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幕間⑪お手伝いの日々と。

ちょっと久々な子の登場です。


私の名前は塔矢 スゥ。

外なる神様、トゥールスチャの器として、そして、クローネさんがトップを務めている子の孤児院の中でお手伝いをさせてもらっている身分なのです。

‥‥‥‥とはいえ、自分は少々‥‥‥えぇ、少々不器用なので、あまりお役に立てているかは疑問なのですが。


「スゥー?ちょっと手伝ってほしい事があるんだけど。」


クローネさんは、子供たちの前ではとっても優しいお兄さん(?)お姉さん?をしているのがすごいなと思うのですが。基本的に用件があってスゥや他の子達を探す時以外にはあまり声を出さないのです。‥‥‥‥綺麗なお声をしていると思うのですが。


『今向かうのです。っと、わぁっ』


「全く、スゥ姉ちゃんまた転んだー。クローネ兄ちゃんー。」


孤児の子に手を引かれて、クローネさん(今日も美人さんなのです。)が姿を現す。


「大丈夫か?」


スケッチブックに書かれた文字を見て、苦笑する。


『これくらいは平気なのです。あはは‥‥‥』


笑っては見せるけれど、差し出された手を取る勇気が自分にはない。

これは、孤児院が孤児院になってからずっと変わらないことだった。彼の筆談と同じように。


『よ、っと。』


ふらふらしながらも立ち上がると、自分の膝が少々擦りむいたのか血が滲んでいることが分かる。


「スゥ姉ちゃん、大丈夫?ばんそうこう持ってこようか?」


そう言ってくれる孤児たちへ曖昧な笑みを返して、自分は手洗い場へと走る。

皆から急いで距離を取るかのように。


(これは、きっといけないことなんでしょう。でもスゥには、これ以外のやり方が分からないのです。)


葵から、話を聞いた。自分の内に在る神様がどういった存在かについて。


「トゥールスチャは、命を吸い取る神様。近くにいるだけで、トゥールスチャに近寄った生命体の悉くは寿命を奪われる。‥‥‥‥スゥの場合は、ちゃんと封印をしてあるから大丈夫。他の人と触れ合っても問題ないよ。」


あの時言われた言葉は、今でもずっと覚えている。

どんどんと成長してゆく孤児たち。一切外見の変わらない自分と、クローネさん。

それだけで。たったのそれだけが、自分にとっては苦しくて、痛くて仕方がない。


『スゥは、誰の命も欲しくはないのです。スゥに近寄ることであの子たちの未来を奪ってしまうなら、スゥはここにいてはいけないんじゃないでしょうか。』


傷を洗ってから地面にぺたりと座り込んで、キャッキャと遊ぶ孤児たちを見る。

あの子達は自分やクローネさんをとっても慕ってくれている。

それは分かっていても、もしも。本当にもしもだけれど。


(スゥの近くにいることで、あの子達の命が奪われてしまうというなら‥‥‥‥)


『いなくなりたいと思うのは、傲慢でしょうか。』


「いえ、貴女の言うことは間違いではありませんし、とても大切なことだと思いますよ。」


『ぴゃあああああああああああああ!?!!?』


びっくりしたのです。

座っていてよかった。立っていたらまた転ぶところでした。

急に声をかけてきたのは、ノワールさん。

孤児院に色々なものを届けてくれる、葵曰く悪魔さんなのです。

でも、スゥにはそうは見えないのです。

確かにノワールさんはちょっと人間離れしていると思うのですが、きっとそれだけ。

どれだけ強力な力を持っていたとしても、“葵の従者”であることに変わりないのです。


『できれば、声をかけてから寄ってきて欲しかったのです‥‥‥‥‥』


「すみませんね。貴女があまりにも深刻そうな顔をするものですから。‥‥‥‥それで、何でお悩みですか?」


‥‥‥‥‥取るに足らない自分の、こんな悩みを問うていいのか。

そう、迷ってはしまうけれど。


『お聞きしても、良いですか。』


彼が答えをくれるなら、と。つい、甘えて問うてしまうのです。


「えぇ。何なりと。」


そう言って微笑むノワールさんは綺麗なハンカチを広げて私に立つようにジェスチャーしました。

なので、ちょこっと立ってお尻の砂を払うと、スゥが座っていた場所にハンカチを広げてくれるノワールさん。

ちょっと戸惑ったけれど、仕方ない。ちょこんとそのハンカチの上に座ると、にっこり微笑んだノワールさんが私が話すのを待っているのを感じました。


『スゥの中にいる神様は、命を奪う神様だと聞きました。そして、ちゃんと封印がされていることも聞きました。葵から。‥‥‥‥‥‥でも、でもですよ。それは、スゥがここにいていい理由になるんでしょうか。もし万が一のことを考えて、スゥは、この孤児院を離れるべきじゃないかと、時に考えてしまうのです。』


そう悩みを吐露すると、ノワールさんは少し考えてから私に向けて微笑みかけてくるのです。


「貴方が命をとても大切にしている事。それは非常に人間として大切な事だと思いますし、そこから考えを展開すれば、貴女の今抱える疑問に到達するのはおかしくはない事でしょう。けれど。私だって、マスターの従者なのですよ。」


‥‥‥‥‥?ちょっとよく分からなくって首をかしげると、ノワールさんが微笑みました。


「つまり、マスターの施した封印を、私も施せる、ということです。ですから、貴女は自分の力を理解し、恐れるのであれば、ここを離れるのではなく、逆にここにいなければならない。」


‥‥‥‥‥ちょっとだけ。ちょっとだけですけれど、ノワールさんが誇らしげな顔をした気がするのです。基本的に表情の分かりづらい人(?)ですけれど。


『‥‥‥‥‥でもノワールさんだって、やらないといけないことがあると思うのです。そんなときにふとこの枷が外れてしまったら。そう考えると怖くなるのです。』


えぇ。きっとこれは杞憂なのでしょう。けれど。0.1%でも、その可能性があるなら。スゥは、自分は。きちんとこの力の責任をとれるようにしないといけないのだと思うのです。


「‥‥‥‥‥‥であれば。スゥ様。貴女がその力を制御できるよう、私が時折教えに参りましょう。」


『え。』


「そうすれば、“何かあったとき”、貴女は自分一人でその問題を解決できるでしょう。いかがですか?」


そう問われて、私は即座に頷きました。


『えぇ。えぇ!お願いしたいのです!ちゃんと、スゥが、スゥを怖がらなくって済むように。みんなに気を遣わせないように。みんなと、堂々と手を取り合って遊びたいのです。』


そう言うと、ノワールさんはまた微笑むのです。この人は、あまり微笑み以外の表情を見せません。時に、嘘のような笑顔を浮かべることだってありますが‥‥‥でもそれも、仕方のない事だと思うのです。だって、彼は悪魔さんなのですから。


「ふふ。では、いつから始めましょうか。スゥ様。」


楽し気に笑うノワールさんと、スゥはいつ練習するかの計画を立てるのです。

‥‥‥‥‥お手伝いの時間が減ってしまうから、クローネさんには少し迷惑をかけてしまいますが。でも、きっと最後にはみんなの為になるはずだから。

だから私は、まずその一歩目を踏み出したのです。




ま、ノワールさん的にはマスターの事しか考えてないので完全な良心でという訳ではないでしょうけれど。

でも、それでも彼女にとっては救いとなったことに間違いはないのです。

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