


『結局、何の神格を呼ぼうとしてたのか分からなかったね。』


「ま、他のアジトあるかもしれないし探してみようよ。」


そんな風に話していると、急に空から星の瞬きが消えた。


『ん』


見上げると、空を横に裂く巨大な一筋の線があった。


なんだか嫌な予感がする。


「葵ー、間に合わなかったっぽい。」


内亜があはは~と笑いながら言う。


『説明』


「あ、えっととりあえず特権特権。葵ー、街飲み込んでおくから安心して」


そう言って影を一瞬でシリアージョの管轄と言われた地区全体を飲み込む内亜。

恐らく町中の人々を飲み込んだんだと思う。


『え、ちょ、許可』


「貰ってる貰ってる」


『それに説明』


「上みて葵ー」


そう言われて空を見上げる。


そこには、巨大な緑色をした一つの目があった。


目の周りで、空の裂け目が開かれる。


そこから夜の黒よりも暗い闇が染み出してきて、触手の形を取り始める。


そして触手は一つ目の周りを覆いつくし、一つの存在へと成った。


一つ目は大きく、ゆっくりと瞬きをし、私を“見た”。


この巨大な一つ目は【シアエガ】。


クトゥルフ神話における神格、それも旧支配者グレート・オールド・ワンと呼ばれる、一つの世界を支配せしめる存在の一柱である。


『‥‥‥‥‥‥』


私は黙って内亜を見る。


「協力するけど頑張ってね☆」


『神格召喚されてんじゃん!!』


私は思わず叫んだ。


「葵、がんばろーねぇ」


吞気な声で言う相棒をぶん殴りたい。


異形の中でもとびきりこの世ならざるモノ、現れてはいけない存在。


神格との戦闘が、始まろうとしていた。



さて、神格が出てきましたね。

内亜の人外っぷりも発揮されてようやく神話っぽくなってきました。

さてさてシアエガさんの記録はルルブ通りです。

不思議な点は次回で解消されるかと思われます。

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