また入道雲の下で
月日が経つのは早いもので、俺が故郷の町から出てきてもうすぐ3年が経つ。大学に通うために故郷を捨てて上京した俺だが、別に故郷が嫌いなわけではなかった。よく通った駄菓子屋も通学路の畑道も皆で作った秘密基地も全部好きだった。
仲の良かった友達だっていた。毎日のように遊んで、バカやって、たまにケンカもして。
凄く、凄く楽しかった。高2の夏までは。
「なんだ。全く変わってねぇじゃん。」
バスから降りた俺の口から溢れた第一声がこれだった。
8月14日、大学もお盆休みになって早々に母から久々に帰ってこいとの命令を受けて早3日。遂に俺は3年ぶりに故郷の土を踏んだ。前にも言った通り俺は本来ならここの雰囲気は嫌いではない。むしろ落ち着くし好きな部類だ。本来なら。
今回も家に顔出してやる事やったらそそくさと帰るつもりでいた。
バス停から家までは目と鼻の先なので特に誰ともすれ違うことも無く家へと到着する。
「ただいまぁ!とうさん?かあさん?」
返事はない。
俺はここで少し違和感を覚えた。自分で言うのもあれだが、俺はこの家の大事な大事な一人息子だ。その息子が3年ぶりに帰ってくるんだ。普通は家にいるんじゃないか?それに今、玄関の鍵は空いていた。田舎町とはいえ流石に不用心過ぎやしないか?
いくら今の俺が考えようと鍵を持っていない俺はこのまま家を空けてどこかに行くわけにもいかず、親が帰ってくるまで家で待つことにした。
だが、1時間待っても2時間待っても親が帰ってくることはなかった。おかしい。流石におかしい。そう思った俺は近所の人達に親がどこに行ったのか知らないか聞きに行くことにした。
家を出た途端、嫌な予感が俺を襲った。町に着いた時は気づかなかったがこの町、人の気配が全くしないのだ。そんな事はない。あってたまるか。そう自分に言い聞かせ近所の家まで行くがやはり人の気配がしない。インターフォンを鳴らしても反応がない。何軒回っても結果は同じ。
おかしい、やっぱりこの町はどこかおかしい。直感的にそう感じた俺はタクシーでもなんでもいいから早くこの町からでなければいけないと思い、タクシー会社に電話をかけることにした。
プルルルル、プルルルル、ガチャ。
良かった、誰か出た!これでなんとかなる!そう思った俺は電話の相手に今の状況を…
『次ハ、あなた。入道雲ノ下デ待っテてネ。』