2-7 嫌な親戚はどの世界にもいるもので
いつになくピリピリしているアーサー様を、ローズ様が心配そうに見つめている。
「まぁまぁ、クリスも、アーサー様も!せっかくの女神達のお披露目なんだから。」
見かねたジル様が、お二人の肩に手をおいて両方をなだめる。
少し空気が和らいで、ようやく息をつけた。
「じゃあ私たちはあちらで着替えて参りますけれど、喧嘩はやめてくださいね。」
ローズ様が困ったようにアーサー様に言えば、いつもの優しい笑顔で、愛おしむように頷いた。
「リーチェ、後で時間をもらえるかしら。」
「ええ、もちろんです。」
衣装を着せてもらっている間、ローズ様にそう問われて頷く。先程のアーサー様の様子についてだろうか。それともクリストファーについて?まさか私とアーサー様についてでは無いよな。まぁ、それは無いか。
「それじゃあお披露目といきましょう。」
微笑むローズ様に頷いて、元の部屋へと戻った。
皆がローズ様を見て息を飲むのがわかる。
裾が長く広がった太古の神々のドレス。ぴったりと体を這う縦ラインのプリーツは普段のドレスよりもローズ様のスタイルの良さが際立つ。ノースリーブによって、日頃晒されることのない二の腕が白く眩しく輝いている。いつもは巻かれた長い銀髪をストレートにおろして、細い銀細工で月桂樹の葉冠をつけていた、目も唇も蠱惑的に赤く光る。女神そのものの姿に、その場の誰もが見惚れていた。
クリストファー以外は。
「リーチェ、よく似合ってるな。」
愛しいローズって言ってなかった?
対する私は皮のブーツにショート丈のキャロット。ローズ様と同じ布でプリーツを付けずに。ノースリーブより少し長い丈の袖、その上から鎧をつけて、いつもはストレートの髪を巻いてポニーテールに結い上げた。同じく銀細工でつくられたオリーブの葉冠を頭上にあしらう。
「この雄々しい姿が似合うとは、喜んで良いのかわかりかねますわ。」
「愛らしいって意味だよ。」
「クリス兄様はお上手ですのね。」
ニコ、と微笑んでクリストファーに返す。終始笑顔で嘘くさい。
私達の言葉で我に帰ったのか、先輩達が各々話出した。
「うん、いいんじゃないか。ローズも、リーチェもよく似合っている。ただローズはもう少し肩を隠してもいいんじゃないかな。女の子なんだから。」
セド様がおばあちゃんみたいなことを言い出した。
「そうだね、ドレスもピタッとしすぎている気がする。」
もうちょっと体のラインが隠れるものを、とアーサー様がぶつぶつ呟く。
「マントみたいなのを羽織れば、両方解決するだろ。」
ジル様は名案だと言わんばかりに手を叩いた。
「馬鹿言ってないでください。お二人とも、それで問題ありません。あとの細かい装飾は各デザイナーと相談して、ローズ様はハープを、リーチェは短剣を用意して下さい。」
意外にもライオネル様は特に口出しせずに今後の指示を飛ばした。絶対肩出し過ぎ、だの、足出し過ぎだの言ってくると思ったが......。
「リーチェ、文句を言われたいのですか。」
「いいえ、とんでもない。」
やばい、顔に出ていたか。
「私は母のデザイン画を全てくまなく見ていますから、多少なりとも理解のあるつもりです。」
「なるほど。」
マザコンでしたね。
「なるほど?」
「いえ、いえいえ。ご理解ありがとうございます。」
誤魔化すようにニコリと笑えば、ライオネル様からも嫌味なぐらい良い笑顔が返って来た。
「本番まであと1週間ですよ。そんなに暇ならこちらを、手伝って頂けますか。」
「すぐに仕事に戻りまーす。」
「......ライオネルとリーチェは随分仲が良いんだな。」
目だけは笑っていない、探るような表情で、クリストファーがこちらを見る。
「仲良くはありませんが。」
「ええ、そうですね。」
ライオネル様にジロリ、と睨まれる。なんだ、やるか?
「絶対合わないだろうと心配していたから、安心したよ。」
あの嘘くさい笑顔で、クリストファーがそう言う。
まぁ、合わない事実だけど、なんか嫌な......棘のある感じだ。
まるで、仲が良く無いことを期待していたような。
「ほら、リーチェ、さっさと着替えて来なさい。」
ライオネル様からお母さんのような声かけをされて、慌てて我に返った。