2-16 舞台裏は知らない方が良いもので
「楽しかったですね。」
アーサー殿下が出て行ってから、ひょっこりとウィルが顔を出した。
「ありがとう、ウィル。アーサー殿下もやっぱりそうだった?」
「そうですね。精神干渉の魔術をかけられていました。欲望を肥大化させるタイプの。」
途中からつきものが落ちたかのように、あっさりとアーサー殿下は私を見逃した。
無事に精神干渉の魔術を解くことができたようだ。
「本当の仕返しはここからだけどね。」
不敵に笑えば、横からライオネル様に小突かれる。
「ほどほどにして下さいよ。」
「ライオネル様もノリノリだったじゃないですか。」
「殿下の解術のために手を貸したに過ぎません。オルステン卿、ご助力感謝いたします。」
「いいですよ。私は楽しかったですから。」
ニコリ、とウィルが良い笑顔を浮かべながら首を振れば、銀に近い灰色の髪がサラと流れた。
ーーーー時間は2時間ほど遡る。
一度部屋に戻って服を着替えた後、ライオネル様も呼んで会議室に集合した。
念のため、防音壁も作っておこう。ライオネル様には、「随分器用に魔術を使いこなすようになりましたね。」と怪訝な顔をされたが。
「さて、アーサー殿下の精神干渉魔術を解く方法については、正攻法、つまりは王宮の魔術師の手助けですが、こちらを待っている間に私が殺されます。」
ライオネル様にも事情を丁寧に説明すれば、「力になれなくて申し訳ございません。」と眉間に皺を寄せながら謝られた。
「いえいえ、ライオネル様にはこれから大きな役割がありますので、そちらでご活躍いただければ。」
ニッコリ笑って言えば、眉間の皺がますます深くなる。
「ライオネル様の時と同様にアーサー殿下の精神干渉もウィルに解いてもらいます。ただ、この精神干渉を解く魔術について、ウィルは皇家に秘密にしたいそうで。」
ウィルが深く頷く。
「なので、ライオネル様には鏡の魔術でお力添え頂きたいのです。」
「......聞きましょう。」
ため息をつきながら、ライオネル様が聞く体勢になった。
「まず、アーサー殿下をローズ様のお名前で資料室に呼び出します。ウィルに鏡の魔術でローズ様のお姿を投影し、恋人のようにアーサー殿下に触れてもらう。これで解くことができるはずです。問題は、触れられると男とバレること。」
「まぁ、そうでしょうね。」
情景を思い浮かべているであろうライオネル様に指を2本立てて続ける。
「そこで、時間差でローズ様を呼び出します。」
「......ローズ様が2人いたらさすがの殿下も気付かれると思いますが。」
「ええ。なので、そのタイミングでウィルに私の姿を投影してください。ローズ様は私にキスしようとする殿下にショックを受けて立ち去るでしょう。そこを殿下が慌てて追いかける。その隙にアレクがウィルを転移魔術で移動させます。」
「俺の役目はそれだけでいいのか?」
アレクが手を挙げて、首をかしげた。
「むしろ、アレクには秘伝の魔術をウィルに見せていいのか、申し訳ないのだけれど。」
私とセド様を運ぶのは緊急だったから仕方なくだろうけど、今回は違う。
「大切な......友人のために使わなくて何のための力だって話だ。」
これ以上無いぐらい有難い言葉のはずなのに、胸が痛む。それでも、あの水の中で誓ったじゃないか。
この件が終わったら、アレクに絶対に気持ちを伝えると。
「ありがとう。」
上手く笑えているだろうか。少し長く目を瞑り、そして開く。気持ちを切り替えて笑顔を見せた。
「あとは、ちょっと殿下にお灸を据えたいので、皆さん最後まで手伝って下さいね。」