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[三章]桜の舞う戦場【Ⅹ話】

9話目です!

あと3分の1くらいかな


異形へと姿を変えた少女、いや、少女の姿を借りていた異形がその巨大な鋏をかちん、かちん、と鳴らす。


「葵、増援が来る可能性が高い。早めに始末つけるよ」


内亜の声がする。


『了解。ジェミニ効くかな』


私はいつもの二丁拳銃を出してもらいながら確認を取る。


「ジェミニのご機嫌次第じゃない、俺も参戦する?」


内亜に聞かれるが、拒否する。


『私の体がもつか分からない。離れられると困る。』


私の体は魔力で保護してはいるが、貧弱なものでしかない。この状態で内亜に離れられたらどうなることか分かったものじゃない。


「了解、判断早くなったね。じゃあ試してみようか」


そうして戦闘がスタートする。


幸いにもそこまで素早い個体ではないのか、ミ=ゴはこちらの出方をうかがっているようだった。


『とりあえず一撃、』


左右から二発ずつジェミニの発砲音が響く。

スラムの人間たちはすでに避難しているか、気絶しているかのどちらかしかいない。

発狂した中に殺人癖や自殺祈願者がいないなら幸いだと思う。


ジェミニの4発のうち三発ははじかれたが、一発は関節の丁度弱いところに入ったようだ。

奇声を上げながらミ=ゴがのたうち回る。


『一部装甲抜いた?』


「みたいだけどだいぶ厚いね、このままじゃ応援が間に合うよ。」


内亜に注意を飛ばされる。

さて、どうすべきか。

そう考えているうちに、ミ=ゴが片方の鋏を構えて襲い掛かってきた。


『っと、』


内亜がリボンのように影を伸ばし、バネのように私を弾いて攻撃から逃がす。


『ありがと、相棒』


「そりゃどーも」


短く礼を言い、辺りの警戒をする。

まだ増援は来なさそうだった。


『撃ち尽くすよ、キリないから』


「葵の魔力量なら一発の重みを上げたほうがいい。手本見せるよ。」


内亜が言うと、体を勝手に動かし魔力の流れをジェミニに集中させ、先程より重たい発砲音を響かせる。


ドチュ、と、内臓器官の一部を破壊した音がした。

ミ=ゴはたまらず浮遊することができなくなり、落ちてのたうち回る。


『そういう感じね』


私は先程の感覚を思い出しながら地に落ちてもがくミ=ゴの装甲の継ぎ目へ魔弾を撃ち込む。

3発目で重要な器官に当たったらしく、ミ=ゴが断末魔のような音を響かせて息絶える。


『これでなんとか、ってとこ?』


内亜に確認を取った瞬間、背中に衝撃を感じる。


「葵!」


内亜の焦った声が聞こえる。

体が宙を舞っている。


『っか、はッ‼』


地面に叩きつけられ、肺の中の空気が勝手に排出される。

何とか首を持ち上げて衝撃のした方を確認すると、気絶していたはずのスラム街の人間が鉄パイプを持って立っていた。

よく見てみると、視線が定まっていない。恐らく脳をいじられた後なのだろう。


「葵、動ける?!」


内亜の声がする。

念のため全身を覆っていた魔力装甲のおかげでな何とか動けそうだ。

口の中に感じる鉄錆のような味のする血を吐き出し、何とか立ち上がる。


『ま、さかだけどさぁ‥‥‥‥‥』


辺りを見回す。


最悪の予想が当たった。

増援より厄介なことが起きている。


“気絶していたはずの人間たち”が、それぞれ何か棒状の物を持って襲い掛かってくる。


(数、13‥‥‥?不吉な数字。)


魔力やら内亜の力なんかで異形を殺すような力があっても、所詮この身体は見た目通り人間の少女としての耐久性しか持ち合わせていない。

正直一撃食らったら一人相手でもきつい。

力と集中力を振り絞ってプリズムを並べ、周囲の足元めがけて撃ち出す。

当たった数名の片足がもげる音がするが気にしない、気にしてられない。


「葵、変わるよ」


朦朧とする意識の中で内亜の声が聞こえた気がした。



———————————



さーて、どうしたものかと残った人間たちを見る。

どっちかって言うとゾンビみたいなものだけれど。


『正直油断したなぁ』


ぽつりとつぶやく。強大な魔力はあっても脆弱で小さな身体しか持たない契約者は意識を失っているようで、抵抗なくこの身体を扱うことができそうだ。


『葵、ごめんね』


そう呟いてから体の中の魔力を起こす。

宙に現れた大鎌を持って一瞬素振りをする。


(OK、大丈夫。感覚は忘れてない。)


最近は葵の成長のためとはいえ自分が出るのをさぼりすぎた。

襲い掛かってくる人間二人の首を一薙ぎで刈り取りながら考える。


少しの抵抗もなく刈り取れたことに満足し、そのまま葵の身体に負担を掛けない速度で、人間たちを無力化していく。

自分の身体を影から出して戦ってもいいが、先のように不測の事態があってはならない。


(一応これでも大事な契約者だもんね、と)


葵の身体へ治癒の術式を発動させながら人間たちを狩る手は休めない。

そう難しくない作業のはずだけど、治癒術式を維持したまま戦うのは半世紀ぶりか。

細かい作業は苦手だと自分の弱みを再確認する。


(葵は、俺の事弱くない、っていうかもしれないけど。)


もし言った場合の事を考えてみる。ふくれっ面の契約者が頭をよぎって思わず笑いそうになってしまった。


『これで最後、ごめんね人間。こうなる前にイイトコに堕ちちゃえばよかったのに。』


そう呟きながら最後の一人を処分する。


そう、自分は悪魔で、ニャルラトホテプなのだ。できないことがあっていいはずがない。


本当は今日だって怪我をさせる気なんかなかった。


『これ、保護してなかったら死んでるなぁ。』


つぶやいて、ぞっとする。


そして、ぞっとしたことに対してぞっとする。


『ははっ』


乾いた笑いが零れ出る。


(こんなの、俺がこの契約者を心底気に入ってしまっているみたいじゃないか。)


けれど、事実なのだろう。だってこんなに必死になってけがの治療をしているのだから。

鉄パイプで殴られただけで死にかけるような契約者。


それでも俺は、きっとこの子以外と契約なんかしない。


『早く起きてよね、葵。』


心の底からそう願いながら、治療を続ける。






葵さんの耐久値はTRPGで言うと5です。

棍棒系のダメージ一撃で死にうる耐久値。

それを長年守ってきた内亜の内情。

私はこの二人の何とも言えない信頼感がとても好きです。

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