[三部五章]好き③
体調…
今日はなんだか機嫌がいい。
というのも、こころ、を自覚してから文人に好きだと伝えることができたから。
私の中にある“見つかってしまったらしい何か”は不安要素ではあるけど、それもしっかり対策を取ればみんなでなんとかできるはず。
そう思いながら街を歩く。
なんとなくだけど。
心なしか弾んだ歩調で街を歩いていると、1人の女性とすれ違った。
甘ったるい、こびりつくような香水の匂い
寒気がして振り返る。
「あら?こんにちは。可愛らしい子ねぇ、貴女」
咄嗟に何か返そうにも何も言えない、出てこない、これは……恐怖、だ。
「あら?どうしたの?何かあった?」
必死に首を横に振る。早くここから逃げ出したかった。
「そう…あ、早くお夕飯の支度をしなくっちゃ。じゃあね。可愛らしいお嬢さん。」
そう言って女性は何処かへと歩き去っていった。
…………ただの、そう。ただの勘だ。
でも私の勘は馬鹿にならない。それも知っている。
『あの人には…もう会いたく無い…』
自分にもあの香水の匂いがこびりついているような気がして、飛ぶように駆けて文人の屋敷のシャワーを借りる。
(2度と、会いませんように)
そう思いながらも、私は髪を乾かして服を着て、文人の元へ駆ける
「あれ葵シャンプーの匂いするね、普段は魔術でどうにかしてたんじゃ、うわぁっ!?」
真っ直ぐに文人の元へ飛び込んで彼を抱きしめる。
どうか、どうか見つかりませんように。