[三部七章]立ち向かう勇気
『お前は葵が拷問にかけられたことがあるのも、たくさんの人を殺したことも知っている。それらだって立派な穢れだともいえる。けれどお前は葵を醜いと思うか?』
「‥‥‥‥いや、思えない、だって、葵は葵じゃん。」
『そういうこった。ならその悪い記憶、出来事はお前の捉え方次第で幻想と変わらなくなる。お前のそれもな。』
そう言ってもこいつの顔は沈んだままだ。‥‥‥‥確かにされたこと‥‥‥それ自体は心に深い傷を残す。けれど、それは本人の捉え方次第でどうだって出来る筈なんだ。俺だって天使の頃の記憶は曖昧だけれど、何とか気にしないようにして生活できている。
『だから、気にすることなく吐けばいい。今回だけ、葵には知らせずにいてやるからよ。今回だけな。』
「そうしてくれると助かる。」
『んで?事情は?』
「‥‥‥‥やっぱり言えないよ、吐きそうになる。」
段々とコイツの態度にイライラしてきた。
『吐け。吐けねえと幻想は幻想にすらなりゃしねえ。』
畳みかけるようにそのまま続ける。
『辛く苦しい事は分かってる。が、あの女はこの街にいるんだ、あいつを避け続けていても、いつかはまたこの街にいる限り出会うことになるんだ。それまでに過去の記憶を幻想にして立ち向かえるようにしておくべきだ。』
そういうと苦々しい顔で文人は言う。
「あの人については父さんの方が詳しいと思う‥‥‥‥‥されたことも。」
『俺はお前から聞きたい。でないと話が始まらねえし終わらねぇんだ。それに、俺はそんな弱い奴に葵を任せたくねぇ。だから吐け。立ち向かえ、負けんじゃねぇ。』
すると文人の表情が変わる。
「立ち向かってるよ!だけどどうしても口にできないんだ!!」