[三部序章]苦労人、見参?
とうとう来ました第三部。
全く今日も胃が痛い。
それもこれも、うちの課の部下共のせいだ。
俺は蒼江 緋炎 (あおえ ひえん)。異形だらけのこの街、アカイム街の特殊な事件、つまりは異形たち関連の事件についての専門の課、異形課にいる。
チーム員はそう多くない。羽鳥 黒依 (はとり くろえ)、それと、公月 白葉 (きみづき しろは)。
今はこの二人がチームメイト。なのだが。
『どうしてこう、お前らは事件解決の度に始末書案件を起こすんだ‥‥‥‥‥ッ!!!!』
事件に対する対応速度、対応内容などは完璧に近い。けれど。
「だって、通せないとか言うから道から外れたところから行くしかなかったんだもの。」
そう言って街の壁を壊しながら事件現場へと直行(文字通り。)した黒依。
「ちょっと普通の一課とか二課とかが、連絡届いてから動けーとか言って俺らの事邪魔するのが悪いんですよ緋炎さん。俺ら悪くないし。」
「「ねー。」」
そう言って他の課の人材を暴力という名の強行突破で押し通って色々な奴に怪我をさせて帰ってくる白葉。
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥まともな人材が、欲しい。(切実に。)
どれもこれも、俺に全部押し付けて消えてしまった、あの宮叉先輩のせいだ。
そう勝手に責任を頭の中だけで押しつけながら、俺は机に突っ伏す。
割と予算がきちんと分配され、そこそこの食事もできるくらいの給料が出るようになったのは、あの事件、宮叉先輩が消えた、アカイム街大火事事件の後からだ。
昔は物置かってくらいに狭かった部屋に配属されていたのに、今では一般の課と同じ程度の広さを持つ部屋を割り当てられている。‥‥‥‥三人でこれは、まぁこれで広すぎるけれど。
(あんたに言う愚痴、無くなっちまったじゃないっすか‥‥‥‥)
溜息をつき、入れたコーヒーを飲む。‥‥‥‥‥無駄に余った予算を後から持っていかれないように仕入れたちょっと良い豆を使ったコーヒー。香りも、味も、言うことなし。
『‥‥‥‥‥あの書類の束さえなければ最高なんだがな。』
そう言いながら、ちらりと見たくない量になっている書類の束を見る。‥‥‥‥‥これを今日中に終わらせろと?嫌がらせにも限度ってものがある。一日は24時間だと学校で教わらなかったのだろうか、上層部は。
キリキリと痛む胃が、この高級コーヒーをブラックで飲むなと訴えるので、ミルクを入れてまろやかにしてからグイッと一気に飲み込む。
『んで。お前らは何をしてるんだ。』
そう言って二人を見る。
「ネイルです」
と、羽鳥。
『家でやれ。次。白葉。』
「ジェンガです。やります?」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
『家でやれえぇぇぇぇぇ!!!!!!!』
思わず叫ぶ。
「わ。」
白葉の積み上げていたジェンガ (なんか丁度危ないところだったようだ。)が崩れる。
「あーっ!!もう!ズレたじゃないですかぁ!!これ出品予定だったのに!」
『堂々と国家公務員が副業をするな!!』
ああああああああああああぁぁあもう、胃が痛い。胃が痛い‥‥‥‥‥
いつものように、縋るように胃薬を胃の中に流し込んで、二人を整列させる。
『おい。お前ら、ここをどこだと思ってる?』
「「職場」」
『だったらもっとマシな事をしろ!!見ろ!!お前らの行動のせいで増えたこの書類の束を!黒依!これお前の分!白葉はこれだ!!』
苛立って適当に仕事を振る。
「緋炎。これアンタの捺印必要なんだけど。」
「これもです~先輩。ってか大体捺印とちょっと名前書くくらいじゃないですか?なら緋炎さん一人でもできるんじゃ」
『おー、奇遇だな。お前らのせいで書かされる書類は全て上司である俺の元へと来るらしい。ほら、捺印用の印鑑だ。いくつか持っているから問題ない。遠慮なく使え。書かないといけないとこだけは書いてやる。』
そう言って捺印用の印鑑を投げて渡す。
は?俺がやるべきだ???やってられっかこんなクソ作業!!!!!!!!!!
『ったく、お前ら宮叉先輩がいたら殺されかねねぇからな?あの人帰ってきたら覚悟しとけよ。』
「あ~、出た出た、緋炎さんの昔の先輩自慢。」
『茶化すな白葉。俺だって思い出したくない部分だって‥‥‥‥いや、何でもない。作業しろ、作業。』
むすっとしながらも黙々と作業に取り掛かり始める二人。
ちゃんとやれれば仕事はできるのに、どうしてこう、一癖も二癖もある人間とばかり一緒に組まされるのだろうか。
(俺なんか前世でやらかしでもしたのか?)
そう思わざるを得ないくらい、この二人の普段の態度はひどい。
こんなことなら、“彼女”を呼ぶべきだった。
‥‥‥‥‥‥
(いや、あいつはアイツで忙しいか。)
浮かんだ考えをすぐさま頭を振って消し去る。
あの、業火の中、ショッピングモールへと、影のマントを羽織って一人俺以外の誰にも知られぬまま飛び込んで行き、その後しばらくしてから、何もなかったことを報告しに来てくれた少女。
あの後、何故か少女の働きかけによって課の待遇は相当良いものになった。
けれど。上層部は、宮叉さんがいなくなったことを、殉職したのだろうと推測して葬式を挙げた。‥‥‥‥‥納得はしていない。
だって、あの彼女、葵が言ったのだ。
「中には警官の遺体は無かった。君の上司は生きているかもしれない。」
その言葉を、ずっと心に刻み込んできた。
あの人を探す。それだけを胸に、日々の面倒な仕事をこなし続けてきた。
あの人のように上手く回すことはできないし、できていないけれど。
(宮叉さん。‥‥‥‥‥‥アンタは、いったい今、何処にいるんですか。)
空を見上げながら、込み上げてくるものを押し殺して二人の様子を確認する。
‥‥‥‥案の定というか、さぼろうとしていた。
『おい。お前ら、仕事が残ってるぞ?』
「きゅ、休憩に」
『さっきのネイルの時間が休憩だ。終わったな。』
「お手洗いに」
『さっき行ってた直後だろ。さっさと始めろ。』
そう言ってぶつくさ言う二人を宥めて(?)席に着かせる。
(‥‥‥‥‥。)
空席の、けれど、上着だけが椅子にかかっている席を見つめる。
(いつでも、戻ってきてくださいよ。‥‥‥‥‥宮叉さん。)
彼の帰りを、自分はずっと待ち続けている。
さて。序章ですが次の一章ではこの人たちは出て来ません。もうちょっと後になるかな?
それともこの人たちの話を先にしようか。考え中です。ではまた次回。