[三部七章]向き合え
図書館の居住区に戻った後、宮叉に紅茶を出してもらって葵が言った。
「話は聞かせてもらったよ。」
『いや俺がね?ほら。影に隠れて』
そう言って訂正するようにひょっこりと葵の影から顔を出す。
全くもう。自分は不安そうに喫茶店の上空をくるくる回ってただけなのに。
でも、文人を心配してたのは事実だ。今もどこか泣きそうな顔で文人の方を見てる。
「文人‥‥‥‥本心を教えてほしいの。文人から。あの人はどうしてそんなに文人に固執するのか。文人は何をそんなに恐れているのか。幽鬼からある程度話は聞いてるけどある程度しか聞いてないから。」
「‥‥‥‥‥‥‥‥」
葵が必死になって言っても目を逸らす文人。‥‥‥‥ま、分からなくはないけどね?でも葵も強くなったもんだ。放っておくんじゃなくてちゃんと向き合おうとしてる。この場合問題なのは‥‥‥‥‥
「文人、ちゃんと話聞くから。」
「‥‥‥‥‥‥言えない、っていうか、言いたくない。」
この意固地な馬鹿の方だ。‥‥‥‥‥‥‥ま、分からなくはないけどね?
「文人!!」
葵が心配そうに、って半泣きで訴えかけても文人は目を合わそうとしない。
「‥‥‥‥‥‥っもう、知らない!!」
そう言いつつ部屋を出て行ってしまう葵。‥‥‥‥‥‥いや、こっちチラ見してるの俺は分かったけどさぁ‥‥‥‥‥ちょっと面倒くさいなぁ。ま、契約者サマの言う事だし?‥‥‥‥‥‥多少強引なことしてもいいか。
そんなことを考えつつ悠々と先まで葵が座っていた椅子に移動して足を組んで座る。
「‥‥‥内亜は聞いてたんでしょ?普通だったよね?」
そう言われて少し宙を仰ぎ見て考えてから答える。
『まー、そう思ってんならそうなんじゃないの?キミの中ではさ。僕は知らないけど~』
久々の取り繕った口調に慣れない。ちょっとうげーってなった。
「きみも意地が悪いなぁ」
『まぁ?僕ってば悪魔でニャルラトホテプだからさぁ?』
ってかその前に
『ま、分からなくもねぇからな。』
ぽつりと言葉を漏らす。聞かせるつもりはなかったんだが。
「どういう事?」
クッソコイツ耳がいい。腹立つ。けどま、いいか‥‥‥‥‥‥
『葵には言うなよ?』
そう前置きをする。‥‥‥‥‥このことを話すのはいつぶりだろうか。初めてなんじゃないのか?
『むかーし昔のことだ。迷子の迷子の無垢な魂がおりましたとさ。その魂はとあるカミサマに目をつけられて天使にされて地上へと送られました。‥‥‥‥‥‥その天使は、運悪くなのか、神様の気まぐれなのかは知らないけど悪人に捕まってしまいましたとさ。‥‥‥‥‥そして穢され悲しんだその小さな天使は泣いて喚いて全てをぶち壊して悪魔へと堕天しましたとさ。』
「葵の事‥‥‥‥‥じゃなさそうだね。誰の事?」
コンコン、と自分の頭を突いて見せると文人は驚愕の顔をした。
「‥‥‥‥‥‥内亜!?天使だったの?!」
『まぁ。』
『穢れていることを気にかける必要なんか全くねぇんだ。その穢れは幻想みたいなもんなんだから。されたことは事実でも、それを現実だと思うから幻想は現実になっちまう。』