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2-23 片想いは苦しくも楽しいもので

 告白なんてしたことは前世から数えても一度もない。リーチェだって多分一回も無いはずだ。


 だけど次またいつ命を狙われるかわからないのだ。前回みたいに死の間際に後悔するのは二度とごめんだ。


 ストーリー通り状況は進んでいる。セシルにコーヒーをかけられ、アレクに詰め寄られ、ライオネルに命を狙われ、アーサーにはセドリックを使って殺されかけた。

 エドワード王子だけ、未だ回避できている状況で、あと一人攻略対象がいたような気もする。


 順当に考えれば既に出会っているはずだ。乙女ゲームという設定上抜き出ての美形だろう。


 一番の候補はジルバート・ドゥ・ノースモンド、ジル様だ。副会長で、公爵家の長男、ノースモンド家はサクラ・アイニスが降嫁した名門でもある。光の魔術師とロマンスが起こるバックボーンも十分だ。

 出揃っているメンバーにはいない軽いキャラクターも、乙女ゲームっぽい。

 ただ、最近何か気になることがあったような気がする。喉に小骨がささるように、些細なところで。


 クリス様やウィルはそれぞれ十分に怪しいけれど途中からの出会いだし、あるとすれば百合ルートでローズ様だけど。

 うーん、何かを見落としてる気がする。


 何にせよ回避できているエドワード王子と、まだ誰かもわからない最後の攻略対象がある以上またいつ命を狙われるかわからないのだ。最有力候補のジル様が精神干渉の魔術師の可能性だってある。


 伝えられるうちに伝えた方がいいだろう。


 わかっている、わかっているけれど。


「どうしたらいいのかわからないのよー!!」




「というわけで。」


「あらぁ。」


 困った時のユリナである。もちろん伯爵令嬢として箱入りに育てられてきたユリナも告白の経験は無いだろうけれど、女子力が高い彼女なら何か良いアドバイスをくれるんじゃないかと相談した。


「まず、大前提として私はアレクを下に見てはいないと明言しておくわ。その上で、とても難しい道よ。わかっている?」


「わか......ってる。」


 伯爵家の一人娘として婿を取らなくてはならない立場の私と、大商家の跡取り息子として嫁を取らなくてはいけないアレクはお互いに家門を捨てるには背負っているものが多すぎる。仮に想いが通じあったとしても、何かを犠牲にしなくては成り立たない関係だ。


「だけど伝えないまま後悔したくないの。こんな風に誰かを好きになったのは、初めてだから。」


 最初は推しキャラとして見ていた。次に友人として。何のメリットも無いのに、隣国の王子を欺く協力をしてくれた。身分が上の伯爵家子息から守ってくれた。守りたいから守るのだとそう言ってくれた。彼が側にいてくれなければ私はもっと心細かったし、とっくに死んでいたかもしれない。


 水口桜が死んで、リーチェ・フォン・フローレンスとして転生した私が、どこまでも私に理不尽な世界を少なからず楽しめているのはアレクがいてくれるからだ。


 いつからか彼が側にいると嬉しくなった。困るぐらい胸が苦しくなった。他の人を想ってることを思い出して悲しくなった。この溢れる感情が恋だと知った。


「リーチェが、全部わかっていて伝えるつもりなら私はもちろん応援するわ。二人とも大切な友人だもの。」


 ユリナに抱きしめられて、その柔らかい花の香りに胸が詰まって抱きしめ返す。


「ユリナのことも大好きよ。いつも側にいてくれてありがとう。」


「ふふ。どういたしまして。こちらこそ。」


 ユリナに改めて相談をしたところ、ありのままの今の気持ちを伝えることを提案された。


「変に策を巡らせずにありのままの気持ちを伝えるのが一番だと思うわ。」


 なるほど。


「じゃあ、放課後にでも早速呼び出してみるわね。」


「私、リーチェのその決めたらサクサク進めるところ好きよ。」


 ニコリとユリナに微笑まれる。その笑みにからかいの色が混じっていることを感じ、頬を膨らませた。




 とはいえ、今日の放課後教室で待ってるわ!なんていきなり言ったら怪しすぎるしその場でバレる気がする。


 そうだ、エドワード王子に呼び出しを頼んでみよう。だいぶ不敬な気もするけど応援してくれると言っていたし、好意に甘えてしまおう。


「リーチェ。」


「アーサー殿下、どうかされましたか。」


「僕は君のことを割とどうでもいいと思っているんだけど。」


 後ろから声をかけてきて、何を言うかと思えば随分な暴言を。


「言いたいことはそれですか。」


 と半目で見つめれば、可笑しそうに笑われた。


「ふ、面白い顔だね。」


 変顔をしたつもりは無いんだけど。今度こそ真顔で見つめれば、コホンと咳払いをして何事もなかったように話し始めた。何事もなかったようにはなりませんよ。


「この間のことを借りだと思っているから、一応伝えておくよ。闇の魔術師が復活した。王家と一部の貴族だけに秘されている情報だ。取り扱いには気をつけて。」


 闇の魔術師?そんな存在乙女ゲームにも小説にも本編にも登場しなかった。多分。

 何かがずれてきている?


「殿下、闇の魔術師は何が危険なんですか。」


「?前に渡したサクラ・アイニスの手記に記載があったと思うけど。闇の魔術師の一番の魔術は、未来への干渉だよ。自分の好きなような未来を描くことができる。」


 なんだそれ、光の魔術師よりチートじゃないか、と思う一方、嫌な予感に胸の鼓動が大きくなる。

 何かを思い出しそうで怖い。


「じゃあ伝えたから。」


「殿下はどうしてそれを私に?」


「サクラの時代に闇の魔術師は封印されたから、復活したのなら光の魔術師を狙いに来るだろう。」


 ドクン、と一際大きく胸が鳴った。

 

 

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