[三章]桜の舞う戦場【Ⅲ話】
三話です。年越しまであと少しですね。
例え旧知の組織の人員だとしても、こんなこと任せるんじゃなかった。
いや、こんなことになるだなんて誰が予想できようか。この結果は自分が招いてしまったことで、
これを私に予測しろと言っても到底無理な話だ。
そんな手遅れな後悔をしながら、地面に倒れ伏す。
「ごめん、なさい‥‥‥‥なにも、力になれなかった‥‥‥‥」
力なく謝罪の言葉を口にするシェリー。
力の入らない首を上げつつ、何とか大丈夫だと視線で答える。
『この事態を予測できなかった私が悪い。守れなくってごめん。』
そう言うと、シェリーが静かに力尽きる。
黙祷を捧げつつ、私は目の前の敵に向かって立ち向かおうと精一杯の力を使って立ち上がる。
せめて何か、何かやり返せることは無いだろうか、そんな心を込めて。
「ライム、二人の外見がいいのは分かる。おしゃれをさせたいのもわか‥‥‥らないけど着飾ったら綺麗だろうなとは思う。けどこれはやりすぎ。」
大量の衣装に埋もれた私とシェリーをひょいと救い出しながら、シダレが言う。
そう。最初は何ともなかった。ただの地味目な服装の着回しだけだったのに、なぜかいつの間にか和洋中様々な衣装の着せ替えが始まって、
「お二人とも!もっと笑顔で!寄り添って双子か姉妹かのように微笑んでください!ほら!葵さん、表情が硬いですやり直し!」
『これは必要なことなの
「必要じゃなければやりません!せっかくこんないい素材なのに生かさないとは勿体無い、せめてあと10、いや50はいけますね!」
いやむりたすけ(ごめん、こういう時に僕出ると悪化しそうだしぃ‥‥‥)
「何泣き言吐いているんです?!まだまだ撮影か‥‥‥作戦は始まったばかりですよ!」
‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥』
そんなこんなで、ありとあらゆる服を着させられ、写真を撮られ、まるで着せ替え人形のようではないか。
しかし、内亜の助けはないし手加減の仕方も知らないのでどうしようもなかった。
動画やら写真やらのデータを消させたのでそこだけは安全だと思いたい。
ちなみにシェリーは
「ごめんなさい、本当に‥‥‥‥‥外見がいい人を着飾るのが好きみたいで、いつもはシダレが付き合ってるんですけど、葵がとても可愛いから暴走してしまったんだと思います‥‥‥‥‥。」
と、平謝りしてきた。
疲れた以外に害はないし、明日以降の変装も決まったので問題はない。
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作戦開始から三日。釣れたのはその辺のチンピラだけだった。
「観光かい?お嬢さんたち。」
下卑な目的で声をかけてくる輩が数組いたが、シェリーの顔を見た瞬間に顔色を変えて去っていった。
「流石に私の顔を見ればどこに手を出そうとしてるかってことくらいは分かるか‥‥‥‥」
勧められたジェラートの店でシェリーがこぼす。
「ああいうのはなるべくいない状態にまでしたいんだけどそこまで手が回ってなくて‥‥‥街の治安は、ある程度安定してるとは思うけど、やっぱり全体の隅々にまで手を回すのには力も手も足りないみたい。ああいったチンピラもいない方がいいと思うし、本当ならストリートチルドレン、身寄りのない子供たちもいない方がいいと思うんだけれど‥‥‥‥‥彼らが根城にしているのは私の管轄地ぎりぎりの場所もあって、そういった他ファミリーの管轄のところまではさすがに簡単には手を回せないの。
一応私がボスになってからある程度拡大させて、教会はいくつか増やした。
少しでもおなかの減った子供が減るといいと思って。」
大したものだと素直に思う。
その小さな肩には計り知れない重圧がかかるはずなのに、彼女はそれを受け止め、力ないものを守りたいという自分の欲の為に活用している。
「まぁ、こんな大層な事言ってるけど、私ひとりじゃここまでこれなかったと思う。私の下で働いてくれるファミリーのみんなと、そして先代からシリアージョに仕えてくれてる、ヴァイスのおかげかも。正直、彼の手助けが無かったらシリアージョは存続不可能だった。ヴァイスがいてくれたからここまでこれたんだ。」
そんなシェリーの言葉に、なんとなく内亜の顔が頭をよぎる。
『私も、きっとそう。私一人でできることは限られてる。』
そんな話をしながらジェラートに舌鼓を打っていると不意に、
(見られてる?)
平穏ならざる視線を感じた。
シェリーの方は気づいてはいないらしい。
『シェリー、私、ちょっと行ってくる。』
そう言い残して駆け出す。
この街を一望できそうな背の高い鐘撞き堂のある教会が目にとまる。
「手助けは?」
内亜から影での遠距離攻撃手段を使うかと問われ、首を横に振ることで否定の反応を返す。
開戦の狼煙は派手な方が好みだ。
「葵、まっさか」
『“アレ”出して。』
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥はーい」
そう言って影から長身の物体を影の中から吐き出した。
黒い影の翼を広げ、音も無く鐘撞堂まで飛び乗る。
シェリーの位置(街の子供に遊びに誘われている)を確認した後、先程の視線の主を探す。
ここからだいぶ離れたところ、シリアージョの管轄エリアのぎりぎり外側に建つアパートの屋上、スコープのついた変わった形の銃を持った人物を見つけた。
見失った私を探しているらしく、双眼鏡で辺りを見回している。
『間違いないね。』
敵が持つ銃、それは、電撃銃と言ってとある神話生物やミ=ゴがよく使う武器だった。
でもその得物じゃこの距離までは届かない。
つまり、こちらの方が長射程だ。
私は携えたお気に入りのうちの一つを見る。
それは、私の身長よりも大きな黒鉄の塊。
コンクリートの壁や戦車の装甲をぶち抜くために使われる兵器。
いわゆる対物ライフル、本来人間に向けて撃つべきでも、生身で使うべきでもない。
そんなシロモノを縁に据えた二脚の台座と肩にかけて立ったまま構える。
800m先の対象に銃口を向け、安全装置を外す。
この子を使うのは何年ぶりだろうか。
手になじむ冷たい鉄の感触を感じつつ、自身の身体能力を魔力で補強する。
そうじゃないとじゃじゃ馬なこの子は私の肩を吹き飛ばしてしまうから。
シェリーに
『開戦だよ、注意してね』
と手短に伝え、無線を切る。
私の意識は撃ち抜くべき敵だけに注がれる。
スコープなんていらない。
この程度の距離は肉眼で見えるから。
照準もいらない。
魔力を以って生み出され放たれる弾丸は必ず狙ったところへ飛んでいく。
『いくよ。“レジーナ”』
女王の名前を冠するこの銃に、私の昂揚が伝わっていく。
20mm口径が対象を捉える。
引き金に指をかける。
吸い込んだ空気を吐き出し、呼吸を止める。
指先に力を籠める。
そして私は、紅い華が咲き開くさまを見た。
銃にはあまり詳しくないですが、一応APE×は少ししたことがあり、一番私の好きな銃を登場させてみました。
ヘッドショットぶちかますのが快感です。