幸福の悪役令嬢、聖女とかっていわれた幸福をもたらす令嬢は塔に閉じ込められ、婚約を破棄されすべてに絶望した。そんな彼女が幸せになる物語。
「……かごの鳥は、ただの鳥」
私は何気なく歌う。ここに閉じ込められてどれくらいの年月が経ったのか私の足には鎖。
塔のてっぺんで鎖につながれ、時折差し入れられる食料をけだもののように食べる。
前はこんなじゃなかった。
幸福の聖女、幸せの令嬢、とても素敵で愛らしいといわれたものでした。
私は窓の外を見ます。今日も空は青い、でも私はもういつかもわからないのです。
寒いので冬だと思いますが……。
私は十歳までは普通の娘でした。
我が国はこの年齢で新しいスキルに目覚めます。私は判定で「すべてに幸福を与える聖女」ということがわかりました。
伯爵の末娘であった私はこの時、王太子の婚約者となり、家に幸運をもたらす令嬢として皆にかわいがられ育てられることとなるのです。
何の疑問もなく、15歳まで成長しました。
わが家だけではなく、わが国も富み栄えました。
水害や地震といった災害が起こったりしていた貧乏といわれる我が国は、鉱脈が見つかり、商売もうまくいき、豊作が続き、皆が幸せにだったのです。
しかし私が15の時、王太子殿下が他の女性と愛し合っていることがわかりました。
私はどうしてもそれを受け入れられず婚約を破棄したいと申し出たとたん、陛下がとても冷たい瞳でこちらをみたのです。
父と母、兄弟たちもでした……。
私はなぜか捕らえられ、そしてそこから塔のてっぺんに幽閉されることとなったのです。
私はもう少し考えるべきでした。
幸福をもたらすというものはどれだけ国家にとって益となるべきかということを。
以前調べたことがあったのですが、幸福は周囲にいる人間にもたらされます。縁がある人間は特にです。深く考えなかった己を私は責めました。
そうです、婚約は私の幸福の力を利用するために行われたもので、殿下は私を愛してなどいなかったのです。
それを気が付いてももう遅い。望み通りにしてやると言われ婚約を破棄され、私は塔の上にこうして閉じ込められたのです。
もう何年たつのでしょう。私は窓の外を見ました。
たまにお風呂などには入れてもらえましたが、それ以外は……。
掃除などもたまにはしてもらえました。死なれたら困るからでしょう。
「……何か……」
わあああという人の悲鳴のようなものが聞こえてきます。
私は何だろうと鉄の扉を見ました。そこにはいつも頑丈なカギがかけられています。
しかし人々の悲鳴とともに、階段をたくさんの人が走る音が聞こえてきました。がちゃがちゃがちゃ。
そして扉がどん、どんと乱暴に何度もたたく音がして、最後どーんという音とともに鉄の扉が破られたのです。
「あなたが幸福の聖女様なのですか?」
「私の力を利用したいなら、もうやめてください。私はもう死にたいのです」
見たことがない青年が先頭にいました。鎧を着た青年は高い身分の方に見えました。
我が国以外の人ということで、私はたぶん私を手に入れようと攻め入ってきた人たちだということを悟ったのです。
「いえ、幸福の聖女としての力を求めてはいません。あなたを解放に来たのです」
「え?」
私の鎖を外してくれた青年は名前をクラウスといいました。隣国の王子で、富栄る我が国が隣国に攻め入ったので、戦争になり、そしてこうしてここまで来たというのです。
「幸福の力とやらがあるのに、簡単に王城まで攻め入ることができて……あなたが閉じ込められていることを聞きました。それで……」
幸福の力を持つ聖女、実は以前、クラウス様の姉上もその力があるということがわかったそうです。
王女が幸福の力を持つということで皆が喜んだそうですが、それを絶望した姉王女が自殺して、愚かさを王と王妃は嘆いたそうです。
よく調べると、その幸福は己の寿命を削り与えるもの、幸福の聖女は長く生きることができず、自分自身を幸福にすることができないそうなのです。
その出来事があったので、姉上と同じ力を持つ私を助けに来てくれたそうです。
「姉上がなくなってから、母も父も自分の愚かさを責めました。幸福の力なんてなくても姉が生きていてくれたらそれでよかったと……だからあなたは助けたいのです」
クラウス様は私を抱き上げて、塔の階段を下りていきます。
ああ、私は死ぬところだったのか、寿命と引き換えに幸福を与えるなんて……知りませんでした。
しかし他者に幸福を与えるのに、どうしてクラウス様の軍勢が勝利をおさめたのか? それを私は謎だと思いましたが……。
幸福の力を持つ聖女の心もある程度力に影響するらしく、彼女自身が不幸せならその力も薄れていくそうです。
「……メアリアンヌ、あなたの家族は……」
「ええ、おっしゃらないでクラウス様。わかっております」
クラウス様はとてもやさしい、私の足についた傷を魔法で癒し、そして私を隣国に連れて行って幸せにしたいと申し出てくれました。
幸福の力を封じる魔法も姉上の死から皆が研究して、隣国にはあるそうなのです。
「あなたを幸せにしたい、メアリアンヌ」
「ありがとうございます。クラウス様」
私たちは一緒に過ごすうちに恋に落ちました。ただの最初は同情だったのかもしれません。
しかし数か月たち、私がもとのように健康を取り戻し、笑うようになるとクラウス様が私に愛を告げてくれました。私も彼を愛していることに気が付いたのです。
敗戦の処理が終わり、王や王太子、私の両親や兄弟は処刑され、私は隣国の王太子妃として一緒にいくことになりました。
幸福の聖女ではなく、我が国の人々は私を悪役令嬢と呼びました。
でも悪役令嬢と呼ぶあなたたちは自分自身で幸福を手に入れようとしなかった。それが愚かではありませんか? 私は馬車の中で愛しいクラウス様と語り合いながら、外から貴族たちや、民衆たちが、悪役令嬢! と叫ぶ声を聞きます。だって私はただ何も知らず皆が幸福であればいいと願っていた。なのにそれを裏切ったのはあなた方。
私は今度こそ愛する人と自分自身が幸せになるのです。
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