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[二部四章]魔術と魔力


目が覚めると、そこは自室のベッドの上だった。

汗だくで庭に寝転んだ後の記憶がないので、きっとあのまま寝てしまったんだと思うけれど、彼女が運んでくれたのだろうか。そうだとしたら大分格好が悪い。それに、やたらと体がさっぱりとしている。どういうことだろうか。


「目、覚めた?」


彼女の声がして、勢いよく起き上がる。

すると、いい匂いのする食事を持った彼女がそこには立っていた。


『え、え、え?』


様々な情報が混在していて混乱する僕に、彼女はとてとてと近寄ってきて食事を差し出す。


「あの後ぶっ倒れたから運んで洗浄の魔術使って綺麗にしておいたから疲労溜まってないはずだけど。」


『え?あ、うん‥‥‥‥』


どうやらライトノベルのように素敵な展開はなかったみたいだ。魔術すごい。

そうだ、魔術と言えば。

僕は一つ聞きたいことを思い出して彼女の手を握って問う。


『ねぇ、葵!魔術での身体能力強化ってどうやるの?!』


「な、何、何急に、そんな勢いよく来られても‥‥‥」


そう言って耳の先をほんのり桜色に染めて手を振り払われる。

けれど彼女は持った食事を傾けることなく綺麗にベッド横の机に置くと、じっと僕を見つめて言った。


「全く‥‥‥‥急に何を言い出すかと思ったら、身体能力強化の魔術を教えろって‥‥‥無理に決まってるでしょ。」


『無理って、そんな簡単に‥‥‥‥』


「“そんな簡単に”、身体強化の魔術なんか扱えるわけないでしょ。」


そういう彼女の表情は真面目そのもので。

少しだけしり込みしてしまった。

けれど、こちらにだって理由があってやりたいと言っているのだ。簡単に引き下がるわけにもいかない。


『そんなの、やってみないと分かんないじゃん。』


そう言うと、彼女は鋭い視線と共に僕に向かって真っすぐ言い放った。


「少しコントロール誤るだけで身体が爆発するような魔術、簡単に教えられるわけがないでしょう。まずそもそも魔力がどういう物かすら分かっていないのにそんなこと言うだなんて無謀もイイトコ。」


『ばくは‥‥‥‥‥え、そんなことになるの‥‥‥?』


「勿論。簡単に爆発したり暴発するよ、魔力なんて人間でいう原子力なんかよりよっぽど大きなエネルギーを持っているんだから。」


彼女の大真面目そうな顔を見て、つい言葉に詰まる。

原子力は現状恐らく人間が扱える最大のエネルギーであるわけで、それより強いって一体‥‥‥


「‥‥‥‥知りたいなら教えてあげるけど本当に基礎からだから。」


『教えてほしい!』


咄嗟にそう願うと、彼女は苦笑して諦めたように頷いた。


「まず、魔力を感じるところから。でも、まずはご飯食べてからね。」


そう言われて、彼女がせっかく作ってくれた料理が覚めかけていることに気が付く。


『あ、ごめん‥‥‥』


つい謝ると、彼女は首を横に振って言った。


「焦る気持ちが分からないわけじゃない。私だって初めて魔術を習った時はそうだったから。」


その答えに少しだけホッとして、僕は彼女の作ってくれた料理を口にする。

何だこれ、めちゃくちゃおいしい。


「知り合いのおすすめの店の味再現しただけだから大したものじゃないよ。」


僕の表情を見てそういう彼女。けれど、正直簡単に出せるような味ではない。まるで高級レストランみたいな‥‥‥‥まさかとは思いつつ、彼女に聞いてみる。


『ねぇ、これってどっかのお高いレストランの料理のマネ?』


「さぁ?値段を気にしたことは無いけれど‥‥‥多分そこそこなんじゃないかな。」


ここ最近で分かったことだけれど、葵は、彼女はあまりにも無知が過ぎるというか、何も知らなさすぎるというか。だから恐らくこの料理も、結構なお値段がするレストランの物であってるとは思う。

