[三部一章]久方ぶりの再会
緋炎さんは甘味がお好き。
思い出したついで、というのもちょっとかわいそうかもしれない。
そう思いつつ、久しぶり?に警察の中の異形課を担当している、青髪の彼、緋炎に連絡をして、指定したおすすめの喫茶店にて伸びをしながら待つ。
暫くすると、カタ、という音と共に向かいの席に待ち人が訪れる。
『久しぶり緋炎。元気にしてた?』
「‥‥‥‥‥‥‥正直に言うと胃薬と生活を共にしているような状況だ。‥‥‥‥少々人材を増やしてもらえないだろうかと打診しようか迷っていたくらいだったが‥‥‥‥あんな連中が増えるとなると今の量では胃薬が足りなくなる。だから迷っていたところだ。」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥宮叉、という人物がいなくなってから数年、かな。その最中、流石に異形課に緋炎一人では大変だろうと追加で二人の人材を採用したのだけれど。
『あちゃー。もしかして割と大変?』
「割と、どころでは済まないな。片方は堂々と副業でネイル、片方はゲーム機を持ち込んで堂々とプレイ。書類仕事は大量に回ってくるにもかかわらず、実質仕事をしているのは俺一人、といった状況だ。」
‥‥‥‥‥これは、ちょっと、というか大分想定外の回答が返ってきた。
『わぁ‥‥‥‥‥ちなみに“異形課”としての素質は?』
「全く問題ない。というか仕事があればあの二人もまともなのだ。だからこそ言いづらくてな。」
それは‥‥‥‥‥ご愁傷様としか言いようがない。
普段がダメダメで仕事の時はきっちり‥‥‥‥まるで内亜みたいだ。
「葵、なんか変なこと考えたでしょ。」
そう言ってひょっこりと姿を現す内亜。
『ちょ、人前なんだから一応確認してから出てきてよね。それに、変な事考えたとしても内亜が悪いんだから仕方ないじゃない。』
そう言って内亜を引っこめると、緋炎が頬杖をついたまま語りかけてきた。
「んで?お前の方はどうなんだ。‥‥‥‥‥なんだか以前よりも表情豊かになったように思えるが。」
そう言われて、思わず笑みが零れる。
それを見た緋炎が目を丸くするから、余計に。
『うん。色々と変わったよ。‥‥‥‥多分、良い方向に。』
すると、緋炎はふわりと微笑んだ。
「そうか。‥‥‥‥‥なら良かった。多少心配だったからな。出会った当時のお前はまるで‥‥‥そうだな、機械のように何も感じないような存在だと思っていた。だからこそ、当時は悪いことを言ってしまったな。すまん。」
‥‥‥‥そう言われて、大火災の後、初めて緋炎と話した時の事を思い出す。
「あの人がいなくなった!?その説明だけで納得するわけないだろ!!!」
『そう言われても、いなくなったものはそうとしか言えない。こちらでも探しはするけれど、君のいる課はそういう場所だ。何があったっておかしくない。』
「だからって!‥‥‥‥‥‥ってまさか、創設者ってアンタか!?アンタが俺たちに何もしてこなかったせいで、俺たちがどれだけ苦労したと思ってんだ!!」
『仕方ない。この街には異形の事件が少なすぎた。だけど今後は拡張されていくはず。残されたきみは前を向くしかない。』
‥‥‥‥‥‥今思い返すと、大分酷いことを言ったと思う。
緋炎は自分が言いすぎたというけれど、それは緋炎の気持ちを考えられなかった、理解できなかった私のせいだ。
『あの時は、私も感情についてちゃんと理解できてなかったのが悪い。ごめんね。』
沈黙が訪れる。‥‥‥‥‥ちょっと気まずい。
「けど。あれからお前を気にかけていたが、良かった。‥‥‥人間ではないのだろう。お前は。昔のお前は、それを気にして、敢えて自分が人間でないからと他者と距離を取っているように見えたからな。」
「大正解~。葵、流石警察官くんだねぇ。」
『内亜五月蠅い‥‥‥‥‥でも、うん。‥‥‥そうだったと思うよ、当時は。でも今は違うって言える。それが、今の私にとっては凄く大事な事なんだ。』
そう言うと、緋炎は優しく微笑んだ。
「そうか。‥‥‥‥きっといい出会いでもあったんだろうな。」
『であっ‥‥‥‥‥確かに、あったけど‥‥‥』
文人の事を思い出して、少々顔が熱くなるのを感じる。
すると、私の表情を見た緋炎が意外そうな顔をする。
「お前‥‥‥‥‥友人でもできたのかと思ったが、恋人でもできたか?」
『っ、』
「緋炎緋炎、正解正解。半分は人間じゃないけどね~最近できたんだよ。ね、葵。」
『う、内亜!!!!』
つい叫んでしまい、周囲の注目を浴びてしまう。
私は誤魔化すように咳払いをして、ウェイトレスさんに注文をする。
『———と、あとこれと、これ!』
「甘いもの頼みすぎじゃないか?‥‥‥‥まぁ、昔からか。」
そう言って緋炎もいくつか甘味を注文する。
『いいのいいの。んで?人はいても大変なら、増員するように伝えておくけど‥‥‥』
「‥‥‥‥‥リスクもあるが‥‥‥頼む。できればお前が見立ててくれると助かるが。」
ふむ、と一瞬だけ考える。
けれど、仕方ない。選ばせたら大変なことになったのなら、私が選んだほうが良いだろう。
『分かった。完全にとは言えないけど、ちょっと見立ててみるよ。』
そう言ったところで、注文した甘味が提供される。
この後の話は甘味を食べてから。それは緋炎も同じ思いだった様で、二人で静かに甘味を堪能する。
さて、どんな人材がいいかな‥‥‥‥‥‥
今後の行く末も気になるところ。さて、また明日の更新にてどんな人員が来るか分かることでしょう。