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2-31 世の中は信用で成り立つもので

「ゾロゾロと来られると部屋が狭くてかなわないな」


 ノックして入室した私に笑顔を向けた先生は、後ろから人が続くのを見て顔をしかめた後、最後にジル様に目を止めた。


「初めて見る顔だな」


 先生の言葉にジル様が肩をすくめる。


「さすがに俺程度の魔術じゃ貴方にはバレると思って隠れてたからな」


「ふむ、お前が精神干渉の魔術師か」


「初めまして。この世界ではジルバートと名乗ってる」


 ふてぶてしく挨拶するジル様に、ニコラス先生はつまらなさそうにその端正な顔を傾げた。


「先生、彼は異世界召喚でこの世界に呼ばれたらしいのですが、元の世界に戻す方法はありますか?」


 ふむ、と一度頷き引き出しから何やらノートを取り出す。


「師匠から、預かったノートに記載があったな」


 ジル様もふてぶてしい態度から一変して縋るような目で先生を見つめた。しかし、ノートを開くことはおろか触れることもできないようで、先生は何度か試みた後、ウィルに事情を説明して助けを求めた。


「オルステン、私にかかった魔術を解くことができるか?」


「試してみます」


 頷いたウィルが先生に触れた瞬間、バチン、と大きな音と目が眩むような火花が散った。ウィルの手に痣ができる。


「......これは」


「どういうことでしょう」


「魔術返しの術が禁術に練り込んである、クリストファーは相当勉強したのかあるいは」


 口を開きかけて、どうせ声にならないと諦めたのかニコラス先生が口を閉じた。

 あるいは、闇の魔術師となって力を手に入れたのか、だ。その場の誰もがその可能性に至って押し黙る。


「魔術返しの術が使えるなら、ジルバートの精神干渉の魔術も効いていなかったのでは?」


「その上で、彼に対して何も言わないのは不自然ですね」


ジル様の時と同様に状況証拠が積み上がっていく。個人的な心境は、初めから危険だと思っていた人物なだけにジル様の時のような葛藤はない。


「ライオネル様は、長く一緒に生徒会活動をされていますよね。クリストファー様はどのようなお人ですか」


「そう、ですね。中々掴みどころのない人ですよ、ローズ様を口説くような姿勢を見せたかと思えばそっけなくあしらう。

 殿下には慇懃無礼な姿勢で、まるでライバル視しているかのような態度です。王族に対してそんな態度を取るのにお父上のイフグリード侯爵は諌めることはしない。

 かと思えば、有能な仕事ぶりを発揮する、昔からそんな人です」


 ジル様の時とは違い具体的なエピソードがスラスラと出てくる。クリストファーがこの世界の住人であることは間違い無いだろう。


「クリストファー様に直接話を聞きに行くのは?」


「無しですね。彼が闇の魔術師だった場合、誰も貴女を守れません」


 守られたいわけでは無いけれど、他に案がない場合の最終手段になりそうだ。


「悪いがこの禁術がある限り、師匠の、サクラ・アイニスのノートは開かないし、闇の魔術についてアドバイスすることもできない。私が手伝えない以上、今は無い過去の魔術にも詳しいクリストファーと真っ向から勝負することは、やめたほうがいいだろうな」


先生からも釘を刺すように反対される。


「ジルバート様も、最後のイベントでリーチェが傷つくことは無いと言っているのだし、わざわざ藪蛇になることをする必要ないだろ」


 アレクからも念を押すように反対される。


「わかった、わかったわよ。一人で話に行ったりしないから安心して」


 どれだけ信用ないんだ。こぞって反対しなくたって、わざわざ危険なところに行かないわよ。......よっぽど出来ることが無ければあれだけど......。


「リーチェ?」


 とどめにウィルからもニコリと微笑みかけられて、両手を上げて降参のポーズを取った。はいはい、一人で突っ走りません。


 毎回結構ちゃんと頼ってると思うんだけどなんでこんなに信用ないかなー。なんだかんだ危険な目にあってるから?


「まぁ、なんだ。闇の魔術師が完成させたい物語を、聞いてみればいいだろう。そこからクリストファーが何を目的にしているか探れるだろう」


 全員の目がジル様へと向く。先程切り札として結末を話さないと豪語したジル様は、ふいと顔を背けた。


「言っておくが、その物語を完成させてもジルバートは帰れない。クリストファーの魔力じゃ返すに足りないからな」


「は......?そんな、それじゃあ俺は何のために、いや、俺に結末を話させるためのハッタリだろ?」


「協力しろ、ジルバート。私とリーチェの魔力なら返せる。クリストファーに禁術を解かせれば送り返すための召喚陣はサクラ様のノートに記されている」


 ニコラス先生の声紋認証で、呪文を唱えなければ開かないらしいそのノートを見て、ジル様は瞳に迷いをのせる。


 目の前の大魔術師を信じるべきか、召喚された時の紙切れ1枚を信じるのか。明らかにニコラス先生の方が信頼できるだろうに迷うのは、召喚されてから3ヶ月間それだけを頼りに生きてきたからな他ならないのだろう。


 刷り込みって恐ろしい。


 たっぷりの逡巡の後、「俺を元の世界に返すと誓約してくれ」と私の目を見てそう言った。


「リーチェ!」


 アレクの静止を抑えて頷く。ニコラス先生ができると言うのだ。私は私の師匠を信じる。


「私はあなたを元の世界に返すために尽力すると誓う」


 ウィルやライオネル様が止める間もなく、エド様が私にそうしたようにジル様の左手にキスを落とす。ほんのりと胸が熱くなる。


「見様見真似ですけど」


「十分だ」


 ニコラス先生の太鼓判をもらって、ジル様も頷く。


「俺が夢で見た光景を話そう、話はそれからだろ」


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