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[三章]桜の舞う戦場【Ⅳ話】

四話目です。

ひかれた引き金は開戦の合図。


(葵、何か尻尾を掴んだのかな)


顔なじみの子供をあしらいながら、突然別行動を始めた少女の事を考える。

事件の犯人に心当たりがあるみたいだったし、そうそう迂闊なことはしないとは思うけど、それでも年頃の近い女の子なのだから心配になる。

無茶なことはしてないといいんだけど‥‥‥‥


「開戦だよ、注意してね」


耳に付けた無線機から葵の声がする。

注意と言われても何に気を付けたらいいのか伝えられてない。

とにかく身構えていると、


ダァーン!!!!!!!!!


突然どこからか大きな爆発音が聞こえた。

驚いて辺りを見回すが、目の届く範囲には何も変わった様子がない。

煙が昇る様子もないので、どこかの工場の爆発事故なんかの類ではなさそうだ。


「しぇりーおねえちゃん‥‥‥‥‥」


警戒しながら周囲を観察していると不安そうにルカ(よく構ってくる子供だ)が私を見上げてくる。

安心させてあげたいけれど、何が起こったか分からない状況ではこの子の安全も保障できない。


『大丈夫だよルカ。でも今日はお母さんのところへおかえり。』


そう言って帰らせると、急いで葵に無線を掛ける。


『今の音は?!』


返事はない。


『葵、葵?!』


何があったのかと焦って何度も呼び掛ける。

まさか今の音は敵の攻撃だったんじゃないか。

葵がやられてしまったんじゃないか。

焦ってヴァイスに連絡を取ろうとすると


「‥‥‥‥‥ぃ」


無線からかすかな音が聞こえた。


『葵?!さっきどこに行ったの、何して』


「キレー‥‥‥‥‥‥‥」


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥?


‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥??


つまり今の音は


「こっちを見てた偵察兵を片付けた、いい狼煙として敵さんにも伝わったんじゃないかな。これで向こうは私たちを必死になって探しに来るはず。シェリー、合流するからその場所から一歩退がって。」


