1-28 イベントには大体アクシデントがつきもの
「リーチェ!よかったここにいた!」
噂をすれば、少し焦った様子でエドワード王子が私たちの元へと向かってきた。
私の腕をとりそのまま急いで連れ出される。
アレクとユリナは顔を見合わせて追いかけるかどうかを逡巡しているようだったが、
「生徒会関連だから!」
の一言で、手を振って見送られた。う、裏切り者......!!
「ごめんね、時間が無いから歩きながら説明するね。」
歩幅の大きいエドワード王子に比べて、慣れないドレス姿の私の歩幅は小さい。
「公爵令嬢が体調不良で欠席されることになったんだ。」
「え!?」
色々聞きたいことがあるけれど、息が上がって上手く話せない。
「アーサーや、ローズが君を呼んできて欲しいと言っていてね。上級生が出てくると大袈裟になるだろうから、僕が名乗り出たんだよ。」
生徒会役員用の控室につくと、その扉の前で、息を整えて。と休ませてくれた。肩で息をする、という淑女にあるまじき姿に、申し訳なさそうにしながら、乱れた髪型を手櫛で整えてくれる。
申し訳なさそうにしている顔も大変美しいので気持ちのやり場に困る。
「うん、綺麗。」
私の息が整ったことを確認して、エドワード王子は扉を開けた。
「リーチェ、ごめんなさいね。」
事情を知るローズ様には別の意味を含んでのごめんなさいなのだろう。大丈夫だと、首を振って伝える。
「早速で悪いね。リーチェ、ノースモンド公爵令嬢の代わりをお願いしたい。」
部屋には、アーサー様、ローズ様、それからお茶会でも少しご挨拶した、生徒会副会長のジルバート様の三人がいた。ノートリアム卿とセド様は準備を進めているのだろうか。
「事情はお伺いしましたが、私でよろしいのでしょうか。」
家格的にもう少し上のご令嬢もいるだろうに。
「ああ、それは俺から説明するよ。」
ジルバート様が私たちに椅子に座るよう促した。
「うちの妹がごめんな。」
そうか、ジルバート様はノースモンド公爵家の長男だから、公爵令嬢の兄になるのか。
「元々はエスコートもエドワード殿下に頂く予定だったんだが、妹がごねてな。エドワード殿下に了承頂いてエスコートは別の相手に頼んでいたんだ。」
ここまでは、先程ユリナに聞いていた話と同じだ。頷きながら先を促す。
「エスコート相手から離れてエドワード殿下の元へ向かい、挨拶の後にまたエスコート相手の元へ戻る、という流れを別のご令嬢が行うと、事情を知らない者が見れば反感を買いかねないだろう。妹は自分の我儘だからいいんだが。」
たしかに、ユリナのように公爵令嬢側の事情にも通じている人も一部いるが、大半の知らない一般生徒が見れば、エドワード王子を蔑ろにして見える行為が、本人の希望か公爵令嬢の希望かわからないということか。
「それなら、最後までエスコートされれば問題が無いのではないですか?」
「んー、でも僕はユリナ嬢をエスコートする予定だからね。」
当日に急にキャンセルとはいかないだろう。私もあの嬉しそうなユリナの顔を思い浮かべると、そうはして欲しく無いと思う。
「その点、リーチェなら生徒会役員だから代役を行っても不自然でない。光の魔術師という点でも家格にケチをつける者はいないだろう。エドワード殿下との仲の良さも有名で、ユリナ嬢とも友人だからその後の流れに反感を持たれることもない。これ以上の適任はないんだ。」
この通り、と手を合わせて頭を下げられる。
元々、断れるものだとも思っていないので、理由を聞かせてもらえれば十分だ。
「ジ......ノースモンド卿。お顔をあげてください。私で良ければ精一杯務めさせて頂きますので。」
ジルバート様、と言いそうになって、慌てて言い換える。悔しいがノートリアム卿の指導の賜だ。
「ありがとう。助かる。」
ほっとしたように息をついた後、打って変わってニッと唇を釣り上げた。
「ライオネルと違って、俺のことはジルで大丈夫だからな。」
面白がるような口調に、苦笑しながら頷いた。
あのやりとりを見られていたのか。
「まぁ、挨拶はエドワードに任せて、隣で一緒に頭を下げていればいいよ。」
アーサー様の言葉に、強く頷く。それぐらいならなんとかできそうだ。
実際の流れの説明を受けている間に、あっという間に開始の時間になった。
「それじゃあ、お手をどうぞ、姫。」
色々と問題はあるけれど、見た目だけは文句無しの王子様であるエドワード王子に差し出された手を取った。