[二部四章]妖刀を求めて
今日の更新はここまでです。
ついでに二部四章も最終話です。
さてさて、妖刀を求めて私と文人で二人電車に揺られているわけなんだけれどここで一つ問題が。
『気持ち、悪い‥‥‥‥‥‥‥』
なんなんだろう、こう、公共交通機関を使うのが初めてだからか、頭の中がぐるぐるする。
「葵、多分電車で酔ったんだと思う。ちょっともたれて良いから休みなよ。」
そう文人に言われて、大人しく文人にもたれる。
今まで乗り物に乗ってて酔ったことは無いはずだけど‥‥‥もしかして、内亜が何かに作用していたのかもしれない。
それに、知識としては自分が操縦できない乗り物は酔いやすいとあったから、普段自分で飛んでいる私からしたらなれないだけだったのかもしれない。
『うぅ‥‥‥‥感覚遮断、術式展開、もう無理、耐えられない。』
早くも限界を迎えて私は三半規管の感覚を遮断する。
大分楽になったような気もするけれど、やはりというか気持ちの悪さは少し残ってしまうようだ。
「葵、大丈夫?もしもしんどかったらまたもたれて良いんだよ?」
そう言ってくれるのは有り難いけれどなんとなくあまりそうしたくない、というか頼りきりになりたくないので私は遠慮しておく。
そして電車に揺られること約三時間。
どうにか山に到着した。
いかにも人が少なくて、付喪神たちが喜びそうな場所だ。
「葵、ここまで来て聞くのもあれかもしれないけど、本当にこんなところに妖刀なんてあるのかな。」
不安そうな声音で言う文人に、私は頷いて見せる。
『大抵妖刀とか、こう、付喪神っていうのは人里離れたところを好む習性があるからね。特にこことかみたいに噂でしかないような場所をわざわざ探しに来る人間達もそう多くなく、探しに来ても収穫が無かったら帰るしかないような場所だと特にそう。』
そう言いながら、辺りを見回してから瞳を閉じて、魔力を探知してみる。
うん、やっぱりというか、山の中が空洞が空いていて、中央から妖気が漏れ出している。
「?なにしてるの?」
そう問われて、私は文人に探知していたことを告げる。すると文人は瞳を輝かせて言い出した。
「なにそれ、ソナー?僕もやってみたい。」
『流石に一人じゃ無理だから、はい、手』
そう言うと、ポンと手を乗せてくる文人。
今度は文人に分かるように、魔力を薄く、広く伸ばす感覚を掴んでもらおうと試みる。
『魔力の感じは前回と一緒、だけど、今回はそれを操って、薄ーく伸ばして何かぶつかるものがないかとかを探してみてるの。特に山の方、何か分からない?』
そう問いかけてみると、おぉ、という声が漏れ聞こえる。どうやら文人も気が付いたみたいだ。
「なんだろう、こう、うまく言い表せないけど、空洞、と、なにこれ、なんか違う感じ。」
うん、なんというかこう、素質があるのかやはり呑み込みが早い。
『そう、そのなんか違う感じ、が妖刀の気配。魔力の質が全く違うでしょ。』
「うん、それにしても、魔力ってそもそもなんなんだろう。父さんが使ってるのも魔力?」
ちょっと面倒くさい質問が来た。けどまぁこれくらいなら答えられる範疇だ。
『魔力と妖術はまた違うようで実はおんなじ。名称が違うだけだね。人や物、場所それぞれが持つ、“奇跡を起こす力”とでもいえばいいかな。その力の事を、私は魔力って呼ぶし、陰陽師は妖力ともいうし。筋肉なんかの力とは違って、不思議現象を起こすのに大事なのが“魔力”、“妖力”。他の呼び方もあるみたいだけど、それにもいろいろな性質があるから、一概には言えないけどね。』
「性質‥‥‥例えば、葵は?」
『私の魔力はそれこそ何色にも染まらない単純な魔力。だから何にでも変えられるし、そのまま顕現させることもできる。
ほら、こんな感じで』
そう説明しつつ、プリズム片を顕現させてみる。
特に何の命令もしていないのでこの状態ではただの宝石とあまり変わらない。
「へぇ‥‥‥‥綺麗だね、本当に、周囲の色を反射していろいろな色に見える。これが葵の魔力の色かぁ」
そう言いながらプリズム片をじっと見つめる文人。ちょっと恥ずかしいからやめてほしい。
『文人もそのうち練習してたらできるようになるよ。ちなみに私の武器のレジーナ、ジェミニは私自身の魔力のプリズムを加工して作ったものだから、だから隠したり変形させたりできるわけ。この辺りで説明はもういいかな。』
そう言うと、文人はこくりと頷いた。なんだかしれっとプリズム片を持っていかれたけれど‥‥‥‥まぁいいや、後で消しておこう。
