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1-3 転生キャラは大体前世と全然違う

 駄々をこねても仕方がない。

 現状私が思い出した事と言えば、転生先のヒロインこと私リーチェの基本設定と、悪役令嬢ローゼリア様の基本設定、あとは階段落下事件のイチャイチャエピソードぐらいだ。


 今頃廊下の向こうでは、落ちることがわかっていたのに結局助けられなかったと、ひどく落ち込むローゼリア様を王太子のアーサー殿下が見当違いに慰めていらっしゃることだろう。

 

 リーチェの基本設定は天真爛漫、純真無垢な典型的な乙女ゲームの主人公だ。この世界ではとても珍しい光の魔法の使い手。現状では回復魔法ぐらいしか使えないけど。この回復魔法も使えるのはすごいことらしい。ファンタジーに憧れがあったのでこれは少し嬉しい。


 ただ回復するからといって、痛いものは痛い。当然、さっき階段から落ちたのもすごく痛かった。


 ローゼリア様にはシナリオ通り幸せになってもらうことに異存はない。良い人なのだろうし、順調に王妃になれば良いと思う。ただ、そのイチャイチャエピソードのために私が痛い思いをするのは全く割にあわない。


 そんなものなくても主人公補正で幸せになれるはずだ。少なくとも私が入学するまでの間に既に何人かは攻略していた。私も出会ってすぐ攻略される登場人物の一人ではあるが。


 そう、私も攻略対象なのだと思い出す。よくよく思い出してみればリーチェとローゼリアの出会いのイベントもあった。


✳︎


「......めんな......い」


 誰かが私を呼んでる?


「ごめ......さい......」


 温かい。手のひらに温もりを感じでゆっくり目を開けると、今度こそハッキリと「ごめんなさい」という声が聞こえた。


 声の方向を顔を向けると、銀髪赤眼の美しい女性。憧れのローゼリア・ドゥ・シャルル侯爵令嬢が、潤んだ瞳で私を見つめている。同性ながらあまりの美しさに少しドキドキしてしまう。


「リーチェ......様」


 私が目を覚ましたことを確認して、安堵したように優しく微笑まれた。まるで聖母のようで思わず息をのむ。


「助けられなくてごめんなさい。怒ってくれていいのよ」


 憂いを帯びた目を伏せて、銀色の長い睫毛に縁取られた瞳が揺れる。どうしてこの方は、初めて会った下級生にこれ程心を寄せてくださるのかしら。


「とんでもございません。ローゼリア様。このような形でのご挨拶をお許し下さい」


 高位貴族に対してベッドの中からの挨拶なんてもっての他だ。そこでハッとした顔でローゼリア様からも自己紹介を頂いた。


「ごめんなさい。私ったら自己紹介もせずに。ローゼリアよ。仲の良い友人はローズと呼ぶわ。貴方もぜひローズと呼んで」


「そんな、恐れ多い。私は、リーチェと申します。階段から落ちたのは私のドジのせいですもの。ローゼリア様がお見舞いに来てくださるなんて、それだけで私幸せです」


 入学式の生徒会メンバー挨拶。凛とした佇まいの知的なローゼリア様に、あれからずっと憧れている。加えて噂通りのお優しい姿に、私はうっとりとローゼリア様を見つめた。


「そう、だけど。怖かったでしょう。痛かっただろうし。まだ入学間もない貴方にそんな思いをさせてしまったことが申し訳ないの。私にお詫びできないかしら」


「ローズ、君がお詫びしなければならないなら、生徒会長たる僕こそが彼女にお詫びするべきではないか」


 蜂蜜色の金髪に猫のような金色の瞳が印象的な王太子アーサー殿下は、眉間に皺を寄せて心配そうにローゼリア様を見つめていらっしゃる。


 お噂通り、アーサー殿下はローゼリア様を愛しておられるのね。素敵なお二人!


「いいえ、殿下。女性同士の話に口を挟むものではないわ」


 口元に人差し指をあてて殿下を黙らせてから、もう一度私の手を握る。


「リーチェ、これから生徒会として一緒に働く仲間としてケジメはつけておきたいの。何かできることはないかしら」


「何でも、よろしいのでしょうか」


「ええ、私にできることなら」


「あの、無理にとは言わないのですが」


「なぁに。何でも言って頂戴」


 未来の王太子妃殿下に、不敬かもしれないけれど。私は少し照れながら、ローゼリア様を見つめた。


「ローズお姉様、とお呼びしてもよろしいでしょうか」


図々しいでしょうか。

と、最後は不安になって俯いてしまった。チラ、とローゼリア様を見つめると手を口元にあてて震えていらっしゃる。やはり、不敬だったかしら。


「あの、やっぱり」


気にしないで下さい。

と私が告げるのと、


「もちろんよ!嬉しいわ!」


 とローゼリア様、いえローズお姉様が抱きつかれるのは同じタイミングだった。

 ローズお姉様は遠くから見ているよりも貴族らしからぬ、ただとっても可愛らしい女性だったみたいだ。


「これからよろしくお願いします!ローズお姉様!」


✳︎


 はい、無理!

 ローズお姉様なんて口が裂けても言えそうにない。自慢ではないがこちとら21年間庶民でやってきたのだ。もう少し前世の自我が落ち着いてきたら馴染むかもしれないが、この後すぐに可愛らしい妹にはなれそうにない。


 このイベントをどう乗り切るか。どうしようどうしよう。いや、この際細かいイベントはそこそこ回避できればいいだろう。


 それよりも、全体の方針としては、安全に長生きするために、しっかり思い出しながら、ローゼリア様の卒業までなるべく痛い思いを避けることにしよう。新たな決意とともに胸に誓った。


 

 

ーーーーーーーーーーーー


ご覧頂きありがとうございます。

来週も大体日曜の夜ぐらいに投稿致します。

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