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[三部一章]異常

お久しぶりです!

三部開幕ですー

最近、身体が段々と重く感じるようになってきた。

あの、ティナと存在を分け合ってから…その時から、少しずつ。


欠けた感情と記憶

それによる心身のバランスの崩壊による、自身の崩壊。


分かっている。

あまり長い時間が残されていない事を。


ここは、寿図書館の奥の奥にある、だれにも見られない場所。

最近はここをお気に入りにして読書に勤しんでいる。

ふと、試したい事が浮かび、周囲に誰もいない事を確認する。

内亜は、バーの方にいるようで、今は影の中にはいない。


ふと、手のひらに結晶片を浮かべてみる。


(色が、薄い。)


存在の希薄化に伴う現象だろうか。

そう思いつつ、結晶片を握り潰す。


ぽたり、と深紅の液体が流れる。


『………』


それをじ、と見つめる。

私は今、何と名乗るべきなのだろうか。


天音 葵の欠片

…そう思い浮かんだ言葉をかき消す。


『こんな事考えてたら、怒られちゃう』


そう呟いた瞬間、眩暈がした。


「早く、かえっておいで。」


誰か分からない声が、脳に直接語りかける。

全身の皮膚が粟立つ。吐き気がする。頭痛がする、立っていられなくなって地面に両の手を付く。

ぽたり、ぽたりと冷や汗が床に吸い込まれて消える。


『今、のは。』


呟いた自分の声が震えている。


“恐怖”


それも、途轍もなく大きくて、歪に歪んだ巨大な悪意に対する恐怖。


『誰、だ』


そう呟くも、もう声は聞こえない。


………あれは、一体何だったんだ。

忘れた記憶の一部、にしては、地上に降りてきてからあんな恐怖を感じた事は無い筈だ。


『………痛、っ』


ふと先程結晶片を握りつぶした方の掌に痛みを感じた。

床材の欠片でも刺さったのだろうかと掌を見て、身体がこわばった。


掌にあったのは、棘ではなかった。


自分の流れた血液で描かれた紋章。


(なに、これ。こんなの、見た事無い…)


紋様は複雑怪奇で簡単に読み解けるようなものではなかった。それに、視認すると同時にすぅ、と掌に吸い込まれるように消えていった。


咄嗟に内亜に相談しようと思って内亜を呼ぶために口を開く。


『………、っ』


声は出なかった。

まるで、誰にも話すなとでも言いたげに、喉に何かがへばりついたかのように息が出来なくなる。


なんとかして喉を引っ掻こうとして手を伸ばすと、妙な感覚は消えた。


『誰にも、言うなって事…?』


分からない。本当に、わからない。


どうして。


そこまで考えて、ふと気がついた。


今までの自分なら、今のが何だったのかなんて誰に相談するでもなくどうにかしていた。


けれど今は。


(私も、変わってる。みんなも。)


そう実感すると共に、大量の恐怖心が襲い掛かってきた。


あれは何だ


私はどうなってしまうんだろうか。


……怖い。


怖い、怖い、怖い、怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖いーーー


「葵、なんか変な感じしたから来た……ちょ、顔真っ青!!どうしたの!?」


影から内亜がひょっこり顔を出して驚いた表情を見せる。


言いたい。けれど


『なんでもないよ。本の読みすぎで頭くらくらしただけ。』


そう言って笑顔を作る。


内亜は何か言いたげな顔をしてから、黙って私を撫でた。


「いつでも聞くからね」


その言葉に泣きそうになりながら、私は頷く。


あぁ。ここが文人から見えない場所で良かった。

そう思いながら、少しだけ内亜に身体を預ける。

内亜は黙って私が読んでいた本を拾って読み始める。


(どこにも、行きたくない。みんなと一緒が…いいな。)


そう思いつつ、私は瞳を閉じる。







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