幕間⑫ノワールの日常
ちょっと短めです(当社比)
さて。こんにちは。紳士淑女の皆さま。
この度は私が一日を通して何をしているかについて語らせていただこうと思います。
『おはようございます。伽羅繰様。今日もご指導お願いしますね。』
早朝、日が昇る前には伽羅繰様にて機械人形や絡繰り仕掛けの部品製作に携わらせていただいております。
まぁ、私が来る前までは睡眠もまともにとってはいなかったようですが、私に指示をしてくださるようになってからは、早めに眠られて、朝早いうちから活動がするのが日課となっているようです。
私がお世話をさせていただいている方々の中でも最も早起きなのはこの伽羅繰様なのです。
というわけでして、暖かなスープ等、食べやすい食事を用意させていただき、そのあとは孤児院の方へと提供する食事と共に、寿邸にて皆様が起きられたときに食べていただく食事を用意いたします。
こちらの方は、量よりも質の方が重要視されますので、ゆっくりと時間をかけて用意させていただくのです。
「今日も美味しい‥‥‥‥ノワールくん、これのレシピ教えて?」
マスターの姉君である未希様は食事を必要としないはずですが、いつも食事をなさるのです。
つい気になって聞いてみれば、それは人間達とあまりに離れた生活をしていると、人間の気持ちが分からなくなってしまい、お仕事の方に支障をきたしてしまうのだとか。
他には文人様、要様、孤児院の方にはスゥ様、クローネ様、孤児の方々などが料理を召し上がりますね。
‥‥‥‥マスターは、あまり食事をとらないのですが。
それについては最近文人様が葵様にお話をなさったようでして、たまに食事の際に顔を出されることも少なくなりましたが。
そして孤児院の方の洗濯物などは孤児の皆さまがやっていらっしゃるので特に手を出すことはございませんが、私は寿邸のお掃除を適度にこなしておくのが昼食までのルーティーン、という物になっています。
家事食事以外は基本的に未希様がやっていらっしゃるので、あまり手出しするところは多くは無いのですが。
午後はどの町にバーの扉を繋ぐかを考えてみたり、現地へと赴き色々な商品を入荷させて戴いでおります。
「ノワール。今日はどこ行くの?場所によっては俺も行きたいとこなんだけど。」
そう言ってついてくるのは、マスターのもう一人の従者、内亜。
正直あまり仲が良いとは言えないのですが。
『今日はシェリー様の街へと。先日マスターがお世話になったようでして。』
「ふーん。んじゃあの方翼もいるのか。‥‥‥‥‥いいや、ついてく。ちょっとした挨拶も必要だしね。」
そう言われて、仕方なくこのごく潰しを連れて扉を繋ぐ。
その日には特に特筆するような事は起きませんでしたが、何か異形が悪さをしている可能性のある街へとつながった場合にはマスターへと報告をして対処する日もございます。
夜になれば、伽羅繰様の作業を見学させていただいたり、基本的には皆さまのお食事を準備してからバーの経営の方を致します。
『ようこそ、いらっしゃいませ。』
本日のお客様も、迷い込まれたただの一般人。
何も知らぬ彼ら、彼女らは、私のバーにて様々な情報を提供してくださるのです。
「ってなわけでマスター、今度ちょっとした紛争が起きるみたいなのよぉ~」
本日は、ちょっとした紛争についての情報。
しかし。
「でもなんか、軍人が変だとか言ってなかったか?噂では、死なない軍人を起用しているとか。‥‥‥‥ま、ただの噂だろうけどな。」
『それは、興味深いですね。そのお話、少々窺っても?』
そう言って今日も情報収集を行うのです。
曰く、紛争に巻き込まれた一般人たちの為に物資を提供する人物がいる、とか何とか。
‥‥‥‥‥‥これは。
『ふふ。では、今日はこの辺りで店じまいと致しましょうか。』
そうして、夜が更け、異形たちの時間となったときに、店じまいをする。
けれど、本日はちょっとしたお客様がいらっしゃるようです。
「やぁやぁ。やってる?」
『えぇ。お待ちしておりましたよ。幽鬼様。』
にこやかな表情でドアを開けて入ってきたのは、文人様のお父上、寿 幽鬼様。
初対面ではあれど、あれだけ情報を撒かれればこちらとしては気づかざるを得ないという物です。
「ふふ、その様子だと、僕についての情報はもう受け取っているみたいだね。説明は必要かい?」
『いえ。ですが、貴方が身分を隠して紛争地帯への物資提供を行うとは意外でしたね。‥‥‥‥マスターに伝えておくことがありましたらお伝えさせていただきますが。』
そう言うと、席について頬杖を突きながら微笑む幽鬼様。
「ま、聞いたとは思うけどさ。ちょっと昔に色々しでかした国が関わってるみたいでね。今回はあの子達には何の関係もないけれど、今後関わることになるかもしれないからと思って情報共有をね。それにしても、よく今日来るって分かったね。」
『それは、まぁ。情報が新鮮なうちにいらっしゃるでしょうとは思っておりましたし。』
そう言って適当なアルコールを提供させていただくと、幽鬼様はそれを少量飲んでからまた微笑みを浮かべるのです。
「ま、君に伝わるようにしたのは僕自身だしね。あぁ、今日の事は。」
『えぇ。マスター達にはお伝えしない方が良いのですよね。』
「そういう事。頼んだよ、忠実な僕、悪魔の王様?」
‥‥‥‥名乗ったつもりはありませんが。まぁ、そういう事もあるのでしょう。
色々なお話をされた後、決して少なくない金額のチップを置いて、彼は立ち去るのでした。
‥‥‥‥‥少々、語り足りない部分もございますが。
この後は、私はいつものように仕込みの時間にしたり、伽羅繰様の睡眠時間をお伝えしに伺ったりするのが日課なのです。
他愛ない、悪魔の王としては非常に平凡すぎる日常。
けれど、これらは決して不快にはならない。
むしろ、愛おしいとすら感じる日常なのでした。
では、今回はこの辺りで。
叉のご来店、お待ちしておりますよ。
体調が‥‥‥‥気圧差や気温差などでちょっとこう、やられてますね。
某感染症にはかかってはいませんが、ちょっとばかし熱を出したり‥‥‥
近々お休みをいただくかもしれません。すみません‥‥‥‥