『それじゃあ、今から集中するから絶対声かけたり騒いだりしないでね、何が起きても知らないから。』
そう言って私は呪文を唱え始める。
空間転移の呪文だ。サーチの結果、出入り口が存在しなかったので一番手っ取り早い方法をとることにしたのだけれど、正直リスクも大きい。
文人はちゃんと言いつけを守って静かに黙っている。
『—————、っと、もう大丈夫、内部だよ』
そう言うと、辺りを見回して歓声をあげる文人。辺りは巨大な洞窟のようになっていて、中央に妖刀が刺さっている。ま、抜けるかは知らないけれど。
『とりあえず、私はいったん休むから、抜いてきて‥‥‥‥』
そう言った瞬間に身体から力がごっそり持っていかれる感覚があり、地面に倒れ込む。
支えようとした文人を制して、妖刀の回収を急がせる。
「わ、分かった!」
そう言って文人は妖刀の方へと向かった。
さて、私は早く帰りの魔力の充填をしないと。
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倒れ込んだ葵の事は心配だけれど、彼女が言うからにはきっと早く回収した方が結果的に彼女の為になるんだろう。そう思って僕は刀の柄に手をかけた。
すると、幼子の声が脳内に聞こえる。
「ねぇ、どうしてちからがほしいの?」
(ちっちゃい子の声‥‥‥‥?)
不思議に思いつつも、僕は答える。
『え、と。好きな人を、大事な人を、これから増えるかもしれない仲間たちを守れるくらい強くなりたい。みんなと肩を並べて立てるようになりたい。だから、力を貸してくれないかい?』
そう言うと、妖刀の声は静かになる。
僕はそのまま、妖刀へと願う。自分自身へと願う。
『誰にも悲しい思いをさせたくないんだ。だから、だから‥‥‥力をくれよ、君が必要なんだ!』
「‥‥‥‥‥まっすぐだなぁ。で、きみのなまえは?」
ぽつりとつぶやくように聞こえた妖刀の声に、僕は答える。
『文人。‥‥‥‥僕は、寿、文人。』
すると、妖刀が笑った気がした。
「ことぶき、ことぶきねぇ、いんがなものだなぁ。ふふふ、じゃあよろしく、あやと。」
『え?因果って何が』
「でもわすれないで。きみがみちをたがえたとき、ぼくは、“童子斬”は、きみのうでをきりおとすよ。」
『‥‥‥‥‥‥‥‥分かった。』
因果っていったい何のことか問うても、きっと彼、童子斬は答えてはくれないだろう。
実際、刀の重みがふっと消えて僕の手に収まった。
抜こうとしてみると、抵抗なく抜くことができる。
『童子斬、かぁ。よろしくね。』
そう呟いて、すぐに葵の元へと駆け寄る。
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妖刀との契約は場合によって時間がかかることとそうでないことが二分されることが多い。
そして文人は予想通りというか、妖刀との相性が良かったようで、割とすぐに戻ってきた。
『遅い。早く帰るから、また目閉じて』
そう言うと、わたわたしながら瞳を閉じる文人。
そして、それを確認してから再度転移の呪文を唱える。
『‥‥‥‥‥‥、成功、してよかった。』
「え、何、しっぱいしたらどうな‥‥‥葵?!顔色真っ青だよ!?」
そう言って私に肩を貸してくれる文人。
『転移の術式は、範囲の指定と正確な座標の指定が必要だから‥‥‥失敗すると手足もげたりする。』
「うぇっ!?!!?怖‼‼‼‼‼」
『うん、だいぶうるさいから静かにしてほしい。』
「あ、ご、ごめん‥‥‥」
そう言ってしゅんとする文人。
『早く帰るよ、電車までちょっと、肩かして。』
「おぶろうか?」
『嫌。』
「じゃあ横抱き‥‥‥‥」
『もっと嫌。』
「何で?!」
『五月蠅い、早く。』
「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥」
静かになった文人の肩を借りて、電車へと戻る。
‥‥‥‥‥‥忘れていた。電車なんだから三半規管の遮断をしておく。
『‥‥‥‥‥‥‥‥はやく、帰ろう。』
「うん。」
さて、何とか日帰りで済みそうだし、八代に怒られないで済みそうだ。
そう思いつつ、私はちょっとした眠りにつく。
さて、明日からの五章はそれぞれバラバラになったみんなの話だったりフラグたてた葵さんたちが無事に帰れるかどうかの話だったりする予定です。ではでは今日はここまで、また明日。