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1-26 流行は大体繰り返される

 あれから、ノートリアム卿についてうまく思い出せない。思い出せないということは、差し迫った危機は無いということでもあるのかな?


 新入生歓迎会を2週間前に控え、学園お抱えの衣裳店が各クラスを回ってドレスやスーツのデザインを決めていく。


 ドレスを仕立てるなんて初めてだから、特にこうしたい、という要望もない。というか出せない。


 伝統的に新入生は白を着る、という決まりがあるため、白い生地とだけ決定していた。


「自分一人でドレスの要望を出したことなんて無かったから、疲れたわ。」


「お疲れ様。」


 ユリナがデザイナーとの打ち合わせを終えて、私の横に座る。順番をまっている間は自由時間だ。


「リーチェはドレスのデザインは今までどうしていたの?」


「思い出せないのよね。」


「不便ねぇ。」


 頬に手を当てて、気の毒そうな目で見られた。

 ニコラス先生の記憶への見立ては、ユリナとアレク、ついでに都合の良いところだけピックアップしてエドワード王子にも伝えた。


「寮のクローゼットには困らない程度に好みのドレスがあったから、普通に仕立てていたとは思うんだけど。普通はどうするの?」


「基本的には母と一緒に仕立てる子が多いかしら。学園を卒業するぐらいの年齢になると自分で行きつけの衣装店やお抱えのデザイナーを持つ人がほとんどね。」


 なるほど。あの可愛らしいデザインは母の趣味か。


「ユリナはどんなデザインにしたの?」


「今年の流行はウエストのところでV字に切り替えのあるドレスだと聞いているからその形にしたわ。スカート上からレースを重ねてレースとスカートの生地の間に生花を散らすことにしたの。王都のデザイナーって画期的ね。」


 勢いよく話すユリナからは、興奮が伝わってくる。

 

 お菓子とお洒落が好きな花の魔術師って、ヒロイン属性がドンドン追加されている。


「リーチェ様、呼ばれていますよ。」


 近くの生徒に呼ばれて立ち上がる。呼んでくれた子に御礼を言いつつ、デザイナーの元へ向かった。



「なるべく目立ちすぎない方が良いんですが。」


「皆さん目立とうとされますから、目立たないようにされますと逆効果になりますが。」


 忌憚のないデザイナーの意見に、ぐうの音も出ず唸る。


「光の魔術師様は、皆様の関心も高いでしょうし。ご自身が一番美しく見えることに重点を置かれた方が良いかと、差し出がましくも思いますわ。」


「......わかりました。そちらでお願いします。」


 押し問答をする少し前、リーチェがデザイナーの元に顔を出すと、資料から顔を上げてから一瞬、「閃きました!!」と声を上げてすごい勢いでデッサンを書き上げた。


 ユリナの言っていたV字の切り替えはどこに?というほど、綺麗なAラインのドレスだ。


 胸元から腰にかけて金糸とパールで花の刺繍が描かれている。かろうじて流行を押さえたV字の刺繍は、花がスカート部分に視線を誘導するように流れていた。スカートは、チュールレースが何重にも重ねられている。。


 綺麗だとは思うけど、気合を入れすぎでは無いだろうか。


 引き攣った顔で恐る恐る抗議の声を上げれば、よく分からないまま説得される形となった。


「やっぱり王都のデザイナーって、きば......画期的ねぇ。」


 戻ってきて、ユリナにデザイン案を見せれば、奇抜、と言いかけて淑女らしく画期的と言い直した。


「あ、そうだ。アクセサリーは何色にするの?」


「そうね、瞳の色に合わせてはどうかと提案されたわ。」


 熱量を思い出して、あれは提案というよりはプレゼンに近いと遠い目をする。


「そうなのね。婚約者のいる方達ははお互いの瞳の色で揃えているようだから。」


「素敵ね。羨ましいわ。」


 異世界といっても、カップルはカップル。年齢で言えば高校生カップルになるわけで。微笑ましさから口角があがる。


 金額は微笑ましくないだろうが。


「エドワード王子あたりは、リーチェに宝石をプレゼントしそうな気もするけど。」


「それは、絶対固辞するわ。」


 そんな外堀を固められるようなこと絶対ごめんだ。断固拒否。


「そこまで強く言い切られると落ち込むなぁ。」


 楽しそうな声が聞こえて慌てて振り返る。


「エドワード王子!隣のクラスでは?」


「リーチェのドレスが気になって、抜けてきちゃった。」


 悪戯っぽくウィンクをする。確かにエドワード王子にとってみれば学園の授業など退屈だろう。


「安心してよ。友人の大切な人にパーティー用の宝石を贈るほど野暮じゃないから。」


 ね、とアレクに甘い目を向ける。困ったように、「ええ、まぁ。」と濁す姿に心の中で手を合わせた。


「二人はお互いの瞳の色を装飾にしないの?」


 タイを蒼に、アクセサリーを瞳の金色に近い琥珀色に。


「エドワード王子、リーチェは伯爵家の跡取りで、婿を取る身ですから。私達の関係がどうこうなることはありません。私の個人的な感情を、どうか静かに見守ってもらえますか?」


 人差し指を口元に当てて、エドワード王子相手になんという色気を醸し出しているのか。ユリナ始め、何人かの女生徒が悶えながら凝視している。


 お色気キャラの本領を如何なく発揮しながらの懇願に、エドワード王子も負けず劣らず可愛らしく笑んで私を振り返った。


「リーチェ、もしアレクを好きになったら僕を頼ってよ。これでも王子だから、2人の恋のための協力は惜しまないからね。」


 コソッと、耳元で囁かれて思わず顔が赤くなる。慌てて頷くと、そのまま手元のデザイン画に視線が移された。


「これが、その画期的なドレス?」


「あ、はい。」


 エドワード王子は宝石産出国の王子なので、美意識も高いだろう。このデザインが問題無いかみてもらえればありがたい。


「うん、良いね。リーチェが着たらこの形も再流行するんじゃないかな。」


 私が着たら?と首をかしげるとエドワード王子が頷いた。


「前の光の魔術師も、このラインのドレスを流行らせたんだよ。良く勉強しているデザイナーだね。うん。レースや刺繍は流行りのものを取り入れているし、古臭くはならないよ。」


私にデザイン画を返しながら、目を細めてうっとりと微笑む。


「このドレスを着たリーチェに会えるのが今からとても楽しみだな。」


 この、狂気の見え隠れする瞬間さえ無ければ、良いお友達になれそうなのにな、とため息をつきたくなった。


次は木曜日の投稿です。

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