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[二部九章]大事な話

前回の続きです。


じっと黙っていても、文人の反応は帰ってこない。

ちょっとぶっきらぼうすぎたかもしれない。そう思って一瞬ちらりと彼の表情を見ると、ちょっと真面目そうな顔をしていた。‥‥‥‥‥なんだろうか。おかしなことでも言ったかな。


『幽鬼にさ、言われたんだ。面倒なのに好かれたね。って。

でも、私はそうは思ってない。別に強がりだとか、意味が分かってないとかじゃなくって。

ノワールや内亜は、その性質からか君の奥底に潜む闇がどうのこうの、深淵がどうのって言ってたけど。そんなこと言い始めたら、私の方がよっぽど化け物らしいやって思ってる。

‥‥‥‥‥文人は、何をどう欲張りたいのかもっと言って良い。私は、それをおかしいとは思わないから。』


そう告げると、少しの沈黙の後、返答が返ってきた。


「‥‥‥葵に、好きだってもっと言いたい。それに、好きだって葵からももっと言われたい。

それが、僕の欲張り。そんな、化け物がどうとか、そういう話じゃないんだ。

一人の人間として。君がどんな存在であろうと、一つの存在として、そう思う。」


つい、ちょっと嬉しくなってしまったけれど。‥‥‥‥‥それじゃ、いけないと思ってしまうのは私だけなのだろうか。


『文人がどう思って、どう行動して、どういった行動、言動をしようとも。少なからず、“私といる。”それだけで、そういった情報は付きまとう。それでも。私がたとえ、どんなに醜い存在だと知らされても、君は、文人は私の事を好きって言い続けられるの?』


純粋な問い。けれど、ちょっと意地が悪い問いだと思う。

けれど、事実でもあるから。聞かないと、後から傷つきたくは‥‥‥‥‥


そこまで考えて、ふと笑いそうになった。

他者と関係を断っていた過去の私。

その垣根を越えて、ただ好きって言うだけでその垣根を飛び越えて、私に直接ここまでの感情をぶつけてくる文人。

‥‥‥‥そこまで分かっていて、傷つきたくないからってだけで避けようとしていたのか。私は。怖がっていたのか。‥‥‥あぁ、本当に。そんなことを思う日が来るだなんて夢にも思わなかった。

自嘲気味に微笑むと、文人が作業の手を止めてこちらを見てくるのが分かった。

だから、ちょっとの恐怖心なんかに負けていられないな、と彼の瞳をじっと見つめる。


「一目惚れだって言っただろう。何があっても嫌いになることは無いよ。」


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ばかみたいに真っすぐすぎて、ちょっと自分の事がバカバカしくなった。

ひとめぼれ。辞書や小説でちょっと調べてみたけれど。

彼の中にある、私に対する愛情、それは、そこまで熱のこもっていない物のはずだった。

一目惚れ、って、冷めやすいとすら書いてあった。

けれど、彼はそれを理由にする。

‥‥‥普段の私なら、そんな適当な理由で私をどうにかできるのかと問うかもしれない。

けれど、今はそんな気、起きなくって。

だって、彼がどれだけ本気か、その声に籠る熱量で分かってしまうから。


『‥‥‥‥これは、確かに厄介極まりないね。』


ふと、微笑みが浮かんだ。そして、ちょっとした意地悪をしたくなった。

バカバカしいことを考えさせられた代価みたいなものだ。


『とはいえ。私は人間達の好き同士って関係が何をするのか、どうするのか。そう言った知識は一切持ち合わせてはいないし。それに、勉強する気も (もう)無いし。だからその辺りは任せるよ。よろしく。』


そう言うと、文人はクスクス笑った。

そして私の髪をひとすくいすくって、ふれて、微笑む。


「そっか。手繋いだり、名前呼び合ったり、キスしたり、デートしたり。そう言ったこと分かんないかぁ。じゃ、僕が教えないとだ。‥‥‥あ、今度デートいかない?」


『でーと。』


好き同士。恋人同士が行う物だと小説では描写されていたけれど、実際のところ何をすればいいのかは分からなかった。‥‥‥‥まぁ、多くは一緒に買い物に行くこと、みたいだったけど。


『分かんないけど。いいよ。ちゃんと教えてくれるんならね。』


半ば投げやりになってそう言うと、文人はにんまり笑って私の手に文人の手を添える。


「うん。良い場所、知ってるから。たくさん連れてってあげる。」


本を読む邪魔になるのだけれど。そう言って手を放そうか迷ったけれど、やめた。


『甘味処多め。』


簡単に要求を伝える。

正直、買い物って言っても私には欲しいものなんかないし、見るとしたら甘味処でのんびり甘いものを頬張るのが幸せだなと思うくらいだ。‥‥‥‥‥‥内亜には、虫歯になるって言われたけど、関係ない。魔術でちょいちょいってしたらそういう‥‥‥‥虫歯に関係する菌とか、食べかすとか。綺麗さっぱり消してしまえるし。


(魔術の無駄遣いだぁぁぁぁ!!!!なんて、内亜は叫んでたけど。ああいうのを有効活用っていうんじゃないだろうか。)


そんな話を思い出しながら文人の方を確認すると、瞳を輝かせて嬉しそうにしている。


「いいよ!お眼鏡にかなうかは分かんないけど、美味しいとこなら沢山知ってるし。」


(だったらさっさとたくさん連れてって欲しかった。)


『‥‥‥‥楽しみにしてる。』


こころの声は潜めておいて。

すると、文人はにっこり満面の笑みで頷いた。


「うん!」


‥‥‥‥‥よし。甘味処が楽しみだ。




葵さんやい。そこじゃないんじゃよ。デートの醍醐味はそこじゃないんじゃよ。

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