[三部七章]隠し事③
『それは‥‥‥そうした方が面倒くさくないと思ったから‥‥‥‥』
僕がそう口ごもると、内亜は言った。
「葵の気持ちは?あの場であの女より葵の気持ちの方が大事だったんじゃねえのかよ。」
『そ、それはっ』
何も言い返せずに僕が黙っていると、内亜が言った。
「ま、お前が着いて行くって決めた後すぐに葵はお前に空から付いてったけどな。」
『え?そ、そうだったの?!』
驚愕に目を見開く。まさかそんなに行動が早いとは思ってもみなかった。
「じゃなかったらあの速度で迎えに来ねぇだろ」
『まぁ、確かに?』
確かにやけに助けに来る速度が速いなとは思っていた。けれどまさか空から監視してたなんて。
「後は‥‥‥‥結界があるとはいえ図書館にあの女が気が付くかどうかだな。」
『さぁ‥‥‥‥?そこまでは分からないや』
「つーかあの女本当に人間か?」
怪訝そうな顔で言う内亜。僕の知る限りは人間のはずだけど。
『多分‥‥‥‥‥‥』
「まじかよ、おっそろし。」
『まぁ、そうだね。』
そう頷いた瞬間、内亜が立ち上がった。
「って人間なら結界効かねぇんじゃねぇの!?」
『そうだね』
確かに母さんが人間ならこの図書館にある結界は効かない。ここの結界は“異形を探知するもの”だって内亜が前に言っていたから。他にも効果は色々あるみたいだけど、僕はよく知らない。
「おま、どーすんだよ‥‥‥」
『正直、どうしようもないよね。』
僕が司書をしている限り、母さんはいつか何かの用事で図書館に来て僕に気付くかもしれない。けれどそれは避けられないだろう。
すると内亜が溜息をついた。
「しゃーねぇ、俺が暫く図書館の仕事やってるからお前はバーにいろ。」
驚いた。面倒だからってやらないと思っていたことを内亜が自分でこなすなんて。
『良いの?』
そう問いかけると、内亜が更に深くため息をつく。
「良いも何もそれしかねぇだろ。葵の印の事もあるし、お前ら暫く離れるな。最悪俺の分身だけ図書館においとけば仕事はできるからな。」