[三部七章]守りたい
『私が先、絶対。』
そう言い切った直後、文人のお母さんがしなりと首をかしげて言った。
「どうしてそう言い切れるのかしら?」
そして意味ありげに文人の方を見て微笑む。
文人が硬直するのが分かって、広げた手に力が入る。
「文人~お母さん数年ぶりに会えてとっても嬉しいのよ?」
『どの口が、っ』
幽鬼から聞いていた話の意味はよく分からなかった部分もあったけれど、この人が文人にしたことが相当なことだってことくらい私にも理解できる。
けれど彼女は私がいないみたいに話を続ける。
「そうだ文人。お茶でもしない?お母さん、とっておきの喫茶店があるの。」
『ッ文人、だめ、』
そう言って振り返って、言葉が出なくなる。
文人は、少し泣きそうな顔をしていた。
『~ッ、』
私が何も言えなさそうなのを見て、文人は少しだけ笑った。
「‥‥‥‥ちょ、っとだけ行ってくるよ。多分、大丈夫だから。」
『本当に、?』
「‥‥‥‥‥うん。ごめんね、葵。」
そう言って微笑まれて、もう本当に何も言えなくなってしまった。
『気を付けて、ね』
そういうと少し微笑む文人。
私は、私の横を通り過ぎてお母さんの方へと向かう文人を見送ることしかできなかった。
『あんなに、震えてたのに‥‥‥‥』
「本当にねぇ、でもそれだけ呪縛が強いって事でしょ。」
するっと内亜が出てきて頭に腕を乗せる。
『文人がされて嫌だった、苦しんでた行為のこと、私知らないから、止められなかった‥‥‥』
「そだねぇ‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ま、今までそういう教育してなかったのは俺たちだしねぇ。‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥そろそろいっか」
『内亜?』
最後の言葉が聞き取れなくて聞き返すと、内亜はにっこりと笑った。
「んーん?何でもない。」
『?‥‥‥‥‥ならいいけど、これからどうしよう‥‥‥‥‥』
「どうしようって、ついてくでしょ、葵なら。」
そう言われてハッとする。もしまた文人が嫌なことをされたら、いや、される前に助けないと。
『うん、うん。そうだね、空からあの二人を探さないと。内亜も手つだ‥‥‥‥』
内亜の方を見るとなぜかすでにいなくなっていた。
小首をかしげつつ、こうしてはいられないとプリズム片の翼を広げて上空へと飛翔する。