[三部七章]心の中の本音①
「立ち向かってるよ!だけどどうしても口にできないんだ!!」
『なら心に直接聞く。』
そう言って俺は文人の心臓に向かって手を伸ばす。文人の顔が苦悶に歪むが知ったこっちゃない。
「う、っ‥‥‥‥‥もう、そうしてくれ‥‥‥‥‥」
そんな文人の言葉が聞こえたと同時に世界が歪む。
『‥‥‥‥‥‥球体の水槽?』
ぽつりと呟く。ここは文人の内面の深層世界であるはずだが、まさか水槽とは。
にしては海藻も魚もいない。
『‥‥‥‥‥‥‥苦しさに溺れてるってとこか。』
そう呟きながら辺りを見渡す。
『おうわ。学校‥‥‥‥‥』
振り返って驚く。こんな水槽の中に更に学校とはどんだけ歪んでんだコイツの心は。
そう思いながらさらにあたりを見渡すと、悠々と泳ぐ鎖でがんじがらめにされた黒い文人だった。
『よぉ。奇妙なとこだなここは』
「あれぇ、本当に来た。やほやほ。」
『気さくだなぁおい』
「んやぁ、僕ももうそろそろいい加減に君には吐けばいいのにと思っていたからさ。」
そう言いつつ近くまで泳いでくる黒人。泳げるのかよ。
『あー、んじゃ把握はしてんのか。ならさっさと吐け。』
「はいはい。んじゃごせーちょー。」
そう言って黒人は語りだす。
「別に大したことじゃないんだけどね?
ある僕が物心ついた時の事でした。その頃にはもう既にあの女のターゲットになっていました。今は見れど当時はいなかった父の代わりに僕を穢しましたとさ。
一度きりの勘違いなら良かったものの。そんなわけはなく。その後何度もその行為は起き、そんな僕は幼少ながらにトラウマができ、それ以来母が大の苦手になったとさ。」
「簡単な話でしょ?」
そういう黒い文人の表情はよく分からない。俺がまともに見てないからかもしれないけれど。
『へぇ、そりゃ簡単な話だ。』
『んで、何でお前はそんな簡単なことに囚われて鎖まみれなんだ?』
そう問いかけると、黒人はため息をついた。
「それは僕に聞いておくれよ‥‥‥‥‥‥ま、
僕は口に出したくないし知られたくないし~なんて感じらしいよ?
ま、思ったより重しになってるんだろうね。」
『ほんと、大したことねーのにな。』
溜息をついた後、黒人は言った。
「普通の感性を持つ僕の心には大きすぎた出来事だったんだよ。だからきっと僕はこうなってる。」
そう言われてなんとなく得心がいった。‥‥‥‥俺らは異形だ。通常の人間とはどうあっても相容れない。たとえ、実は異形の血を引いていても。
『あぁ、そうか。経験のない葵に理解させるのは難しいからな。だってあいつは何があろうと過去がどうであろうと本人のやることなすことでしか人を評価しない。良いことでは、あるんだけどな。』
「だから話したくないってのもあるんじゃない?」