[三章]桜の舞う戦場【序章】
プロローグです。
きっと変わることがたくさん。
~♪
ある日、特に用もなく街を歩いている日の事。
滅多に鳴らないスマホとやらがカバンの底から鳴り出す。
『‥‥‥‥‥‥なんだっけ、これ』
首をかしげていると、足元から生えた影がそのスマホを操作し、私に差し出してくる。
「もしもし、?」
電話の向こうから知らない少女の声がする。
ただ、どこか聞き覚えのある余韻も感じるイタリア語の声だ。
「葵、多分四半世紀前位に関わったマフィアの緊急連絡先だよ、この番号。ほら、結婚に口挟んできた先代をノしたあの彼がボスの。」
影の中からの内亜の言葉に懐かしい顔を思い出しつつ、電話の相手に応える。
『もしもし、何の用、?』
電話越しに、困惑する雰囲気が伝わってきた。恐らく、私の声が相手の想像より幼かったとかそんなところだろう。
「えと、困ったらこの番号にかけろって先代に言われました。
私はシェリー、シリアージョファミリーの新しいボスです。」
マフィアのボスという割には貫禄を感じさせない、少しだけ震える声で電話の向こうの彼女(多分)は言った。
これは驚いた。
あのファミリーが代替わりするのはもう少し後だと思っていたからだ。
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先代のボスであった人物の言葉を思い出す。
「僕らに何かあったときは、この子をよろしく頼むよ。きっと、君たちの力が必要になる時が来る。」
彼は、仕事で日本に来た時に出会った巫女さんと劇的に恋に落ちてイタリアに連れ帰ったり、結婚を認めようとしなかった先代と抗争してトップに登りつめたりなんていう、物語の主人公みたいな人物だった。
常に冷静で、私と初めて出会った時にも油断せず、侮らず、そして、情に厚く、仲間思い。
本当の“家族”の長だった。
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彼は当時未成年だったはずだから、世代交代にはあまりにも早すぎる。
彼からの電話ではないということは、彼はきっともうこの世にはいないのだろう。
(どんな最期を迎えたのかも気になるし。)
『何か、必要なことでも?』
まずはそう聞いてみる。
逡巡の間、電話の向こうから深呼吸の音がして、
「“人ならざるモノ”の手が迫ってる。」
覚悟を決めたようにそう告げられる。
『あぁ、それは確かに私達の仕事だね。』
イタリアで異形騒ぎ。答えながら、これは暫く忙しくなりそうだと思う。
「うん、貴女ならどうにでも解決してくれるとお母さんから聞いている。お願いしたい。」
彼女の母、先ほど言ったボスの奥さん。
彼女は芯の強い人だった。きっと、この子もその血を引いているからこそこんな妖しい電話に頼ってきたのだろう。
『私に解決を依頼するっていうことはどういうことか分かって言ってる?』
一応の確認を取る。
以前力を貸した時は、街を半壊させて彼らにやりすぎって怒られた。
恐らく両親から話を聞かされているであろう彼女がそれでも手を借りようとするのか。
「人や街に被害が出ない方法で対処出来るならそうしてほしい。私はこの街を、共に暮らす人を、私の愛する世界を守りたい。そのために出来ることは全て尽くす。だから連絡した。」
力強い言葉が返ってくる。
(いいな。)
ふ、と思った。
この子にはまだ自信が足りないかもしれない。けれど、両親の心の強さと願いを叶えようとする強欲さをこの子は確かに持ち合わせている。
それに
『救いたいもの、か。』
なんとなくだけれど、彼女に興味が湧いた。
それに今私が抱えている疑問の答えを彼女はきっと知っている気がして。
『いいよ、行ってあげる。』
ホッとしたような嘆息が電話越しに聞こえる。
よくそんな状態で大きなものを背負っているものだ。
私は通話を切り、影に問う
『準備は?』
するっと影の中から黒の青年が姿を現す。
「いつでもどうぞ?契約者サマ?」
なんて、翼を生やした内亜は、散歩に行くかのように気軽に答え、手を差し出してくる。
その手をしっかり握り返すと
『途中で落とさないでね、?』
少しだけ不安になって言った。
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
満面の笑みが返ってきた。嫌な予感がする。こいつならやりかねないんだもん。
「さ、空中で踊ろうか?お姫様。」
『や、そんなことしなくていいから』
ふわっと足が地面から離れる。
この感覚は嫌いではないが、なんとなく慣れない。
宙に浮く感覚がつかめればきっと、私だって空を飛べるはずなのに。
そうしたらきっと、内亜と空中浮遊を楽しめるはずなのに。
‥‥‥‥‥‥まぁきっと、口に出したら笑われるだろうけど。
「さて、いこっか、葵」
ダンスに誘うような優雅な身のこなしで内亜は私を空へと連れ出す。
少しだけ。
ほんの少しだけ嬉しいと感じたのはきっと気のせいだ。
そう言い聞かせて、私は内亜に身を任せる。
イタリア、どんなお菓子があったっけ、なんて思いながら。
水紫が獅噛にスチルを依頼しているのですが、如何せん何を頼んでもしっかり要望に応えてくれるので相方として獅噛は非常に優秀です。
挿絵が上がり次第一遍ずつPixivの方にあげていく予定です。
では、今日は早いですがこの辺で。
長い長い章になると思いますが、一緒にお付き合いいただけると幸いです。