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1-27 中庭は大体青春の1ページ

「ちょっといいか。」


 歓迎パーティーまで残り1週間に迫る中、アレクに中庭へ呼び出された。

 穏やかな昼下がり、噴水の水が反射してキラキラと輝く。人もまばらで恋人達の逢瀬にはぴったりの場所だ。


 いや、恋人って。何を考えているんだか。


 急に中庭に呼び出されるとか、まるで告白みたいじゃ無い?とか、思っていないから。なんといってもアレクだし。


 自分で自分に言い訳しながら顔を上げると、褐色の彫りの深い顔立ちが目に入った。


「これ。」


 紺のベルベットに金の飾りのついた宝石箱を渡される。勧められるままに蓋をあけると、私の瞳と近い色のブルーサファイアの首飾りが収められていた。


 驚いて顔を上げると、少し顔を赤くしたアレクが不貞腐れたように顔を背ける。


「エドワード王子が言っていただろう。」


『友人の大切な人にパーティー用の宝石を用意するほど野暮じゃないよ。』


 エドワード王子の言葉を思い出す。あれを聞いて私のために宝石を用意してくれたのか。


「もしかして、もう用意していたか?」


「ううん、手元にあるもので、と思っていたから。」


「よかった。ほら、リーチェの瞳と同じぐらいだろ。」


 ほっとしたように笑って、私の目尻を指先でなぞる。

 その仕草に驚いて、頬に熱が集まるのを感じた。私の頬が赤くなるのに気づいて、アレクも慌てて手を離す。


「そうだ、良ければ付けてみてくれないか?」


 アレクが繊細な金細工の首飾りを手に取る。アレクの言った通り、私の瞳ほどの大きさのサファイアが繊細な金の台座に連なって、合間に小さなイエローサファイアが散りばめられていた。


「ありがとう。」


 髪を上げれば、アレクが後ろに回って付けてくれる。いつもには無い距離に、自然と心臓が速くなる。うう、良い匂いがする。


「うん、良く似合ってるな。」


 嬉しそうに微笑むアレクに、思わず勘違いしそうになって、首を横に振った。


「このイエローサファイアは、アレクの瞳に似ているわね。」


 アレクの瞳はどちらかといえば琥珀色だけど、近いと言えなくもない。


「......嫌だったか?」


 やはり寄せてくれたのか。エドワード王子への配慮だろうが、気持ちがありがたい。


「ううん、嬉しい。」


「......っ。」


 微笑めば、アレクの顔が赤くなる。小さな声で「そうか、嬉しいのか。」と呟いている。


 なんだか普通の高校生カップルみたいで少し嬉しい。いや、好きな人がいる人相手に何を考えているんだという感じだけど。


「私もアレクにタイを用意しても良いかな?」


 お返しに、迷惑でなければ。と告げると、大きく目を見開いた後、


「嬉しいよ。楽しみにしておく。」


 と笑顔で言われた。あまりの色気にあてられて、思わず心の中で、そうか、嬉しいのか。と呟いてしまったのはここだけの話だ。


✳︎


 歓迎パーティー当日。出来上がったドレスを着せてもらい、アレクにもらったアクセサリーを身につける。

 鏡を見れば、思った以上にドレス姿が様になっており、さすがは『ヒロイン』、転生して良かった数少ないことの一つだ。


 今日エスコートしてもらう予定のアレクの元へ戻ると、支度の終わったユリナと談笑していた。


「お待たせ。」


 こちらを見た瞬間に大きく目を見開いて、嬉しそうに笑う。


「綺麗だな。よく、似合ってる。」


 宝石のことだとはわかっていても、一瞬自分のことを言われたのかと赤面してしまい、照れ隠しに思わず首元のサファイアを撫でた。


 チラッと見れば、アレクの首元には私があげたオレンジ色のタイが身につけられている。紺碧の糸でイニシャルを刺繍したが、私の瞳の色で良いのかな、と迷って結局近い色で刺繍をした。


 流石に全く同じ色にする勇気は無かったけれど、アレクにもらったイエローサファイアも、アレクの瞳とは絶妙に違う色彩であったので、これはアレクの意思を尊重しているのだ、と思うことにする。


 アレクも素敵ね、と言おうとしたところで、後ろに圧を感じて振り返れば、ユリナに肩を掴まれた。


「素敵なサファイアね。」


 ユリナに思わせぶりに微笑まれ、そうね。と返す。


「アレクも、素敵なタイね。」


「そうだな。」


 アレクにも楽しそうに話しかけている。


「もー、二人とももう少し照れてくれないと。」


 そうは言われても、と二人で目を合わせた。

 アレクにネックレスを貰った。と伝えてから、毎日のようにこれである。照れも通り越して慣れてしまった。


「そういうユリナだって、素敵なアメジストじゃない。」


 数日前に、エドワード王子にエスコートされることになったユリナは、エスコート相手を引き受けるお礼にと、エドワード王子の瞳の色、アメジストのアクセサリーを一揃い頂いていた。


「これは、エドワード王子のお相手をしたことのある方はみんな頂いているものよ。」


 ファンサービスみたいなものよね。と、ユリナは一人で頷いている。


「そんなこと言って、花の色を変えたの気づいてるわよ。」


 チュールドレスの下に、花の魔術師らしく生花を透けさせる予定だったが、急遽その花をアクセサリーに合わせたラベンダーカラーに変更したと聞いた。


「それは......その......とても嬉しいもの。ファンなんだから当然でしょう。」


 最初は照れ臭そうに、最後は開き直るように言う様子が可愛らしくて思わず笑ってしまった。


「それで、そのエドワード王子は?」


「新入生を代表してご挨拶される予定だから、生徒会と打ち合わせじゃないかしら。」


 1学年の生徒が入場した後、代表の男女が揃って生徒会長に挨拶しに行き、生徒会長から言葉をもらう。

 今年は、エドワード王子と、ノースモンド公爵令嬢がご挨拶されると聞いていた。


「そのままノースモンド公爵令嬢をエスコートされないのね。」


 ユリナと一緒に入場して、公爵令嬢と挨拶に伺い、またユリナの元に戻ってくる。少し違和感がある。


「それは、ほら。公爵家はアーサー殿下の妃にと考えておられるもの。」


 間違っても見染められることの無いように、との判断だろう、と。


「公爵令嬢も金髪で太陽の女神のようだ、と言われているから。リーチェが気に入られたことで過敏になっているのではないかしら。」


「私!?」


 思いがけないところで自分の話題が出てきて驚く。


「鳥じゃないのだから、色彩で相手を選ぶわけがないと言うのに。浅はかよね。」


 珍しくユリナが毒のある言葉を吐いた。ファンのエドワード王子が軽んじられたのが気に入らないのだろうか。


 


次は火曜日の投稿です。

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