表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

49/88

2-11 油断は禁物が身に染みることもあるもので

......すごく嫌な夢を見た。


 単純に夢じゃ無いことはもちろんわかっているが。

 というか、アーサー様あんな駄目な感じなの?


 結局ローズ様の嫌がらせは一度も諌めていないし、自分の気持ちも隠せていないし。あれではローズ様が可哀想だ。


 確実に私が痛い思いをしているのだけど、今回ばかりは全然ローズ様に怒る気になれない。


 いや、痛いのは嫌だけれど。

 乙女ゲームルートでも痛い思いするのね。


 などと、起き抜けの頭でぼんやり考えていた。


「起きたか?」


「ああ、はい。」


 って、


「先生!なんで私の部屋にいるのですか?」


 セクハラだ。完全に。


「失敬な。修練中に気を失ったフローレンスを部屋に連れてきてやったのは私だぞ。全力まで魔力を出し切ったのは初めてだろうから、不具合が無いよう、目が覚めるまで付いていたんだ。」


 先生の言葉に自分の体を見れば随分埃っぽい。よくあれだけ爆睡できたものだ。

 気がついたら急にお風呂に入りたくなってきた。


「問題なさそうだから、私はもう行く。フローレンスに渡した鍵は、どこからでもあの場所に出ることができる鍵だ。帰ってくる時も、一度行ったことのある場所ならどこにでも行ける。」


 修練場所に困っていたのだろう。と頭をポンポンとして先生がクローゼットの鍵穴に鍵を差し込んで回した。


 たちまち私のクローゼットが亜空間に繋がって、先生はひらりと手を振ってその中に消えていった。


 急に人のクローゼットを亜空間にしないでもらいたいものだが。先生が女子寮に入っていたところを目撃される方が問題だ。


 手元の鍵を眺めて、一先ずお風呂に入りに行くことにした。



 殿下の犬に狙われているということは、エドワード王子はもちろん、アレクやユリナにも言わなかった。

 視察の準備は佳境に入っていて、ユリナも刺繍に燃えていたし、アレクも何やら休み時間のたびにどこかへ出かけている。


 エドワード王子に聞けば、青春だね。と笑って流されるばかりだ。


 魔術の練習は毎晩している。一度大きく力を解放したせいか、魔術を使う時に感じていた加減のわからない不安感が無くなった。

 少なくとも単調な攻撃魔術と、再生魔術を含む回復系の魔術は使いこなせるようになってきているだろう。


 殿下の犬に関しては、一人にならないように気を配り、人の気配を感じたらすぐにあの鍵を使うようにしている。すごく便利だ。


 ただ、一人にならないよう気をつけているとはいえ、視察前日の今まで危機らしい危機があまりにないので、動いている、というのは害を加えるとかではなく、私の刺繍を隠すとか破くとか、そういうことかもしれない。


 と考えを改めつつあった。


 だから、今こういう状況になっているのは自分の危機意識の欠如意外の何者でも無いのだろう。


「目は覚めた?」


 頬に冷たい水が当たった不快感で、目を開けると、全く見覚えの無い場所だった。


「貴方......誰......?」


「内緒。」


 声だけは聞こえるが、顔が見えない。後ろ手に縛られて横に転がされているから当然と言えば当然だが。


「私をどうするの?」


「どうもしない。」


 厳密には攫ってきて縛って転がされているのだから、既にどうもしてると思うのだけど。ついでに足も縛られている。


 というか攫われた時の記憶が全くない。薬を使われた形跡も無いし。何らかの魔術が使われたと考えるのが妥当か。例えば......精神干渉系の魔術とか。


「お嬢さんは光の魔術師でしょう。僕らが束になっても君には勝てないよ。でもさ、人を殺したことって無いでしょう?」


 そんなもの、あるわけが無い。前世から合わせたって人を殺すような人生を送ってきてはいない。


「殺されそうになったら、殺せるかもしれない。正当防衛という大義名分を得るからね。だから、僕は君を殺さない。代わりに君も僕を殺せない。」


 どうだろう。殺されそうになっても、殺さないと思うが。そんなことを言えば「ならよかった。」と、殺されかねないので黙った。


「僕らの主は、君が明後日までここにいてくれたらいいのさ。責任を放り投げて、どこかで、のうのうとサボって欲しいと思っている。死ねばラッキーだとは思っているだろうけどね。」


 ラッキーって。私の命をなんだと思っているのか。


「僕ならせっかくの機会だから始末しちゃうけどね。」


 顔も見えない、幼い物言いに逆に空恐ろしさを感じて背筋が凍った。


「ふふ、あはははは。やだなぁ。僕は犬だから主人の命令には忠実さ。一番は君の足止め。大人しくしておいてよ。殺したくなければね。」


 斬新な脅し文句だ。たしかに戦ったことがないので手加減できるかはわからないが。


 高らかに笑って、少年はカツカツと部屋を出て行った。少年が出て行ったのを確認してからもぞもぞと起き上がる。


 彼を信じるとすれば、今すぐに殺されるわけではないだろう。明後日まで軟禁されるとして、ご飯は出るのか、トイレはどうすれば良いのか問題だらけだ。


 差し当たって、閉じ込められているところがどこなのか確かめるために周囲を見渡した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