その料理の再現ができる彼女の技術自体にも疑問がわくけれど、葵だから、と言ってしまえばそれで済むような気がしてしまう。


『そっか。すごくおいしかったよ、ありがとう。』


朝食として決して重たすぎないその料理を平らげて、僕は彼女にお礼を言う。

すると、彼女は少しだけ顔を背けて食器を下げに行った。

どうやら少し照れ臭かったらしい。


「朝食も終わったし、約束通り、魔術の基礎からね。両手を出してみて。」


そういわれて、素直に両手を出すと、葵の小さな手にぎゅっと手を握られて一瞬顔が赤くなってしまうのを感じる。

一瞬だけ彼女は不思議そうな顔をしたけれど、すぐにいつもの顔に戻って、瞳を閉じる。


「目を閉じて、今から魔力を流し込んでみるから、何か感じたら素直に答えて。」


そう言われて瞳を素直に閉じると、なんだか温かいものが身体を流れるような感覚に襲われる。

くすぐったいような、それでいてそのままその温かさを感じていたいような、そんな感覚だ。


『なんだか温かいような感じがするけど、もう既にやってるの?これ。』


そう問いかけてみると、少し驚いたような、けれども落ち着いた声が返ってきた。


「うん。体を循環する感覚がつかめれば早いね。これが魔力の循環。君は何もおかしくなっていないから、きれいに流れていく様子が分かると思う。」


そう言われて集中してみる。

確かに、身体をめぐる血液のような流れが一定の速度と量で流れているのを感じる。

これが魔力だというのならば、力を込めてみたらどうなるのだろうか。

そう思った瞬間、思いっきり手を叩かれて驚いて目を開く。


「今力込めようとしたでしょ。そんなことしたらどうなるか見せてあげようか。」


そう言われて先の言葉を思い出し、慌てて止める。


『ちょ、危ないって言ってたじゃん、やめてよそんなことしようとする、の‥‥‥あ、』


そう言いながら気が付いた。彼女は、僕の事を心配してやめてくれたんだ。


「‥‥‥‥分かったならいいけど。今の、下手したら爆発してたんだからね。肝に銘じておきなさい。私との修行以外で一人で今のをやらないこと。」


そう言われてつい言葉に詰まる。

一人になってから試してみようかなんて今一瞬前に丁度思ったところだったから。


『わ、分かったよ‥‥‥でも、でも早く強くなって、君の力になりたいんだ。僕の気持ちも少しでいいから汲んでくれないかな‥‥‥‥?』


そう言うと、彼女はため息をついた。


「力になるやり方はそれだけじゃない。君には君のやり方があるはずだけれど。」


そう言われて僕は不思議に思った。

僕自身にできる事、僕のできる事。


『刀と、細剣くらいしか扱えないけれど、言うならそれくらいかな。でもそんなの役に立たないと思う。だから君みたいに戦ってみたいんだ、追いつきたいんだ。』


そう言うと葵は背伸びをして僕にデコピンをしてきた。結構痛い。


『今の、魔力込めたでしょ?!痛いよ』


そう言うと、呆れたように彼女は肩をすくめる。


「あるじゃない、できる事。刀が扱えるなら妖刀探しにでも出ればいいのよ。‥‥‥最も、あるかどうかすら分からない代物だろうけど‥‥‥‥八代なら分かるかな」


なんとなく気になる単語が出てきたので僕は葵に聞いてみる。


『八代?』


「新任の教師の名前、覚えてないの?あの人の名前は不知火八代、元異形殺しで、私とも殺し合った仲だよ。今では仲間だけれど。」


うん?なんだか聞き逃してはいけない言葉がいくつかあった気がするけれど聞いてもまともな答えが返ってこない気がする、と言う訳で僕は新任の教師の顔を思い出そうとするのだけれど。


『‥‥‥君の事しか記憶にないや』


「‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥馬鹿なの?」


罵倒されたけれど仕方がない。だって当時どれだけ君の事を考えていたのか‥‥‥‥けれど、それをいくら伝えても伝わりそうにないので伝わる日になったら覚悟してもらおうっと。


「とりあえず、仕事もあるし私は学校に戻るよ。文人も、単位足りててもちゃんと授業でないといけないときは出るんだよ。」


そう言われてしまうと仕方がない。

何だろうか。三日ぶりくらいのはずだけれど、ずっと学校から離れていたような気がする。

さて、僕の友人たちに何も詮索されないことを祈ろう。

だって、葵との旅行の記憶は僕らだけのものでいたいから。

‥‥‥まぁ、葵が他の人に伝えるくらいならいいけれど。




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