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2-28 謎解きは状況から紐解かれるもので

「リーチェ!」


 アレクとユリナがバタバタと部屋に入ってくる。二人に同時に抱きしめられて、目を白黒させていると、腕の有無を確認された。


「......良かった!本当に」


 目の端に涙を溜めたユリナが私の手を握る。ベッドに横になるエド様は、困ったように笑った。


「エド様も、ご無事で何よりです」


「アレクはずるいね。普段王子呼びなのにそんな風に呼ばれたら嬉しくて許してしまう」


「なんのことだかわかりかねます」


 男子二人のいつものやりとりに、ほっとしてやっと力が抜けた。そのタイミングを見計らったように保健室がノックされ、ウィルが顔を出す。


「そろそろよろしいですか?ノートリアム卿をお連れしました」


 ライオネル様と共にさらりと室内に入ってきた。


「オルステン卿から伺いました。私のブレスレットがお役に立ったようで何よりです」


 手を取って、エメラルドにヒビが入っていることを確認すると、私の腕からブレスレットを取り外した。


「新しいものはまた渡すとして、あなたの代わりにアーサー殿下に伺って参りましたよ」


 そういえばそれを聞きに行く途中だったと思い出し先を促すように頷く。


「アーサー殿下も私と同じようでした。彼の妹も。学園に入ってからの思い出はたくさんあるのに、幼い頃の具体的なのエピソードが何も思い出せないと」


 シン、と保健室が静まり返った。限りなく黒に近い状況に、先程のエド様の言葉が反芻される。


「ジル様に話を聞きに行くわ」


「......私も同行しましょう。幼馴染で、従兄弟であるはずの男です」


「私は同行した方が良いでしょう。ユリナ嬢はエドワード殿下の側にいてくださるとありがたいです」


「僕もそうしてくれると嬉しいな」


 身を守る魔術を持たないユリナを案じての言葉だろう。さらりと促されたウィルの言葉にエド様も同調した。ユリナもその意図を汲んで、エド様の側に座る。


「アレク、私の分までリーチェを守ってね」


「もちろん」


 当然のようについてきてくれると、宣言するアレクに嬉しさが募る。

 大丈夫、これだけの味方がいるのだ。何も心配することはない。




「新しいものが間に合いませんでしたね」


 ジル様のいる談話室へと向かう道々、ライオネル様が私の手を取ってそう言った。


「ノートリアム卿、パートナーでも婚約者でもない貴族令嬢にアクセサリーをお贈りするのは如何でしょうか」


「......マクトゥム殿、貴方は彼女の恋人ですか?」


「友人です」


「友人なら、何かを言われる筋合いは無いですよね。これから私がリーチェへ求婚するかもしれないでしょう」


 ライオネル様が、私の髪を一房すくいキスをする。ひどい悪ノリに鳥肌が立つ。


「友人だから心配なのです。求婚する気があるのなら順序が逆では?」


 面白がる様子に気が付かず、さらに詰め寄るアレクとライオネル様の間に慌てて入り込んだ。


「ちょっとアレク、ライオネル様が私に求婚なんてあり得ないでしょう。揶揄われているのよ」


 ね、と同意を求めれば、楽しそうに「当然です」と微笑まれた。それはそれで腹立たしいが。アレクにそう何度も友人と言われるのも地味に傷ついた。案外それを狙ってそうで嫌だ。

 腹黒そうに笑うライオネル様が、その表情のまま扉の前に立つ。


「良いですね」


 頷く私たちを見て、そっと扉をあけた。

 談話室には沈み込むようなやわらかい絨毯が敷かれ、多国語の書籍が本棚に並ぶ。窓際の丸机に乗せられたランタンがオレンジ色に輝き、ジル様の黒髪を明るく照らしていた。


「よ、揃ってどうしたんだ?知らない後輩も二人いるな」


「ジル様、教えて欲しいことがあるのです」


「ん、俺がわかることなら」


 ズラリと並ぶ私たちを前にしても、まるで顔色を変えることなく笑顔で迎え入れる。

 その貫禄は、ノースモンド公爵家の跡取りに相応しいものなのに。


「最近、精神干渉の魔術が学園内で横行しています。ご存知でしたか?」


「......いいや?」


「調べておりますと被害にあった生徒は直前に必ずジル様とお会いになっている」


「そうなのか、それは全く気が付かなかった。被害にあった生徒が心配だな」


 眉を顰めるジル様の態度に焦れて思わず言い募る。


「先日、私がエド様を探していた時、どうして直前に会われていたことを教えてくださらなかったのですか」


「そうだったか?毎日多くの生徒と会うからな。だが、殿下と会ったことと精神干渉の魔術にどんな関係があるんだ?まさか、殿下が被害に遭われたわけじゃないだろ。そんなことになれば国際問題だ」


 緩く首を傾げながら、大袈裟に腕を広げるジル様に、言葉がつまった。


「それともまさか、俺が精神干渉の魔術師だと言いたいのか?フローレンス伯爵家はノースモンド公爵家を敵に回したいらしい」


「ジル」


「お前までどうした、ライオネル」


「初めに被害のあったあのパーティーの日、妹に何か薬を盛れるとすればあなただけです。アーサー殿下にもエドワード殿下にも、何か仕掛けることができるとすればあなただけです。何より今の暗部に手を出せる貴族がいるとするならば、皇后陛下のご生家である公爵家だけでしょう」


「従兄弟で、幼馴染のお前まで俺を疑うなんて悲しいよ」


「そのあなたとの思い出が私には全くないのですよ。これだけ状況証拠が揃えば物証が無くとも話を聞かざるをえません」


 大袈裟に肩をすくめるジル様に、ライオネル様は退路を断つように追い詰める。


「一体どういうつもりでリーチェを狙うのです。貴方は何者なのですか」


「俺はジルバート・ドゥ・ノースモンドだよ」


 それでも、ジル様は凛として。真っ直ぐライオネル様を見つめ返した。



体調不良で1週間飛ばしてしまいました。申し訳ございません。復活しましたので今週からまた投稿していきます。よろしくお願いいたします。

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