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幕間②こころのなか

幕間その2です。


夢を見ている気がする。


そう思ったのは、自分の体に実体感がないからだ。


辺りを見回す。


そこは、見渡す限り何もない荒野のような光景だった。


青い空に照らされた、だだっ広い灰色の砂地。


軽くしゃがんで地面に触れてみる。


触れるまで気が付かなかったが、足元に広がるそれは砂ではなく、砂地のように見える細かなひびの入った平面だった。


それが見渡す限り広がっていた。


地平線に隠れて見えないその先も、同じような光景が広がっているような気がした。


雑草や石ころすらない、何もない荒野。


まるで私みたいだ。なんにもなくて、歪で、壊れかけのナニカ


「正解。ご名答」


唐突に、回答があった。

しかも心の中だけで言った声に。


「そりゃ分かるよ、ここは私だもの。ねぇ?」


まただ。

なんだか厭味ったらしいなと思って顔を上げると、驚いた。


「こんにちは、初めまして。“わたし”」


そこには、髪も瞳も真っ黒なだけの違いしかない私自身がいた。


「予想通りの無反応。つまんないの。」


自分の事なら自分で予想しても楽しめないと思う。


「そうね、それはそうだわ。」


目の前の“私”をよく見る。


立ち振る舞いや言葉遣いはちょっと違うみたいだ。

でもわかる。この表情の時の私は


「正解。つまらないものを見るときの表情、ね。」


少しは話をさせてほしいけれど、きっと私たちはこの状態が正常な気がする。

この“私”は、厭味ったらしくて本当に嫌になる。


きっと、嫌な部分を詰め込んだらこうなるんだろうな。


「それも正解。ま、嫌でもわかるわよね。」


そりゃそうだ。自分だもの。


「なじむのもお早いこと。飲み込みも早すぎて気色悪いわ。」


こちとら同じ言葉を返したい。自分の嫌な部分の塊になんか目を向けていたくない。


「でも私は呼ばれないと出てこれないのよ。」


‥‥‥‥つまり自分がここに来る、あるいは自分を見つめなおすことを望んだ結果だと。


「そう。後悔していることを厭味ったらしい自分に、」


『言わなくていい。』


声が出た。


言われなくても分かってる、言われたくないことだったから。


だから目の前の私はその通りに黙る。何も話さない。


『あの選択は間違っていた?』


問う。自分の聞きたかったことを。


「私に聞いてもその問いの答えが出ないことを私は知っている。」


『でも』


「それでも問いたかった、それも知ってる。」


『‥‥‥‥‥』


「あの相方にいつも助けられて。自分にできることは結局殆どなくて無力感を感じる。」


『‥‥‥‥‥』


「行っているのは自分、だけど導いてくれているのは彼。」


『‥‥‥‥‥』


「彼が何を望むのかも知っている。彼がどうしたいか、どうしてほしいかも知っている。」


『‥‥‥‥‥』


「彼はあくまで相方、これから先私は自主的に動かないといけない。」


『‥‥‥‥‥』


「その時に、選ぶのはどちらか。守るか、壊すか。」


『‥‥‥‥‥』


「壊すのは簡単、守るならあの時見捨てた、助けられなかった人間たちを」


『もういい。』


「‥‥‥つまんないの。」


そう言いつつも、目の前の私は口を閉ざす。

私が話すのを待っているみたいだ。

別に、話すことも何もないなと思う。


「ここ、どう思う?」


数分の沈黙の後に聞かれた。


『なんとも思わない。』


私は答えた。


「私はずっとここにいる。」


それがどうしたと言いたくなった。


「なんもないから暇だからさ、色んなもの見てきてよ。」


何が言いたいのか全くわからない、分からないまま目の前の私が続ける。


「ここは私達の心の中だから。」


あぁ、なるほど。


なんとなく、納得した。


この荒野は、私たち自身だと思うと、心の中で何かがすとんと落ちた気がした。


『そっか、これがわたしなんだ。』


「そう。どう?」


『なんもないな、としか。』


思ったままを口に出す。

その回答に目の前の私は満足したのだろうか。


くるりと私に背を向ける私。


「ねぇ、私。」




「次は、救うの?救わないの?」


答えは分かってるくせに。そう言おうとすると、意識が遠くなるのを感じた。

きっと、目が覚めるのだろうと思った。


「またね。ま、次はまたはじめましてから始まるけれど。」


少し察してはいたけれど、ここでのことは忘れるのか。

なんとなく、もったいないような気がした。

けれど、納得もした。


『そっか。』


またね、が言えないこんな時、なんて言えばいいんだろうと一瞬考えたけれどなんだか無駄な気がして、私はなにも言わないことにした。

意地悪な私はきっと次も厭味ったらしい問いかけをしてくるんだろうな。

そんな、根拠のない確信があった。


『ふふ、どうだろうね。』


私は微笑むとこんな顔なのかとその表情を見ながら、私は目が覚めるのを待った。

視界が暗くなってゆく。



—————————————



『‥‥‥‥‥‥‥ふぁ、?』


なんだか今日は珍しく夢を見た気がする。


「おっはよ~」


内亜が唐突に目の前に現れて私を驚かそうとする。

‥‥‥‥失敗に終わっているけれど。


『おはよ。』


なんとなく今日は挨拶を返すと、内亜は驚いたように目を丸くした。

内亜のその表情を見て、私は何だか面白くなって微笑んだ、気がする。


さて、今日は何が起こるんだろうか。

本当に何となくだけれど。

今日は、いい日になりそうな、そんな予感がした。



葵さんの心の中の荒れ地。これからどうなっていくのでしょうか。

それと、もう一人の黒い葵さん。

彼女について触れるのは、きっとそう遠くないはず。

ではまた、次の話でお会いしましょう。

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