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幕間③

幕間をはさんでみました。

まだ何も知らない頃の葵さんのお話です。



その日はネフィウスに見せたいものがあるからと連れてこられた日だった。


見たことのない場所。ネフィーと暮らしている山とは違う、強い日差しが土と風を乾かす土地。


風よけにと渡されたマントで鼻のあたりまでを覆い隠す。


ネフィーに示された方角をスコープ越しに見る。


銃を持った人間達がお互いに向けて撃ち合っていた。


地面には倒れて動かなくなった人間もいる。


『何を見ろっていうの、ネフィー。』


私は無感情にそれらを見つつ背後に立つ人物へ問いかける。


「あれが、“人間”だということを見てほしかっただけだ。」


ここからでは豆粒ほどにしか見えない人間達。


その動く数は、少しずつ減っていた。


『何であんなことをしているの。』


ネフィウスに問う。


「何かを守るため、だそうだ。」


答えはとても簡素なものだった。


『何かって、何?』


なんとなく、気になってもう一度だけ聞いてみる。


「あいつらにとっては大切なものだ。土地と豊かさ、それから権威。」


権威や豊かさ。それらの大切さを、私は理解できなかった。


「お前には理解できなくても人間にとっては大事なものだ。」


『何故それらを奪おうとするの』


私にはやっぱり理解ができないことだった。


「さぁな。けれど人間はそれを得て満たされる。強欲な生き物だからな。」


『ごうよく。』


言葉を反芻してみる。なんだか口の中でぐちゃぐちゃして嫌な言葉だなと思った。


「ああやって戦い殺し合い、相手の国を侵略し、それらを得ることで満足感を得るのだろう。」


静かにネフィーが言った。


『それには何の意味があるの?』


「さぁな。負けた兵士を奴隷にすることで労働力も得られるし、そういうこともあの戦いの理由の一つなのだろう。」


なんだかぐちゃぐちゃな理論だと思った。


『でもそのニンゲンを殺しては意味が無いんじゃないの。』


「それを奴らに聞かせてやりたいさ。」


ネフィーは静かに、静かに呟いた。


『言いに行く?』


「いや、きっと意味などない。」


聞いてみる。

けれど、ネフィーはそれをする気が無いようだった。


『そっか。』


「あぁ。‥‥‥さてと葵、あの規模の戦闘を、お前ができるやり方で止めて見せろ。」


ネフィーは急に私の方を向いて言った。私は少しだけ驚く。


『‥‥‥‥‥‥‥私のやり方、でいいの?』


「あぁ。」


『ネフィーは私にはもっとできることがあるって言った。』


私のやり方は“強引”だと、もっとスマートにやれると彼は言っていたのに。


「今はできないだろうな。だから覚えておくんだ。」


ネフィーの声音が少し硬い。

きっと、本当は私にやってほしくないことなのかもしれないと、そう思った。


『‥‥‥‥‥そう。』


けれど、師匠の言葉には従うと言った。

だから、私はレジーナを構えてあの豆粒の集まりに向けて構える。


そして引き金に手をかけた。


轟音と共に、豆粒は紅いペイントに変わった。


『2000と、450くらい?』


簡単にだけれど数えてみる。

ネフィーがピクリと反応した。


「なぜ、数えた?」


なんとなくだった。けれど、口から出る言葉に任せてそのままを答える。


『無くなったものが、それ以上にありそうな気がした。』


頭を撫でられる。

何故だろうか。


「いつかあの中で力を振るうことがあるだろう。その時には、必ず、相手の顔を覚えておけ。」


こくりと頷く。


後から聞いた話だけれど、彼らの行いの事をニンゲンは“戦争”と呼ぶそうだった。



———————————


あれから数十年が経って、内亜という相棒ができた頃。

もう一度あの場所へ向かう用事ができたとネフィーに言われた。

土砂降りの雨の後で、山崩れが起こった村でネフィーと二人、手伝いをしていると、急に声をかけられた。


「葵、侵略だ。力無い者達が一方的に奪われる戦争だ。今すぐ止めてこい。」


そう言って、ネフィーは私を崖の上から放り投げて(え?)


「10分で済ませろ。」


そう言って見守る体勢に入ったのだった。


『ちょ、わっ』


内亜が黒い翼を広げ、滑空する。


「葵、無茶ぶりだけど多分応えないと怖いよ、あれ」


内亜が言いながら影の鎌を出してくれる。


『え、え、このぐちゃぐちゃしてる中の制服の方を全部殺せばいいの?』


「うん。さぁ、暴れるよ、葵。」


内亜が嗤う。


最後の兵士に鎌を振り下ろした時、時計は丁度10分たったことを指していた。


ほとんどは、恐怖におびえたような顔で死んでいった。


でもたまに、安堵したような表情をしているニンゲンもいて。


『終わった。』


100近いニンゲンを殺したこの手をじっと見つめる。

小さいな、と思った。


「あの、」


声がかけられる。

振り返ると、武器を持っていないほうのニンゲンのおんなのほう、のようだった。


「ありがとうございます!神様!」


目に涙を浮かべてそのニンゲンが言う。


カミサマ、神様?私が?


驚いていると、そのニンゲンは一つの果物を私に差し出してきた。


「これしか貢げるものが御座いませんが‥‥‥‥村の皆が貴女様に感謝しています。本当にありがとうございます!」


そう言って頭を下げられる。

喉が渇いていたのでその果物を受け取って食べてみる。


甘かった。


「本当になんとお礼を言っていいか‥‥‥‥皆でもてなしをさせてください!」


そう言ってそのニンゲンは地面に頭を擦り付ける。


『いらない、あと、怪我する、それ。』


私は動揺してそれだけ言うと、内亜の影を使ってネフィーのもとにすぐさま戻った。


なんだか、胸のあたりがうるさかった。


「ご苦労。どうだった?」


ネフィーが聞いてくるが、今何か言葉を発したら爆発でもしてしまいそうだったのでネフィーの住処へ全力で逃げ帰る。


途中、ぬかるんだ地面に足を取られてすてんと転んだが気にせず逃げた。


そして流石に泥まみれをそのままにしたくなかったから水を浴びて体をさっぱりとさせた。


冷たい水を浴びたはずなのに、その日はなぜか眠りにつくことができなかった。




お礼の果物一つ。

それをもらった時の感情を彼女はこの時まだ知りませんでした。

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