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1-33 嫌いな奴は何があっても大体嫌い

 ドン、と音がして空を見上げると、大きな花火が夜空に打ち上がっていた。


「アレク!みて!花火よ!」


「ああ、噂には聞いたことがあるが、初めて見た。さすがローズ様だな。」


「ええ、本当に。」


 余った予算で何かできないか、と言っていたことがここに繋がったのだと納得する。私は知っていても実現できそうにない。さすが正ヒロインだ。ローズ様って前世何をしていたのだろう。


「さ、ローズ様のサプライズも堪能したことだし、ライオネル様のお話を聞きに行こうかしら。」


 頷くアレクと共に会場に戻り、ローズ様へ一言お伝えした後控室に向かった。



「オルステン卿、ライオネル様の様子はいかがです?」


「ウィルでかまいませんよ。リーチェ嬢。魔術を使われた痕跡がありますね。」


「魔術?」


「ええ。精神干渉系の魔術です。」


 たしかに様子がおかしかった。まるで無理矢理元のストーリーをなぞらされているような。


「ニコラス先生に見てもらう方が確実かとは思いますが。恐らく、元々持っていた不満を増幅させる魔術でしょう。」


「そこまでわかるのですか?」


「ええ、私の魔術の特性上。」


 アレクが言っていた身体強化以外の魔術のことか。


「敬語じゃなくて良いですよ。貴女に敬語を使われると変な気分です。」


 クスリと微笑まれて、記憶を失う前の私と関わりのある人なのだろうかと首を傾げた。先程は初対面だと言っていたけれど。


「では、私のこともリーチェと。ウィルも敬語を使わずにお話しくださいますか?」


「私は元々誰に対しても敬語なので。お言葉に甘えてリーチェと呼ばせて頂きますね。」


 格下の令嬢に、こんなにも腰の低い貴族がいるのかと感心してしまう。その謙虚さは見習わなくてはならないな。


「ん……、ここは……?」


「ノートリアム卿、ご挨拶させて頂くのは初めてですね。ウィリアム・フォン・オルステンと申します。」


「ああ……、辺境伯家の。このような体勢で失礼致します。」


「ノートリアム卿、記憶はどこまでございますか。」


 後ろにいる私たちが見えていないかのように、天井を見上げて逡巡した。


「曖昧には……全て。」


「はっきりされているのは?」


「ワルツを、踊っているところまでは。」


 チラと一瞬私の方へ視線をやる。まだ完全には覚醒していないだろう、ぼんやりとした視線だった。


「その前にどなたとお会いされたか覚えていますか?」


「その前……?生徒会で打ち合わせをして……。……思い出せません。」


 では、生徒会役員の打ち合わせの後誰かに精神干渉系の魔術をかけられたということか。


「ライオネル様。」


「その呼び方は……、いえ、いいでしょう。迷惑をかけましたね。」


「嫌いな私に謝らなくてはいけないのはどんな気分ですか?」


「は?」


「増幅ってことは、元々心にある言葉ばかりだった。ってことですよね?」


 顔を覗き込む私に対して、憎々しげな感情が瞳に灯る。


「嫌いだという自分の心を蔑ろにしたから利用されたんですよ。」


 私の言葉に口を開きかけて悔しそうにぐっ、と奥歯を噛む。

 あと、もう一歩だ。


「私を嫌う事で、ローズ様に嫌われると心配になりましたか?」


「違う!」


 弾かれたように、顔を上げた。そう、それで良い。


「母が、貴女を、次の光の魔術師を守ってと、そう言ったから、私は。貴女を導こうと……、して。」


 途中で自分の矛盾に気づいたのだろう。言葉が止まった。


「ノートリアム伯爵夫人は、守ってとは仰いましたが、仲良くしろ、とも導けとも仰ってはないですよね。」


 私の言葉にゆっくりと顔をあげる。

 そう、ライオネル様の過去を見て、私に対する気持ちを知って思ったのだ。その勘違いに気がつかない限り、ずっと苦しいままだろう。


「嫌いでいいんですよ。別に罵詈雑言言ってもらって構いません。親切な顔して嫌味を言われるよりマシですから。だから、無理しないでください。こんな、簡単に魔術にかかってしまうぐらいの無理を。」


 どうしても、合わない人というのはいるものだ。無理に仲良くしようとするから大変になるのであって、ある程度の距離をおいてつきあえば良いのだから。


「私は、貴女のことが嫌いです。」


「ええ。」


「天真爛漫で、誰からも愛されて。ひどく無神経に人を傷つける。」


「反省します。」


「それでも、貴女が光の魔術師なのですよね。」


 どこか、憑き物が落ちたような顔で正面を見据えていた。大きく発散したことで、多少スッキリしたのだろうか。


「……大した苦労もなく、あっさり光の魔術を使いこなす貴女が羨ましくもありました。」


 ポツリ、と落とされた言葉に反論したのは、意外にもアレクだった。


「それは違います。リーチェは光の魔術師としての力の大きさから、記憶を無くしております。自分の親の顔も思い出せないのです。それは、十分大した苦労ではないですか。」


 アレクの言葉に、ライオネル様は目を丸くした。


「そう、そうですか。それで……。」


 何かが腑に落ちたのだろう。自嘲気味に笑って、ライオネル様は私たちを見る。


「マクトゥム殿。フローレンス嬢。迷惑をかけましたね。殿下に報告するなり、家に報告するなり、好きに処分をしてください。」


「では、リーチェと呼んでください。私もライオネル様とお呼びします。」


 何を言っているのかわからない、と言わんばかりにキョトンとしたライオネル様の顔に思わず笑いが込み上げる。


「嫌いな私とファーストネームを呼び合わなければならないって、素敵な嫌がらせだと思いませんか?」


 悪戯っぽく笑いかけてみれば、ライオネル様はますます理解できない、という顔を見せた。


「私は、貴女を殺そうとしたんですよ。」


「操られて、ですよね。」


「それでも殺したいと思ったのは本心です。」


「思うだけは自由ですよ。だって、実際は手を止めたじゃないですか。」


 操られていても、私の言葉で手を止めてくれた。

 前世の小説と混同してはいけない。私は殺されてなどいないのだから。


「アレクが良ければ、ですけど。」


「俺は……リーチェが良いなら。」


 少し不満そうにしながらも、アレクも頷いてくれた。


「気がすまないなら貸し1つとします。記憶を無くす前の私は敵が多そうなので。」


 ライオネル様は困ったように笑って、首を振った。


「だから貴女は嫌いなんですよ。」


 その言葉は以前ほど棘のあるものではなかった。

1章はこちらで終わりです。

次回閑話を挟んで2章に入ります。

引き続きよろしくお願いいたします。

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