[三部七章]日常③
コンコン、とノックの音がする。気配からしてノワールだろうか。
「ノワールです。朝食の準備ができましたよ。」
案の定ノワールで、私はドアを開ける。
いつも通り、私にはお菓子、文人用に普通の朝食が用意されていた。
「んあ、ありがとう‥‥‥‥?」
首をかしげつつ礼を言う文人。
『わぁい、マカロンマカロン』
そう言って食べ始めると、文人が尋ねてきた。
「葵はそれだけでいいの?」
『お代わりもあるし‥‥‥あ、文人も食べたい?』
そう言ってマカロンを差し出すも首を横に振られる。
「何で葵はお菓子なの?」
そう問われて納得する。そりゃ出されるもの違ったら戸惑うよね。
『野菜が嫌いだから。後お菓子好きだから。』
「初めは普通の食事をお出ししたのですが‥‥‥好き嫌いが多すぎまして。」
ノワールが付け足すように言う。
それに対して文人はむすっとした顔をする。
「好き嫌いしちゃだめだよ、葵。体壊しちゃうよ。」
『人間じゃないから平気だもん。』
「そうやって人間じゃないことを盾にしないの。」
そう言われてネフィーを思い出す。
確か市場に並んでいる野菜があまりにもキラキラしているから齧ったらものすごく苦くって痛い思いをしたんだっけ。
『野菜はにがいから嫌い。』
「‥‥‥‥‥‥もしかしてだけどそのまま食べた?」
こくりと頷くと文人はため息をつく。
「それは自分のせいでは‥‥‥‥?ノワールさんに言えば苦くない状態で出てくると思うよ。」
‥‥‥‥‥‥‥まさかと思ってノワールの方を見るとにっこりと微笑まれた。
知ってて放置された気分‥‥‥
文人に文人の分のサラダを与えられて、覚悟を決めて口に運ぶ。
『にがく、ない!?』
ばっとノワールを見ると、ニッコリ笑顔のままで言われた。
「食品には加工しないと食べられないものもありますから‥‥‥」
『何でノワール教えてくれなかったの?!』
「いえ‥‥‥何か特別な事情があるのかと思いまして。」
「そういう訳じゃなさそうだねぇ?」
「ですねぇ‥‥‥‥」
『ノワール!サラダもっと食べる!』
「では軽いものからおつくりしましょうか。」
「あはは」
文人に笑われてちょっと恥ずかしかったけれど仕方ない。長年の悩みが一つ解決したのだから。