[三部四章]アカイム街の裏の顔⑦
あれ。2000文字超えてる‥‥‥‥‥‥
『でも、文人はいつか寿命を迎えていなくなっちゃうんだよね。‥‥‥‥‥‥今までであってきた人々みたいに。』
ぽつりと零れた言葉は思ったよりも気弱な声で。
“もしかして”の想いが強くなる。
「あー、いや文人はある程度の年齢で成長止ま‥‥‥‥やーあっはっは何でもない何でもない。そこについては大丈夫だよ。って私が太鼓判を押しておいてあげよう。」
『?』
不思議なことを言われた気がするけれど、気にしてられるほど今の私は強くあれない。
また少し俯くと、ぽんぽん、と頭を撫でられた。
「大丈夫。文人はずっと君の傍にいるさ。ところで葵ちゃん、君‥‥‥‥」
ニコニコした表情で幽鬼が手を放す。
嫌な予感がした。
「君、誰かに何かされてるね?」
そう言って何を言う間もなく手を取られる。包み込まれた手には夢、そう、夢のはずのそれ。血色の文様が浮かび上がってきた。
『熱、っ!な、なんでもな』
そう言って手を引っこめようとしても幽鬼は手を離してはくれない。
恐怖が心を満たす。こんなの見られたら怖がられるか怒られるか良いことにはならなさそう、
「嘘が下手だねぇ。ふぅ。」
そう言って幽鬼はそっと手を放して私の頭を撫でる。
思わずびくりと跳ねた体を抑えつけて幽鬼を見ると、何とも言えないような、少し悲しそう?な顔をしていた。
「これに心当たりはあるのかい?」
頷こうとしたけれど、身体が動かない。まるで、何も言うなと言われているかのように。
「そうかい。何も言えないって事は口封じ‥‥‥もしかして、“見つかっちゃった”?」
『‥‥‥‥‥‥‥』
分からない。分からないとすら言えない。
けれど、幽鬼はそっと術式を唱えて護符を私にくれた。
「君が消えかかっている。それはすこーしだけど分かった。それは御守りさ。その消えかけていく時間を遅らせるためのね。」
『あり、がとう、』
「でも。」
ふ、と幽鬼の雰囲気が変わる。真面目な表情、そこから感じる少しの、怒り?
『幽鬼?』
「きっとその人物‥‥‥‥‥いや、多分存在かな。それは、君が自分の元に帰ってくる様にというある種命令のようなものだよ。だからきっと、いつかはその相手と君は相対しないといけない。その護符だって、あてにならないかもしれない。それくらいに強い相手で、気味の悪い相手だ。君の、きっと宿敵とでも言える何かなんだろう。けれど決して負けてはいけないよ。君は今、十分に強い仲間を得て、君自身も君が思っているよりずっと強くなっている。そうだなぁ、あんまり答えを言ってしまうといけないんだけど。‥‥‥‥‥よし、これくらいだけ言っておこう。“感情を知るんだ”。頑張れるね?」
幽鬼の言う事は怖くて、けど暖かくって。私は静かに頷いた。
『ありがとう。』
「どういたしまして、それじゃあね。」
そう言って幽鬼は夜の闇に消えていった。
『感情を知る、か。‥‥‥‥‥‥きっと、この暖かさもそうなんだろうな。』
私は呟いて図書館へと戻る。自らの影が幽鬼を追って消えたことに気が付かずに。
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「なんだい?内亜くん。」
『やーやー、なぁんかまだ言ってねぇ事あんだろ、幽鬼。』
僕、いや俺はこいつがあまり好きではない。
道化師のような言動が被るからとかではなく。
単純に、何か大きなものを抱えて動くあまり自分の行動を制限している感じそのものが、だ。
「なーにさ。君ってばちょっとばっかり私に厳しいよねぇ。」
『何、ルールから多少外れた存在じゃないとお前とは少しばかり細かく話せそうにないんでね。』
「あぁ、君はそういえば‥‥‥‥‥‥まぁ、そうだね。本当は色々とやってあげたいんだけど、ああいうのは若い子達に任せるのも手、って事さ。‥‥‥‥‥‥‥‥葵ちゃん達は精神年齢の事で。」
確かに葵の単純な年齢は何桁になるんだろうかから始まるから分からなくもないけど、よくよく考えてみたら何歳なのか分かんないのに精神年齢は見た目と同じっておかしくないか。
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥まー。分かったけど。幽鬼、お前があれ以上話し過ぎたらきっとなんかペナルティでも喰らってただろ。んでだ。おまえが今回のクトゥグアの件に関してだけ関われるのはあの結界だけか?』
「いーや?一応私の弟子のような子をつけておくよ。葵ちゃん達に教えるかは任せようかな。」
飄々と言う幽鬼。ま、コイツから今得られる情報はこんなものか。
「あ、そーだ。連絡先でも交換する?」
そう言われてふと思いついた。俺はおもむろにその辺りの扉を開けて中に向かって叫ぶ。
『ノワールー、秘密の客。葵たちが居ない時に通してやってくれ』
「何ですか急に。‥‥‥‥‥‥‥‥‥あぁ、噂の幽鬼様。でしたら了承しましょう。」
そう言って珍しくドアから出てくるノワール。
ポカンとしている幽鬼に向かって一礼すると、
「ノワールと申します。バー、葵様の管理下の物ですが、こちらを預かっているあくまでバーテンダーでございます。以後お見知りおきを。」
「あー、君が。えーと、内亜くん、彼のバーを連絡先にしようって言うのかい?良いのかいそんなことして。」
『悪魔に信頼を寄せてる葵が悪い。ま、あんまり使うことも無いだろうけどさ。』
ふぅ、とため息をついて幽鬼が微笑む。
「ま、それもそうだ。よろしくね。」
そう言ってノワールに向けて片手を挙げる。
「はい、こちらこそお待ちしております。幽鬼様。」
そう言ってぺこりときれーーーなおじぎ、をするノワール。
『さてと、んっじゃ帰るか。んじゃなー幽鬼』
そう言って俺‥‥‥‥いや。僕は葵の元へと帰る。そうっとね。
「じゃあね、道化師さんにバーテンダーさん。」
そんな声が聞こえたけど何も返す必要ない。だって向こうも望んでないだろーからな。