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22.告げられた罰


 クリフトフが呼ばれたのは、兄であるジェラルドの執務室。

 罰を言い渡すのに謁見の間でないのは、これは表沙汰にしない、人知れず進められた事なのだと察する。


(変わらないな……)


 人目のある場所で正式に言い渡せば一回で終わらせられるのに、王太子……否、実質国王であるジェラルドはそれを実行せず、女中や従僕たちもまばらになった深夜に、わざわざこうして呼び出して来た。

 そんな兄の優しさも、ここまで来ると病気なのではないかと疑いたくなる。


(いや……俺のためはなく、ヴァイオレットのためか)


 クリフトフが悪いとしても、貴族の令嬢が婚約解消と周囲に知れたら、それだけで印象がガタ落ちしてしまう。

 知られる事を防げないとしても、少しでも広がらない様に細心の注意を払っているのだろう。


(もしかしたら、ヴァイオレットの帰宅が遅れてしまうかもしれないな……)


 婚約が解消されれば、ヴァイオレットが王宮に住まう理由がなくなる。

 我が儘を通して連れて来て何年も縛り付けてしまった彼女を、少しでも心休まる場所に帰したかったが、急にいなくなれば、それはそれで噂が立つ。ほとぼりが冷めるまでは、王宮暮らしが続くだろう。

 迷惑をかけた、では済まされない愚行だった。いくら兄に負けじと必死だったとしても、一人の令嬢の人生を狂わせてしまった。


(本当に……最低だな)


 気付いた時には、手遅れだった。

 自分が起こした問題であるが、それでも後悔せずにはいられなかった。


「……今更だ」


 目の前に座る兄を見る。

 辛辣な言葉とは裏腹に、批難するでもなくただ事実を告げる赤い瞳が、弟であるクリフトフを射抜く。


「……はい」


 そしてクリフトフも、抵抗するでもなく、ただ兄の視線を受け止めた。それしか許されなかった。


「お前は臣下に降りてもらう。爵位は伯だ。一ヶ月後の立太子及び就任パーティー後、与えた領地へ向かうように。それまでの間に、必要な事は済ましておくことだな」

「はい……」

「それと、ボンネット嬢はこの一ヶ月で伯爵夫人に相応しいと判断されれば、お前の妻となり一緒に領地へ向かわせる」

「もし無理なら?」

「修道院行きだ」

「男爵家へは……帰れないのですか?」

「男爵が勘当する意向を示している。まず家には帰れないだろう」

「……どうにも、ならないのですか」

「伯爵夫人か修道院行きを取らないのであれば、通常裁判となる。公正に判決を下すとなれば、公爵令嬢に手を上げた彼女は重罪だ。どのみち修道院は免れないだろう」

「……情け、ですか?」

「お前に責任を取らせるとなると他になかったものでな。後は……彼女次第だろう」


 一通り聞いた処罰に、クリフトフは深く頭を下げた。

 自分が望んだ道だ。エミリア次第になるが、彼女を養って行く決意は出来ている。もとより、彼女と関わった時からそのつもりでいた。


「寛大な処置に、感謝致します」


 甘い、甘いと言いながらも、その甘さと公正さに縋った自分には、何も言う権利はない。

 兄に初めて頭を下げたな……等と考えたクリフトフだが、ふとまだ聞いていない事を思い出した。


「ヴァイオレットは、どうなりますか……?」


 彼女は自分とエミリアの被害者だ。このまま何事もなく婚約解消されて、実家に帰った後に王太子妃への道を歩んでくれれば良い。

 そう彼女の平穏を願っていたが、兄が告げた内容に、クリフトフは唖然とした。


「今……なんと?」


 ジェラルドが形成した言葉の意味がわからない訳ではない。

 何故その判断なのか……クリフトフは兄の決断に困惑した。


「お前とヴァイオレットの婚約は解消ではなく、“婚約破棄”として処理する」


──これは決定だ


 低い声に、クリフトフは息を呑んだ。


 

読んで下さりありがとうございます。

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