[三部七章]逃げろ
『‥‥‥‥‥‥』
母さんに連れられてきたのはちょっと高級そうなカフェだった。
母さんの狙いは何となくわかってる。けど、葵を何より巻き込みたくなかった。
僕が黙っていると、母さんが勝手に話し始めた。
「着いてきてくれて嬉しいわぁ。文人がまさか同じ町に住んでたなんて運命みたい。」
『は、はは‥‥‥‥‥』
苦笑するしかない。だって僕にとっては悪夢そのものなんだから。
「それに、てっきりあの子にゾッコンかと思ってたからあの子を優先するかと思ったのに。」
優先したかったに決まってる。でも、そうできないように呪縛をかけたのはこの人だ。体が固まって、拒否できなかった。あの時の葵の表情を思い出すと今でも心が痛い。
『——————えと、やだなぁ、久しぶりに会えた母さんを優先するに決まってるじゃないか‥‥‥‥‥』
そう言った言葉はひどく乾いて聞こえた。
僕があの場で葵を優先していたらきっともっとひどいことになっていたはずだ。僕がそれを分かってついてきたことを母さんは理解している。理解していて試すような言い方をする。‥‥‥‥‥本当に吐き気がする。
「あらやだ、とっても嬉しいわぁ‥‥‥‥‥‥ふふ」
しなを作って話す母さんの次の言葉に嫌な予感がして身構える。
「———————文人、このまま家に帰ってきていいのよ?」
来た、そう思うも身体が固まる。
けれど、それだけは嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ‥‥‥‥‥‥っ!!
なけなしの勇気を振り絞って声を出す。
『そこは‥‥‥‥‥!そこは、彼女を優先したいんだ。‥‥‥‥ごめん』
なんで僕が謝っているのだろうか、なんてちょっと遠のく意識の中で考えながらなんとか吐き気を堪える。
「そう?じゃあ無理にでも連れて帰らないと。」
、なんてことないように言われた言葉に反射的に体が動く。
『そ、れは良くないと思うんだけど‥‥‥‥‥』
言いつつ伝票を手に取る。
「そう?どうして?」
『あ、僕がお金払っとくね!それじゃっ』
そう言って死に物狂いでお金を払って外に飛び出る。
真っ先に図書館へ帰ろうとするけれど、場所がバレたらという不安もある。ある程度蛇行して‥‥‥
そう考えているうちに急に体が暖かなもので包まれて宙へと高速で浮いた
『え。』
「大丈夫じゃない顔してる。」
僕を連れ去った主、葵がむすっとした顔で言う。
葵が言う様にきっと今の僕の顔は真っ青を超えて真っ白だろう。
『ちょっと冷や汗かいたかな‥‥‥‥‥』
そういうと葵は高速で図書館へと向かう。‥‥‥‥‥葵の体温にホッとしたのは内緒だけど。
水紫の身体が弱いのかわからんですが数日に一回熱出して苦しむことに‥‥‥
なんでや‥‥‥‥