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3-15 砂漠の貴公子は迷わない

 リーチェが黒い光の粒子をかき抱く。ただただ消えゆくその光を痛ましく眺めていたその刹那、唐突に辺りが闇に包まれた。


「リーチェ!リーチェ!!」


 慌てて近寄ろうと駆け出して、ニコラス先生に腕をとられる。


「マクトゥム!近づくな。お前では飲み込まれるぞ」


「先生......だけどリーチェが!」


「先生は、あれが何かご存知なのですか?」


 いつの間にか側に来ていたライオネル様が、呆然と事態を見つめているアーサー殿下に聞こえぬよう声を潜めた。


「あれは、純然たる闇の魔術の塊。概念。ウィリアムの無効の魔術によって器を失った闇が、リーチェを次の器にしようと取り込んでいるのだろう」


「それでは尚更助けなければ」


「焦るな、あちらには意識状態のサクラ様もいらっしゃる。今すぐどうこうなることは無い。それよりも生身のお前たちが取り込まれる方がやっかいだ」


 その言葉にライオネル様共々黙り込む。この場に、光の魔術師であるリーチェと、偉大なるサクラ・アイニス妃殿下以上の力の持ち主など、存在しないのだから。

 大魔術師に足手纏いだと言われてしまえば、それ以上何かを口にすることなどできない。


 沈黙の落ちた、俺たちの周りに一人の少年の人生が映し出された。これは、クリストファー様の生涯?

 リーチェと共に過ごした幸せな幼少期から、友人だと思っていた人物から告げられた、託された真実。これをリーチェも見ているのだろうか。


 見ていて欲しく無いと思ってしまった。これ以上、クリストファー様にリーチェの想いを向けてほしくない。


 そんな傲慢な考えも虚しく、何も出来ずにただクリストファー様の半生を見つめるだけの数分の後、眩い光が当たりの闇を一掃した。眩しくて目が眩みそうになりながらもなんとか目を凝らした先で、手を繋いだ二人の少女が引き摺り込まれるように深淵へと落ちる瞬間を目撃した。


「は?どういうことだ」


 黒い闇が消え去った生徒会室には、クリストファー様は勿論のこと、リーチェまでもが消え去っていた。


「引きずり込まれたんだ」


「マクトゥム、何を見た」


「最後、闇が消え去る瞬間に、リーチェが黒い何かに引き摺り込まれたんです」


「......まずいな」


 舌打ちを溢しながら、部屋を出て行こうとするニコラス先生にアーサー殿下が慌てて声をかける。


「どういうことだ、大魔術師」


「あれは、あなたの父親の罪だ。それ以上の言葉が必要か?」


「せ、先生......」


 明らかな不敬に戸惑うも、アーサー殿下は先生の物言いを気にするでもなく何かを考え込むようだった。


「貴方の言う通りだね。王宮の宝物庫に心当たりがある。君はマクトゥムの者だったね。頼めるかな」


「かしこまりました」


 王宮の宝物庫は扉の前までなら何度か荷運びの責任者として行ったことがある。

 まずは殿下を、それからローズ様を。


「アレク......リーチェならきっと大丈夫」


 心配そうに眉を寄せる、かつての愛しい人に緩く首を振った。


「それでも叶うなら、俺が助けたいのです」


「......そう」


 驚きに目を見開いて、それから微笑んだローズ様に触れて飛ばす。セドリック様、ライオネル様と触れた後、ニコラス先生、ウィリアム様と一緒に宝物庫の前まで飛んだ。


 いつ来ても歴史の重みを感じさせる重厚な扉。この材木の価値だけでも一等地にお屋敷が立つほどだ。


「サクラ元妃殿下が闇の魔術を封じられた魔石。それ自体は悪用されないよう国内のとある神殿の地下深くに封印されている」


 そう言いながら宝物庫の扉を開けたアーサー殿下は、表の衛兵と何事か交わすと、奥に入り手に黒曜石の嵌め込まれた金色の首飾りを持って出てきた。


「しかし、定期的に欠片が出回る。人の悪意に反応して活発化するのだろうね。まだ法則性は解明されていないけど。この魔石もその一つだ」


 全く魔力を感じなかったため気がつかなかったが、黒曜石だと思われたその石は、闇の魔力の封じられた魔石らしい。


「もしもリーチェが引き摺り込まれたなら、その本体の魔石の可能性が高い。そうでしょう。先生」


「ああ。あれだけの光の魔力はサクラ様とリーチェが何かをして封印したに違いない。あの場に欠片として残らなかったのなら、大元の魔石に封印されたんだろう」


 サクラ様が用意した石だから親和性も高いのだろうし、といくつか魔術的な根拠を述べた後、殿下の持つ首飾りに目をやった。


「なるほど、この欠片を媒介に大元の魔石からリーチェを救い出す気か」


「可能ですか?」


 封印を施した教会を開けるわけにはいかないのだろう。なんせ再度封印できる人間がこの世界にいない。


「不可能ではない、が」


 チラリ、と先生が俺の顔を見上げる。


「一番手っ取り早いのは転移の魔術でしょう。精度が上がれば概念世界へも転移が可能だ。しかし座標の固定が問題になる。あちらから呼ばれないと、どこへ飛べば良いのかわからない」


 固定された座標以外のところへ飛ぶ時は、対象の魔力を目印にする。初めて飛ぶ場所は特にその魔力をどれだけ捉えられているかが大事だ。以前のリーチェの元へ飛んだ時のように、呼んでもらえるとその精度があがる。


......一応門外不出のこの理論を何故先生が知っているかは置いておくにしても。


 戻ってくるのは問題ないだろう。ここには見知った魔力が多いし、最悪自宅に作ったポータルに一旦戻れば良い。


 問題はリーチェの元へ辿り着くことだが。


『アレク!アレク助けて!』


 ふいに、頭の中に響いたのは、愛おしい人の声。


「先生、今問題無くなりました」


 殿下の掲げた黒曜石に触れて、概念世界のイメージを。リーチェの元へ辿り着くこと、今、この胸の内に届いた魔力を目印に。


「行ってきます」


しばらく体調不良が続いています。

落ち着くまでは不定期になりますが

必ず完結させますのでもうしばらくお付き合いください。

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