幕間⑬花鳥風月の話。
あまりにも更新がないのが寂しかったので更新してみました。
元々、警官だとか高尚なお仕事なんて俺には向いてないと思っていた。
自分は他の人とは違う性質を持っていたから。
“完全記憶”
見たもの全てを覚え、忘れられなくなる能力。
他人が聞けば羨ましがられるが、そんないい代物ではない。
皆がテストで分からないと言っていることが理解できなかったり。
脳に大きな負荷がかかるのか、一日にまともに頭を働かせられるのはせいぜい二時間程度だったり。
‥‥‥‥‥みんなとの話に混ざれなくて孤立するのに、そう時間はかからなかった。
能力のおかげで勉強は出来たし、やりたいことは無くてもやれることは色々あった。
そんな俺のありさまを見ていた両親から、警察になってその能力をみんなの為に役立てればいいんじゃないかと言われて。
進路についても興味の無かった俺は言われるまま警官、刑事になった。
仕事に就いても、集団の中で異質な存在であることは変わらなかった。
しらみ潰しに捜査する必要もない、資料の分析だけで事件解決へ導くやり方は、周囲の関心、興味、‥‥‥‥妬みも集めることになった。
他者の視線も期待も悪意も向けられたくはなかったので、なるべく目立たず、何もしないことにした。
書類仕事や雑務をこなして時間を潰し。
間違った推理を基にした捜査の指示にも黙って従い。
仕事終わりの付き合いなどにはもちろん参加せず。
‥‥‥‥気にかけてくれる上司はいたけれど、人と関わることをあきらめた俺にとってその好意はただただ邪魔なだけだった。
だから、ずっとずっと眠り続けながら、一日に二時間だけ最低限の仕事をこなして、後は何も見なかったかのように眠りにつく。
陰鬱な気分で繰り返される日々は、とある暖かい日に終わりを迎えた。
上司に異動命令を出されて、紙っぺらの地図を頼りに庁舎のあまり使われてない区画の一室にたどり着く。
そこはたった三人‥‥‥新しく入った俺を含めて四人だけの小さな部署。
都市伝説にすらなっていた、殆どの警官が知らない特殊な部署。
始めはどうせいつもと変わらないだろうと思ったからやる気なんて全くなかった。
けれど。
「風月、お前か?この書類まとめたの。」
緋炎という名の上司に声を掛けられて面倒くさそうにそちらを向く。
彼が手に持っているのは、俺が分別した、ちょっと引っかかりのある事件の書類の束だった。
初めてここに来た時、一日二時間の活動で良いと言われたときはちょっと怪しいとは思ったけれど。緋炎というこの上司は本当に俺の眠りに対して何も言ってくることは無かった。
『あー‥‥‥そうっすけど。』
適当な返事を返す。どうせ、見たってなんにも分からないだろう。けれど説明するのも面倒だと思っていると、緋炎が言った。
「お前、よくやるな。これ、何処かしら引っかかりのある事件集めたんだろう?さっき見ていたがあの書類の山の中からあの短時間でよくまとめたもんだ。」
そう言って頭をわしゃわしゃとかき回してくる上司。
正直言ってどう反応していいか困った。
今まで、自分がこう言った仕事をしても、大体の人はあらさがしをして時間を無駄に浪費したり、俺のまとめた書類を放置しておかれることが多かったから。
まさかこんな風に褒められることがあるとは思わなかった。
『‥‥‥‥‥っす。』
ぶっきらぼうに返事を返すと、緋炎は暫く何かを考えるようなそぶりを見せて言った。
「よし、お前この間カタログ見て寝具そろえようとしてただろ。それちょっとピックアップして俺によこせ。すぐ注文してやるから。」
緋炎の言葉が終わる前にメモを差し出す。
遠慮なく最高級の寝具ばかりを集めたそれらは購入するとなると相当な金額になる物だろう。
だから今までは少々遠慮して出していなかったが、ちょっと気が変わって提示してみた。
まぁ、どうせ却下されるだろうと思ったけれど、
「よし、んじゃ注文するか。色とかの指定はないが何色がいいとかあれば言うようにな。」
通った。‥‥‥‥‥‥‥一警官の寝具なんていう物に経費を使って良いものなのか。
その疑問を口に出そうか迷ってから、緋炎のPCをのぞき込んで注文ページを見ていろんなものが吹き飛んだ。
『フレームは落ち着いた色がいいっすね、時期的に梅雨に入るんで除湿関連のグッズも欲しいところっす。あとは‥‥‥‥‥』
そうして口に出してからハッとして止まる。
ついつい注文を出してしまったが、実際緋炎が本当に経費で購入してくれるのかなんてわからない。今までの課だったらまず間違いなく却下されていただろうから。というかそれが自然だと思う。
そう思って静かに緋炎のPC画面を見つめる。
すると、緋炎はこちらを振り返って不思議そうに言った。
「どうした、異形課に来た時に言っただろう。寝具は経費で購入できるからと。そんな表情してないで、さっさと好きなものを遠慮なく頼め。‥‥‥ま、起きている間はしっかりと仕事をしてもらうんだがな。」
確かに言われたし、メモも取ってあったし、仕事も出来る限りこなしてはいた。
けれど、本当にこんなに簡単に許可を出して良いものなのだろうか。
そう思う心とは裏腹に、身体は勝手に欲しいものをどんどんとリストアップしていく。
『‥‥‥‥‥‥こんな良いヤツ、本当に買っていいんっすか。』
そう問いかけると、緋炎は笑って言った。
「ま、疑問に思う気持ちはわからんでもないが、ここはそういう場所だ。慣れろ。あとまだ今日の仕事は終わってないからな。これ終わったら頼むぞ。」
そう言われて、少々不思議な気持ちになる。
‥‥‥‥‥‥‥‥そもそもこの課の管理者は誰なんだろうか。
警察署の人間ではない気がする。
そんなことを考え、答えが出なかったので考えることをやめ、目の前の寝具選びに夢中になる。
ちなみに俺がその管理者に会うのは、もう少しだけ先の話だ。
久しぶりに書いたからか手が痛い‥‥‥‥‥‥これからも推敲を進めつつたまに更新していきますね