思わず三歩引くと葵がとんっという軽い音とともに降り立ってきた。

身の丈を超える銃を抱えて。


『葵』


「うん?」


『今のは葵?』


「うん。」


『‥‥‥‥‥‥‥ざ』


「うん?」


『正座。』


「‥‥え?」


『正座。』


「ん?うん。」


すとんと地面に正座する葵。

表情は無表情だけれど、どこかすっきりした顔をしている。


『やりすぎ‼‼‼』


思わずビシィッと指をさしてしまう。

葵肩を跳ねさせ目を丸くする。


『開戦だよって言われて何のことだろうと思ったら街中でそんな大きな銃かますとか何考えてるの?!しかも距離的によそとの境界線付近じゃない?!何で?!』


「シェリー」


口を開く葵に構わずまくし立てる。


『偵察兵を何とかしてくれたのは分かるけどそれ以上にやりすぎ、ここまでやらなくても』


「囲まれてる」


スッと立って膝を払う葵。

私は言葉の意味が理解できなくて戸惑った瞬間、葵の持つ長身の銃がすとんと影に溶け込み、白と黒の二丁の拳銃がくるくるりと入れ替わるように跳ねて現れ、葵の手に収まる。


『何言って、』


そしてそのまま彼女は私の方へ白い銃を向けて安全装置を外し、遠慮なく撃った。


パァンッ


先程よりも軽い銃声。


思わずギュッと瞑った目に意味は無くて、目を開けるとそこにはかすかに硝煙を上げる銃を構えた葵が私の向こう側を睨んでいた。

恐る恐る振り向くと、見慣れない模様のローブを纏った人物ががくりと倒れる様子が目に入ってきた。


『、な』


驚く間もなく葵が私の服の裾を引く。

バランスを崩して葵の肩にもたれかかってしまうが、その小さな身体は思ったよりも安定していて力強かった。


「まだ。」


タン、タン、タン、タン。


葵が腕を動かしながら銃声を四つ鳴らす。

何が起きているのか抱えられている私には見えなかった。


「シェリー、この服装に見覚えは」


抱きかかえていた私を立たせて、最初に倒したローブの人物を示す。

首を横に振ると、葵はそのまま私の手を取り走り出す。


『葵、あの模様、イタリアンマフィアの象徴のどれでもない、多分マフィア以外の組織、だと思う』


手を引かれ走りながら情報を伝える。

葵は予想していたのか、頷いた。


「監視していた人物の装備がそっち系の組織や化け物が使う物だった。今回の事件、結構大きくなりそうだから覚悟しておいて。

ただ、私が知る限りではの文様に意味があるようには見えなかった。多分何かのアーティファクトを使っている可能性が高い。」


アーティファクト、遺物とは

疑問が顔に出ていたのか、葵が続けて答えてくれる。


「アーティファクトっていうのは、いわゆる魔法のアイテム。小さなものだとお守り程度の効力だけど、大きなものだと街一つ破壊を一瞬で、なんてことが簡単に可能になる代物の事。」


なるほど、やっぱり彼女は知識の面でも頼りになる。頼って良かったと思いかけ、先程の大きな銃声を思い出す。

やっぱり呼ばないほうがよかったかもしれない。


「シェリー、人殺しについては特に触れないね、慣れてる?」


葵が問う。

少し考えてから、私は答えた。


『彼らとも対話や交渉で解決ができるのならそうしたいけれど、そう言ってられない緊急時や、相容れない立場で、どうしても殺さなくてはいけない相手を殺すことは覚悟してる。

ファミリーのボスになって分かったことだけど、守りたい、守らないといけない存在っていうのは私が思っていたよりもずっと多くて、私が守り切れるような量じゃなかった。そう痛感させられた。

だからこそ、守るべき存在、守りたい存在を守るために、時には非情な決断も必要だと私は思う。

例えばそれが、誰かの命を奪うことであったとしても。』


「シェリーのその考えはとても甘いものだよ。拾える命なんかそう多くない、あえて見捨てないといけない命だってあるかもしれない。そういう時、シェリーはどうするの?」


私は即答する。


『見捨てるべき命なんかない。私は手の届く範囲の命は全部救う。』


葵が暫く黙る。

何かまずいことを言ったかなと一瞬考えるけれど、その考えを頭の中から捨てる。


『葵、先代の教え、知ってる?』


私が今度は葵に聞いてみる。

葵は首を横に振った。


「聞いたことない。先代からも教えてもらっては無いよ。」


『じゃあ、教えてあげる。わがシリアージョファミリーの家訓。

“命知らずはいらない。全力で生きて、全力で生きることを楽しめ。最期のその瞬間まで。”』


葵は眩しそうなものを見るかのように私を見つめた。

きっと、葵の私よりほんの少し小さな肩や背中には、私の想像のつかないようなおおきくておもたいにもつがのっているに違いない。

そんな中でも、この言葉が葵のこれから先の選択の助けになればいい。私はそう思った。


「シェリーは、いい両親に育てられたね。」


そう呟く葵の声は、今まで聞いた中で一番柔らかな声だった。


『うん。自慢の両親。今もきっと見てるから、笑われないように、悲しませないように、胸を張って生きるんだ。』


私は自分への決意と共に、なるべく力強く聞こえていたらいいななんて思いながら言う。


「そ、か。じゃあ、まずはここから生きないとね。」


葵が言う。

人通りのない、戦闘するならここと決めた場所へ着いたようだった。


『うん。さっきは葵にばかり任せたからね。私だってやるよ。』


私はカバンの中に手を突っ込む。

ヴァイスに持たされたいくつかの護身用武器。そして知識。

きっと私は今日、この場で人を殺すことになると思う。

けれど、それを重たくとらえすぎず乗り越えていこう、そう心に決めた。


「葵、開戦の準備は?」


『万全。なるべくはシェリーの事守るよ。最初に言った言葉は忘れて。』


どこか晴れたような声音で葵が言う。


さぁ、第二開戦の開始だ。




彼女と彼女の会話。

互いに何を思い、何を考えるのか。

そしてあっさりと終わった第一回戦とは違う第二開戦の開幕。

彼女たちの戦いが、はじまります。

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