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2.隊員その1─お兄様─


 使い魔たちを送り出した後、ユリシーズは自ら説明に赴いた目の前の男を見据えていた。


「……まったく、あの男は」


 男はニッコリ笑みを浮かべてはいるものの、出てきた声は怒気が孕んでいる。

 男のその笑顔は本心でない事を長年の付き合いで理解しているユリシーズは、淡々と彼の相手をしていた。


「もういいよね? 潰しても」

「それは駄目ですよアベル」


 アベル・オルブライド

 ユリシーズと同じく第一王子の側近であり、妹・ヴァイオレットを愛する公爵家長男である。


「何で? 別にもういいじゃないか。妹や弟が功績を上げている中、地位に胡座かいてとっっても素敵な婚約者を蔑ろにする第二王子なんて……消えても誰も文句ないよ?」

「確かに彼がいてもいなくても特に変わりはありませんが……いえ、居る方が色々面倒ですが……」


 ユリシーズは一つ息を吐いた。

 アベルが怒り狂うのは想定内だったが、相手をするなら自分がもう少し落ち着いてからにすれば良かったと、ほんの少しだけ後悔した。


「……で?」

「潰してしまったら──今後楽しみが無くなるでしょう?」

「……」


 ユリシーズの目は笑っているが、藍色の瞳に光はなく、彼の胸の内を表すように黒々とした意志が蠢いていた。

 アベル同様、ユリシーズも相当腹を立てていた。

 何しろユリシーズにとってヴァイオレットは自分の主の想い人であり、自分にとっては命の恩人なのだ。

 そんな彼女を切り捨てるような事をしたクリフトフを、許せる筈もなければ許す気もなかった。


「……そう、そうだね。リシーの言う通りだよ」


 対して、あまり感情を表に出さないユリシーズの怒りを久し振りに目の当たりにしたアベルは、彼の憤怒に若干引いた。

 自分の「潰す」は王宮からさっさと追い出して一貴族にさせる程度の事だったが、怒ったユリシーズが何をどう考えているかはきっと自分とは大きくかけ離れている筈だ。


(これ止めるの大変だなぁ)


 普段怒らない人ほど怒ると怖いというのはこの事だ。

 怒らせてはいけない相手を怒らせたクリフトフに『責任取ってくれ』と、アベルは内心訴えた。


「……で、ヴァイオレットはドレスを持っていないんだね?」


 相手の怒りで冷静さを取り戻したアベルは話題を逸らした。

 ユリシーズの報告では、クリフトフはヴァイオレットにドレスを贈っていないようだった。

 婚約者であり、また貴族のトップである公爵家の令嬢にドレスを贈らず、じゃがいものような男爵令嬢にはお揃いのドレスを贈るとは、公爵への侮辱であり、王子として言語道断である。

 行動力のあるヴァイオレットなら既に自分で手配して作っているかもしれないが、婚約している身でありながら相手に贈ってもらえないのは周囲から嘲笑の的になってしまう。


「はい……」

「はぁ……無理矢理にでもヴァイオレットを家に連れ戻せば良かった」


 ヴァイオレットはクリフトフとの婚約が決まった際に、『出来る限り一緒にいたい!』という王子の我が儘で、王都にある実家のオルブライド公爵邸ではなく、ここ王宮の一角に住むようになった。

 実家に住んでいたなら、今の状況ももっと早くに明らかになっていただろうし、こんな窮地に陥る事もなかった。

 自身の我が儘で王宮に縛り付けているくせに、縛り付けた本人は堂々と浮気をしている事実に腸が煮えくり返る思いだ。


「ドレスはこっちで準備するよ。王都の仕立屋はきっと全滅だろうし、うちの領の者に依頼する」

「宜しくお願いします」

「可愛い妹のためだからね……じゃあ、俺はこれで」

「ああ、実は少々相談があるのですが」


 ソファーから腰を上げていたアベルは再び下ろすと、手招きするユリシーズに耳を傾け──そして耳打ちしてきた彼の案に、心からの笑みを浮かべた。


「良いね、それ……仕上がりが楽しみだよ」





読んで下さりありがとうございます。

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