[二部九章]つたえ、つうじる。
よーやっとですよーーーーー
『えぇと、それは、その。』
自分自ら墓穴を掘るとかどうかしてる。
普段、敵団体とかと会話するときなんかはよく相手に墓穴を掘らせてどうにかとかしてたけれど、まさか自分自らしでかす日が来るとは思ってもなかった。いや、本気で。
「その?」
文人の声音がとっても楽しそうだ。うん。
『うぅ‥‥‥‥‥』
小さく呻きながら、文人の表情を確認する。
満面の笑みである。怖い。
「ノワールに何か吹き込まれたでしょー。」
『な、ななな何にもないよ!本当に!ノワールからは何も言われてない!』
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥ん?
「へぇ。」
すぅっと文人の声音が低くなる。ちょっと待った。今私なんて
「ノワールからは、かぁ。じゃあ、誰に言われたのかな?」
『あ。』
すぅ、っと自身の表情が青ざめるのがこれでもかとばかりに分かる。
『‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥き、かなかったことに、は。』
冷汗をかきながらもちらりと表情を確認する。
意地悪な笑みを浮かべている文人。‥‥‥‥‥これは、こう、駄目そうな気がする。
「ならないよ。あーおーいー。」
とても楽しそうな笑みを浮かべながら近づいてくる文人。
つい顔が赤く染まる。
『ふぇっ!?』
そして、咄嗟に絞り出した言葉は。
『あ、文人!文人だってノワールに何か言われたんじゃないの!?』
である。
現実逃避にも程があるという物だ。
だが、案外これが効果てきめんだったらしい。
逆に文人の方が顔を真っ赤にした。
「も、もー!自分のことを棚に上げて!!‥‥‥‥‥‥ふぅ‥‥‥ただ、関係性の進展はどうかと聞かれただけだよ。ほら、葵の事を惚れさせるって父さんのところで言ったでしょ?その進展。‥‥‥でも何でノワール知ってたんだろう、マジで‥‥‥‥」
‥‥‥‥‥‥私はついと視線を逸らした。
口が裂けても私が犯人だとは言えまい。
『さ、さぁ。どうしてだろうねー。』
どうしても、棒読みになってしまう。
瞬間、文人が顔を赤くしたままこちらを軽く睨む。可愛い。
「ノワールに言ったの葵でしょ!!絶対!!」
流石にバレるか。そう内心で思いつつ心の中だけで口笛を吹く。
『だ、だって、当時はこんなことになるだなんて思ってもなかったんだもん。』
そう言うと、ふと真面目な顔になって私を見つめる文人。
‥‥‥‥そういう、急にギャップを見せてくるのは勘弁願いたい。
「じゃあ、今はどうなの?少しは僕の事、見てくれてる?」
『う‥‥‥‥‥』
‥‥‥‥‥
見てないわけ、ない。だって。
『見てなかったら、こうはならないよ。』
ぽつりと零れた言葉に反応して、嬉しそうに微笑む文人。
「えへへ、嬉しいなぁ~少しは葵に近寄れたみたいで。‥‥‥もっとたくさんの事を教えられたらいいのに。」
どうして、こんなことでこの人はこんな嬉しそうな顔ができるんだろうか。
ふと気になって、聞いてみる。
『たくさん、って?』
そう問いかけると、瞳を輝かせて私を見つめる文人。
「沢山はたくさんだよ!葵が知らなさそうなこと全部!!」
クスリと笑いが零れる。
彼がそんなにも楽しそうに語るのなら、きっと面白い事なんだろう。
『うん。‥‥‥‥気になる。』
ふと、この思いを伝えたくなった。
伝えられそうな気がして。
「でしょ?だからもっと、近くなれたらなって思うよ。」
だから。
『うん。‥‥‥‥ねぇ文人。聞いて?』
「うん?なんだい?」
不思議そうにする文人に、私は笑いかける。
笑える、ようになったことを見せたくって。
『これが、本物なのか。私には分からないけれど。』
一呼吸おいて、はっきりと伝える。
『すきだよ。きみのこと。』
一瞬面くらった様子だったけれど。
すぐに文人は嬉しそうに微笑む。
「うん、僕は会った時から好きだよ、葵。」
照れくさそうにはにかむ彼の表情を見ているのが楽しくて。
なんとなく満足して、私は異空間から本を取り出す。
『ん。』
そう言って本のページをめくる。
‥‥‥‥‥少しだけ、照れ隠しが混ざっているのは内緒だ。
「ん~~~‥‥‥まだちょっと遠いのかな‥‥‥‥」
そう呟く声に、本から視線を外さずに応じる。
『何が?』
すると、苦笑するような声と共に返答が返ってくる。
「や、何でもないよ。君にそう言ってもらえて、少しだけ近づけただけ重畳ってね。」
半分以上本の内容に思考を持っていかれているからか、ちょっとよく分からない。
だから、そのまま適当な受け答えをする。私のやりたい事、やっといたら?って言われたことはもう済んだから。
『不満?それならどうしたらいいか教えてくれないと困る。』
適当な返事をしたにも関わらず、帰ってくる声はとても楽しそうで。
それが、ちょっと不思議でならない。
「好きってもっと言ってくれると嬉しいな~って欲張っただけ!」
‥‥‥‥‥ふと、本から顔をあげて文人の瞳を見る。
一瞬、言おうか迷ったけれど。彼があまりにも寂しそうな顔をするから。
『欲張ればいいのに。そうじゃないと、私はどうしたらいいか分からないんだから。』
ちょっと、ぶっきらぼうに言いすぎたかもしれない。
そう思いながらも、これ以上言うことなんて見つからなかったから、私は本へとまた視線を落とす。
伝える時は案外あっさりな葵さん。もう少しだけ続きます。ではまた明日。




