[三部七章]涙
『ぁふ‥‥‥‥‥』
ふわりとした感覚と共に目を覚ますと、文人にぎゅうっと抱きしめられていた。
「おはよう、葵。」
そういう文人は少し前よりもすっきりとした顔をしている。
『ねぇ文人?こいびと、ってあぁいうことするものなの?』
「ん?んー、多分?」
『んへへ~』
ふわり笑うと、じっと私を見つめる文人。少し恥ずかしい。
そしてぎゅうっと私を抱きしめてくる。
『ん~?ふふ、あったかい』
そう言ってなんとなく抱きしめ返して文人の柔らかな髪を撫でる。
「はは」
擽ったそうにしている文人は、前よりもやっぱり雰囲気が変わった。
『文人、雰囲気変わったね。緊張、ほぐれた?』
そう問うてみると、困ったような顔をしながらも微笑む文人。
「そう?だったら葵のおかげだね。」
『私のおかげ?ふふ、良かった。』
そう言って笑い返すとだなって髪を撫でられる。
『‥‥‥‥‥文人、怖い事、これだったの?』
そう言って問うてみると、ピシリと固まるとこくりと頷く。
『そっかぁ‥‥‥‥‥私も、文人以外にされたらいやだなぁ。』
昨晩の事を思い出して少し照れ臭くなるけれど、あれを無理やりされたら‥‥‥‥‥そう考えるとぞっとする。
『よく耐えてきたね、えらい偉い。』
そう言って余計に文人を抱きしめる。なんだか震えているような気がした。
「‥‥‥‥うん。」
小さな私の腕の中で肩を震わせる文人に、私は語りかける。
『ねぇ文人。泣いていーよ。』
「そんな情けない所見せられないよ。」
そう言って何かを堪えるように言う文人に、私はそっと話しかける。
『情けなくないよ。文人は強い、強い人は泣ける人だって未希姉が言ってた。』
「じゃあ僕は弱いってことで‥‥‥‥‥‥‥ダメかな。」
『弱かったらもっと泣くよ。』
「それもそっか。‥‥‥‥‥はは、っ」
そう言って頬を濡らす文人。なんだかすごくあったかくて、ほわほわする感情が込み上げてくる。
私は文人の涙を見ないようにして柔らかく抱きしめる。
暫くの間、文人は肩を震わせて泣いていた。