表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/246

[一章]疑惑の教科書【前編】

一話目です。前後編構成予定で、

前編です



ただ、僕はそれを見ていた。


目の前で起こるその奇怪な光景をただ、見ていた。


そして事がおわったあと、地味に見えた『透き通った空色の髪と瞳の色の少女』はこちらを振り返って問うた。


「どうしたい?」


『      』


僕の答えを聞いた彼女は無表情に頷いた。


「目は、閉じていたほうがいい。」


僕が目を閉じると同時に、彼女が身の丈ほどもある大きな影のような鎌を振り上げたのが見えた、ような気がした。


そうして僕は、僕は—————




____________________________________



いつも通りの日常。隕石が降ってくるわけでもないし。

この平和な日本で誰かがテロを起こしたわけでもない。

エイリアンが地球を襲ったというニュースもなく。

画面に少しひびの入ったスマホをいくらスクロールしても、今日も芸能人のゴシップや家庭の知恵やらどこかの動画投稿者のペットがギネス記録を達成したとかそんなどうでもいい記事しか出て来やしない。動画投稿サイトも大きくなったものだなぁという感想しか出て来ない。


「おい、祐樹(ゆうき)、今日の三限なんだっけ」


そう言って僕の事を後ろからつつくのは、幼馴染の雅哉(まさや)だ。

どうせこいつの事だから教科書を忘れたとかそんな話なんじゃないのかと振り返る。


『三限は数学だから答えの丸写しはソッコーでばれて怒られるぞ。

先々週も同じことして名簿で殴られたばっかじゃないか。』


すると、雅哉は思った通りため息をついて


「あー、三限自習とかになってうやむやになんねぇかなぁ」


と、天井を見上げた。(行儀の悪いことに机に足をのせて)


『ならないだろ。数学って言ったら生徒指導のアイツなんだから、行方不明者とか事故でも起きない限り自習なんかさせてくれないよ。』


ため息をつきながらそう言うと、やれやれといった感じで雅哉が肩をすくめた。


「夢のないこと言うなよ。もしかしたら急に超絶美少女が転校してきたり、世界中がゾンビパニックになったりするかもしれねぇだろ?もしもでもいいからそんな事考えてねぇと毎日退屈すぎてつまんねぇよ‥‥‥‥」


『毎日が代わり映えしないのは同感だけど、だからといって課題が無くなるわけでもないだろ?そんなくだらないこと考えてる時間あるなら少しでもいいから課題やっとけって。』


冷たいかもしれないが、僕らはこれでも来年大学受験生だ。

今年のうちに真面目な生徒たちは学校見学やパンプレットを読み漁ったり、今年は関係なくてもセンター試験について調べている子達だっている。

先輩達がもうてんやわんやになっているのをちらほら見かけるし、受験の事で鬱になりかけている人もいると聞くくらいだから、自分も何かした方が良いんじゃないかと思い始めた時、雅哉が言った。


「なー、この学校ってホントなんもねぇよな‥‥‥‥‥」


『なんだよ今更。ほんっとうに何にもないただの普通高校だろ。しかも選んだの俺たち自身だし・・・・・・・親に言われてとか、事情がある人はいるかもしれないけどさ。』


ガタンっと大きな物音を立てるから驚いて振り返ると、今まさに雅哉が椅子ごと後ろに倒れた様だった。

後頭部をさすりながら立ち上がる様子を見つつ、一応心配になって


『大丈夫か?』


と聞いてみると


「なぁ、これ理由で三限まで休めたりしねぇ?」


なんていうなんとも安心できる返事が返ってきた。


『無理だろ。とりあえず付き添うから保健室行って氷嚢だけもらってこようか。』


そういって一応雅哉の頭の様子を見て、外傷がないかどうかだけ確認する。

どうやらコブにはなりそうだがなんともなさそうで内心で少しだけ安堵する。

これでも小学校からの付き合いだ、たとえ腐れ縁でも僕がボッチでいないで済む理由はいつも雅哉といるからであり、多少だが感謝しているところもあるのだ。(本人には絶対に言わないが。)


そのまま保健室に行く途中、雅哉がこんなことを言い始めた。


「なぁ、そういやこの学校保健室に怪談話とか無いよな。」


何を言い出すんだ本当に。

口に出かかったその言葉を飲み込んで、少しだけ考えてみる。


学校の怪談。それは、全国の小学校から大学にまであるとかないとか言われている都市伝説。

僕自身はそういう系統に詳しくないし、興味もない。

それは雅哉も同じのはずだが、少しだけ表情が真面目だったのと、少し前に騒ぎがあったことを思い出したので話に乗ってみることにする。


『なんだよ急に。前に理科室で出たとか言ってたらしいけど。

あれ結局オカ研の悪戯だったって話だろ?それに、そもそもこの学校自体に七不思議とかそういうもの自体がないはずじゃないっけ?』


雅哉は少し考えるようなそぶりを見せてから、


「や、それがさ・・・・・・・・最近ちょっとだけ真面目っぽい話聞いちまったんだよな。」


と、言い出すのだった。


『は?悪戯とかじゃなくて?』


「ガチの大ガチ。うちの学校、コンピューター系のセキュリティがしっかりしてるからって宿直とかのシステム無いだろ?それのスキを突いたオカ研の悪戯のせいで、先生の見回りが夕方されるようになったらしい。」


