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閑話はサブキャラのもので 次期宰相の朝は早い

 私、ライオネル・フォン・ノートリアムの朝は早い。3年生の生徒会役員が自分しかいないため、3.4年生関連の仕事は全て任されているからだ。それでもまだセドリック様が手伝ってくださるのでなんとか回っている。


 今のままだといずれリーチェも同じ苦労をするだろう。殿下に進言しておいた方がいいだろうか。などと、頭を巡らせながら生徒会室に入れば、珍しくアーサー殿下がいらっしゃった。


「おはようございます。アーサー殿下。本日はお早いですね。」


 驚きを顔に出さないように頭を下げれば、「この部屋では、アーサー様だよ。」と肩をすくめられた。

 少し前の精神干渉の魔術に侵されていた時を思い出し、戻って頂けたことにほっとする。


「夢を見なくなったからね、すっきり起きられたのかな。」


「それは......何よりです。」


 面白がるように細められた目は、確信しているのか探っているのか。あくまで知らぬふりで通すことにした。『犬』に命じておられないなら、本気で確かめる気もないのだろうし、罰するつもりで命じておられるならこんな聞き方はしないだろう。


 許すことにした、と言ったリーチェと殿下の会合は、上手く着地したようだ。


「書記と会計を2人ずつにする、という私のご提案は検討頂けましたでしょうか。」


 ちょうど良かったと先ほどまで考えていたことをそのまま口に出した。


「うん。しかし、上級生の人数が増えると再来年に生徒会長として入学するセシルにとって運営が難しくなるのではないかな。」


 セシル様の性格を踏まえた上での発言だろう。上級生達が、下級生であの性格のセシル様にちゃんと従うのか、という心配はごもっともだ。


「リーチェがおりますから心配ないでしょう。」


「ライオネルは......随分リーチェを高く評価しているんだね。」


「やめてくださいよ。」


 嫌そうな顔で首を振る私に、無感情な瞳で殿下は首を傾げる。


「セシルとリーチェがもめた話は聞いているよ。だからこそ、セシルが入学する前にリーチェに派閥を作らせたくないのだけど。」


「......殿下はその話をどう聞いておりますか?」


「セシルがリーチェを侮辱する発言をし、怒ったリーチェがセシルにコーヒーをかけたのだろう。発言の失礼さに重きをおいたローズがセシルからリーチェへ謝らせたと聞いているよ。」


「その情報源はどなたから?」


「『犬』だよ。」


 『犬』の中に精神干渉魔術にかかっているものがいると見て間違い無いだろう。あるいは、その手の者か?


「殿下その『犬』の人間は解雇してください。情報が誤っております。セシル様がリーチェへコーヒーをかけたのですよ。」


「だけど、シャワールームでセシルを見たと言うものもいたよ。」


「皿で跳ね返されたのですよ。ローズ様と親しげなリーチェに嫉妬した、セシル様の暴力です。」


 皿で跳ね返した、のところで目を丸くし殿下が楽しそうに笑い出した。


「いやぁ、おもしろいご令嬢だよね。ああ、そう。そうなると、セシルの今後のためにローズが謝らせたのだね。」


 おもしろいご令嬢という評価に昨日どんな話がなされたのか不安になったが、殿下の言う通りである。


 公爵家次期当主が、不仲故に光の魔術師に手を挙げようとした、と言う事実を同世代の貴族子女が集う学園で、決定付けるわけにはいかない。

 セシルが公衆の面前で謝ることで、あくまで子供同士の喧嘩で無事に解決したのだと、若気のいたりなのだと印象付けたわけだ。


「ローズ様は、皇太子妃に相応しい女性ですから。」


 リーチェならこう上手くは立ち回れまい。ローズ様の思惑にも気がついていないだろう。もちろんローズ様は善良な女性だが、善良なだけで皇太子妃は務まらない。


「牽制しなくても、リーチェを妃に押し上げるつもりはないよ。ローズを愛しているからね。それに、僕はリーチェとはあまり相性が良くなさそうだ。」


「牽制など、何故私が。」


 何故殿下がそう判断したのか理解しかねる。嫌そうな顔で答える私に、面白そうな顔をした殿下が以前私が提出した書類を取り出して、判を押した。


「まぁ、いいけどね。そういうことならセシルの手綱をリーチェに握ってもらう方が良さそうだ。ライオネルの案を採用しよう。1年生に会計をもう一人、来年になったら新入生の中からそれぞれ一人ずつ採用するとしよう。」


 案外、殿下がリーチェを不要だと切り捨てようとした背景には、誤情報によって与えられたイメージ、リーチェが高位貴族に考えなしに暴力を振るう点を問題視していたからなのかもしれない。


 いや、これは身内の贔屓目か。どうあっても、関係のないセドリック様を殺そうとしたことに間違いは無いのだ。


「ライオネルは、リーチェのこと好き?」


 ふいに聞いてきた殿下に、思わずキョトンとした目を向けてしまった。


「いいえ、大嫌いですよ。」


 微笑んだ顔は我ながら良い笑顔だっただろうに、殿下は少し顔を引き攣らせて「リーチェが可哀想。」と呟いた。

 殺そうとした人が何を言うか、心外な。


「まぁ、いいや。僕には関係ないしね。」


 と、相変わらず身内にしか見せない冷淡な表情で、また手元の書類を見つめた。




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