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2-30 口調が途中で変わるキャラクターは腹黒いもので

 真っ直ぐ私の方を見つめて、ジル様は続ける。


「協力とは言ったけどな、進んで何かをして欲しいわけじゃ無い。危ない目に合わせた人間に力を貸してくれと頼むほど面の皮は厚くないさ。ただ、邪魔をしないでいて欲しい」


 打って変わって軽やかに、何でもないことのように続けられて、警戒心がつのる。


「俺の周りを嗅ぎ回ったり、俺の魔術を解いたりな。そういうことをしないでいてくれたらいい。安心しろ、最後のイベントはリーチェが危ない目に遭うことはない」


 いっそ胡散臭いほどの笑顔で、ニコリと微笑まれるが脳内に警報が鳴り響く。


「その小説は最後まで書ききったの?」


「いや、ラストはこれでいいのかと悩んでいるうちに筆が止まって、そうしてる間にこの世界に呼ばれた。だから初めは、ラストを考えすぎて見た夢かと思ったよ。違う展開になった時も、こういうのもありだったかって思ったぐらいだ。」


 闇の魔術師がジル様に書かせていたのに、ラストを描かないことに焦れてこの世界に呼び寄せた、ということなのか?不完全な物語だから変えることができた?


「だからあの指示は、あの時夢で見たラストを成就させろ、ということかと理解したけど、そもそも普通のイベントも起こすことが難しかった。リーチェのせいでな」


 じっ、と見慣れた黒い瞳で見つめられると、じりと後ろへ下がりたくなった。


「性格が違いすぎるんだ。俺の知ってるリーチェと。この場にいる誰もがそれを感じているはずだろう。なぁ、お前は誰なんだ」


 一歩、二歩と迫力に圧されて後ずさる。転生前の記憶しかない私は確かに皆の知るリーチェとは違いすぎるだろう。


「私は......」


 この場で、前世の記憶があると言えばいい。言ったって彼らはきっと受け入れてくれる。だけど、何故か口が動かない。


「リーチェは、リーチェだ。上辺の態度が変わったって根っこの部分は変わらない。何も知らないお前に、リーチェを語られたくないな」


 言い淀む私をアレクが庇うように前に出る。そのアレクの言葉に勇気をもらう。前世を思い出したからといって、私がリーチェで無くなることはない。今まで思い出す前の私と今の私はどこか他人事のように感じていたけれど、誰も全て私だから。


「ジル様、協力を求めるなら事情を教えてください。私はジル様のお気持ちはわかりませんが、同じ生徒会の仲間としてできることはしたいと思うのです」


「殺そうとした人間に随分好意的だな」


「最後の役割にイベントが控えているということは、私を殺す気はなかったってことですよね」


「......殺す気が無ければ何をして良いわけでもないだろ」


 その当然の認識があるのに、どうして。


「病気の妹がまってる。こちらの世界での時間があちらの世界でどれだけ経っているのかわからないけど。俺は早く帰らなきゃいけない、あいつには俺しかいないんだ」


 目を伏せて、それからこちらを見つめる瞳にはもう迷いはなかった。


「そこの無効の魔術師がいる限り、力尽くでどうにかできるとは思ってない。だけど、邪魔をしないでくれ。俺は何をしてでも帰りたい」


 目が覚めてから、この世界に馴染めなくて、記憶が無いことも怖くて、一人ぼっちな気がして。それでもリーチェとしての私はユリナに出会えた、アレクと友人になれた。


 だけどジル様は?本当は存在しない自分を、ジルバートという架空の存在を皆の思い出に作り出して、どれだけ心細かっただろう。虚しかっただろう。


 それでも家族の、妹の元に戻るという気持ちだけでここまで来たのだ。

 されたことは到底許せないけれど、その切羽詰まった気持ちは本物なのだ。


「わかりました。邪魔はしません。でも、その物語を完成させる以外で、ジル様を元の世界に返す方法を探してもいいですか?」


 私の提案がよほど意外だったのか目を丸くした。


「好きにしろよ。俺は帰れるなら文句ない」




「お人好しにも程があります」


 魔術による身分詐称は重罪だ。王家に突き出すべきだった、とライオネル様に怒られるも、そうしない彼は最後まで私を見守ってくれる気でいるようだ。


「ありがとうございます。ライオネル様」


「あなたが素直だと、気味が悪いですね」


 肩をすくめて憎まれ口を叩く。私も不満気に口を尖らせると、後ろからついてきているジル様が「わかんねーな」と首を傾げた。


「リーチェがお人好しなのはわかった。でもライオネルは違うだろ。精神干渉があったとはいえ、殺す、と言う決断に至るまでが随分早かったお前だ。気に食わない俺を投獄するぐらいなんの罪悪感もないだろうに」


「当たり前です。罪人を投獄するのに、なぜ罪悪感を抱く必要があるのです?」


 ヒヤリと底冷えするような冷気を湛えて、横目で睨みつける。私やアレクですら顔が引き攣るほどのそれを、軽くいなせる胆力は、やはり独力で異世界でやってきただけのことはある。


「なんで協力する気になったんだ?」


「協力する気はありません。私は光の魔術師を守り、国を守るだけです」


 ツン、と背けられた顔に、まだ何か疑問を投げたそうにしていたが、まぁ、いいか。とばかりに、黙りこんだ。


 自分の魔術にかかった人の気持ちでも聞いておきたかったのだろうか。

 ジル様の真意はわからないまま、ニコラス先生の部屋からへ辿り着く。


 困った時は大人を頼るものだ。

ライオネルが書き始めた時に想定していた3倍ぐらいよく動いてます。

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