その話は僕も知っている。なにせ今日の当番は三限の生徒指導員の教師なのだ。だから今日の部活の多くは早めに活動を切り上げて帰ろうだなんて話しているくらいだから。


『それがどうしたんだよ?』


話の続きを促すと、雅哉は変なことを言い出した。


「俺も半信半疑なんだけどさ‥‥‥たまたま教科書忘れて取りに帰った先輩の話だと、教師の見回りなんか見てないって。それに、学校の雰囲気がいつもと違ってだんだん吐き気がしてくるような気がしたって。」


『や、それはその先輩が気分が悪かったとかじゃ‥‥‥』


雅哉は続けた。


「いや、俺もそう思って、校門のおっさんに聞いてみたらおかしなことが分かったんだよ」


校門のおっさん、とはセキュリティ会社のおじさんらしく、時間外の生徒や先生の出入りの管理をしている人のはずだ。

雅哉はこのコミュ力というもののおかげか、そこのおじさんと仲が良く、たまに忘れ物を無記入で取りに行かせてもらったこともあるそうだ。(ちょっとどうかとも思うけれど。)

その人に何を聞いたのだろうと思い、口を開きかけると、丁度運悪くというか、保健室の前に到着してしまった。

しかも、保健室の先生とも目が合ってしまうというおまけ付きで。


「あら?そろそろホームルームの時間のはずだけれど何かあったかしら?」


『雅哉が椅子で遊んで怪我しまして。』


素直にそう答えると、保健室の先生はそのまま傷の部分を見て


「これくらいなら氷嚢当てておけば大丈夫だと思うから、すぐに準備しちゃうわね。

祐樹君は何か怪我でも?」


僕が首を横に振ると、


「付き添いかしら?後は任せて、教室に帰っていいわよ。ありがとうね。」


と言われてしまった。確かにもうすぐホームルームの時間だし、雅哉の話は非常に続きが気になるけれども仕方がない。

後ろ髪を引かれる思いでその場を後にし、先ほどの話は授業の後に聞こうと決めた。


_______________________



『で、さっきの話の続きって何だったんだよ。』


あの後すぐに戻ってきた雅哉に声をかけると、雅哉は少し考えるそぶりを見せてから


「あ、あれか。大したことじゃないかもしれないんだけどさ、無かったんだってよ。」


『なかったって何が?』


「先輩の名前。」


先輩の名前が無い。この言葉の意味を理解する前に、雅哉は補足してくれた。


『おっさんに名簿見せてもらったんだけどさ、先輩の名前が載ってなかったんだよ。

先輩は必ず名前を書いた筈だと言っているのに、だ。』


‥‥‥‥‥‥?


「つまり、先輩の嘘ってわけじゃ」


『そしてこれがその先輩に借りた教科書』


有無を言わさずに一冊の教科書を渡された。

そして一分ほど考えてから驚愕する


『文字が、反転してる』


そう。教科書の絵や文字などが何一つとして残らず反転しているのだ。

落丁や乱丁などではありえないし、その先輩らしき人の手書きの名前まできれいに反転している。

それを見て、僕は心が高揚するのを感じた。


『本物、ってことだよね』


「あぁ、さっき聞いてきたんだけど、“元の場所”にも、忘れたままの状態で教科書があったらしい。」


感情の高ぶりが抑えられない。ちゃちかもしれない、いたずらかもしれない、だけれども確かに僕は高揚している。つまらない日常の中にもこんな非日常があったんだと、きょうこのひのためにぼくはうまれてきたんじゃないかとすら


「おい!!!!!!」


雅哉に肩を掴まれて、はたと我に返った。

自分の手の内のものを見る。

反転した"おかしな"教科書。ただそれだけがある。

教科書はとても強く握られたかのように表紙がくしゃくしゃになってしまっている。


自分の手を見る。

僕の体力測定はD。握力は女子にも負けそうな11。

なのに、どうしてか僕の手は表紙が歪むほどの力でその教科書を握っている。


『あ、え、あれ・・・・・』


雅哉が少し焦ったように僕のことをのぞき込む。


「おまえ、今一瞬変な笑顔浮かべてたぞ‥‥‥

なんか様子もおかしかったし、顔色も今すっげえ悪い。休んだほうがいいだろ。」


そんなつもりは、と言いかけて手におかしな力が入り、教科書を手放すのに時間がかかることに気付く。

手放す、というより手を剝がす、みたいだ。


『悪い、心配かけた・・・・・・・でも、大丈夫。

‥‥‥‥うん、大丈夫。』


手を見つめながら握って開いて、元通りになったことを確認する。

それよりも、確認したいことができてしまった。


『あの、雅哉‥‥‥‥』


「わかってる。今夜学校に来てみたいんだろ?」


『うん。なんでこんなことになってるのか、調べてみたい。』


探求心がうずくというのだろうか。このままこの謎を放置したくない。

僕らは今夜の予定をたてることにした。

僕は教科書を同じように置いていくようにした。

雅哉は三限に課題のことで怒られついでに持ち込み禁止の携帯を見つかり没収されたのでそれを回収しに、話に聞いた先輩が学校にいたのと同じ20時頃に学校前で集まることにした。



そして、僕らはこの選択を盛大に後悔することとなる。




2022/04/22修正内容なしなのでこのままです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